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剣聖と聖女の帰還

剣聖、騎士の矜持を説く

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 エドナ、ジスタル、リアーナ……そしてバルド。
 それぞれの想いを抱きながら、それぞれが行動する。
 そしてついに……彼らは運命の邂逅を果たすことになる。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「と、止まれ!!」

「なんで出てきたジスタル!!今度こそ罪に問われるぞ!?」

「というか、どうやって外に……!?」


 デニスと別れ、地下牢から出て息を潜めながら行動していたジスタルだが……すぐに巡回の兵に見つかってしまう。
 そして瞬く間に多くの兵や騎士たちが集結し、彼の行く手に立ちはだかった。


「やれやれ……早々に見つかってしまうとは、俺もツイてないな。……すみません先輩方、俺は陛下ともう一度お話したいんで、ちょっとそこを通してもらえませんかね?」

 彼はため息を零してから、気軽な口調でそう告げる。
 だが彼の目的が王である事を聞いた騎士たちは、即座に臨戦態勢となって身構えた。

 ジスタルはしかし、それに焦りを見せる様子もなく悠然と歩を進める。
 その足取りはあくまでも自然だ。

 当然それを止めるべく騎士たちは幾重にも彼を取り囲むのだが……


「くっ……」

「な、なんというプレッシャーだ……」

「これが『剣聖』の力だというのか……」

 一見して何気ない表情と足取りで進むジスタルであるが、その身体から揺らめく炎にも似たプレッシャーが立ち昇っている。
 それは、『闘気』とか『剣気』……あるいは単に『氣』と呼ばれる、極限まで鍛えられた強者が放つ生命エネルギーだ。
 騎士たちはそれに気圧され、ジスタルのゆったりとした歩みに合わせて囲みを維持しながらもジリジリと後退る。

 しかし、彼らとて王国騎士の精鋭だ。
 その誇りにかけて、恐れ慄き萎縮する身体に活を入れる。
 そして。


「はぁーーっっ!!」

「せいやーーーっっ!!」

「うぉーーっっ!!」


 数人の騎士が裂帛の気合を放ちながら、四方から同時にジスタルに斬りかかった。
 そこに同僚に対する手加減など一切なく、多対一であることを躊躇う様子もない。
 圧倒的な実力差を肌で感じた彼らにとって、それほど余裕がないということだろう。


 そして、その結果……


「……?」

「えっ……」

「……は?」

 ジスタルに斬りかかった騎士たちの口から、呆けたような声が漏る。

 そして……甲高い金属音が響き渡った。


「ば、馬鹿な……」

「剣を……斬り落とした・・・・・・だと!?」

 攻撃に加わった騎士たちだけでなく、ジスタルを除いたその場の誰もが驚愕の声を上げる。

 彼らの視線の先には、ジスタルに向かって剣を振り下ろした体勢のまま固まった騎士たち。
 騎士たちが手にしていたはずの剣……いや、今もしっかりと剣の柄は握っているが、柄の先にあるはずの刃がすっかり失われているではないか。
 そして、先ほどの甲高い金属音の発生源に目をやれば……いくつもの白銀の輝きが散らばっていた。


「あ~、すみません。備品・・を壊しちまった分は、退職金から引いといてください」

 この期に及んでもなお気軽な口調であるジスタルだったが、その場に居合わせた者たちは、彼の言葉に並々ならぬ決意を感じとった。


 呆然と立ちすくんでしまった騎士たちをよそに、ジスタルはその歩みを止めることなく先に進もうとする。
 だが、尚も彼の前に立ちはだかるものが居た。


「師匠!!」

 大きな声でそう叫んだのは、まだ十代と思しき少年。
 その格好は周囲の騎士たちと同じであることから、彼も騎士の一人であるらしいが……


「……ディラックか。俺は弟子をとった覚えは無いんだがな……」

「何言ってるんですか!!師匠から数々のアドバイスを受けたからこそ、俺は騎士になることができたっす!これを師匠と呼ばずして、なんと言うんすか!!」

「アドバイスって言ったって……一言二言くらいだろ。それも基礎中の基礎だ」

「それが俺にとってはなによりの金言だったって事っす!!」

 ディラックと呼ばれた少年の言葉に、どこか困ったような表情を浮かべジスタルは立ち止まった。


「剣技だけでは無いっす!師匠には騎士の矜持の何たるかも教えてもらったっす!!なのに……なぜ師匠は主君に逆らうような真似を!?」

 少年騎士ディラックが張り上げた声は、どこか懇願するかのような響きが含まれていた。

 その純粋で真摯な様子に、ジスタルは表情を改めて……他の騎士たちにも言い聞かせるように応える。


「主君に剣を捧げて忠誠を誓う……それは確かに正しい騎士の姿だろう。しかし、主君が道を誤ろうとしているのなら、それを諌めるのもまた臣下の務め」

「道を誤る……じゃあ、やっぱりあの噂は……」

「俺は前回、それを確かめるために陛下にお会いした。そして陛下はそれを否定なさらなかった。ただ『王の責務を果たすため』である……と」

 そのジスタルの言葉に、ディラックのみならず多くの騎士たちが戸惑いの表情を浮かべる。
 何人か複雑そうな様子であるのは、既にそれが事実であることを知っているという事だろうか。


「確かに、血筋を残すことは王の責務の一つだろう。王族貴族ともなれば、愛情よりも様々な思惑が優先することもあるかもしれない。だが……半ば強制的に立場の弱い女性たちを後宮に集めるのは、王として正しい行いなのだろうか?神殿以外に拠り所のない聖女たちをも……金品を対価にして。そんな人身売買のような事がまかり通って良いのか?」

 彼のその言葉は騎士たちの心を大いに揺さぶる。

 果たしてジスタルは、再び王に会うことが叶うのか?
 彼の諫言は王の道を正すことができるのか?

 そして彼は……彼にとって大切な者を救うことができるのか?

 今、事態は大きく動こうとしていた。
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