上 下
107 / 144
剣聖と聖女の帰還

聖女、大神官と対面する

しおりを挟む


「……お前、そんなことしてたのか?」

「あら、言ってなかったかしら?」

 過去のエドナの行動……大神官の部屋にこっそり忍び込んで面会していた事を初めて聞いたジスタルは、呆れたように言うが妻は悪びれずにとぼける。


「とにかく。私はミゲルに面会して、姉の所在を聞き出そうとしたのよ。それで……予想通り、あいつは姉さんの事を知っていたのだけど……」


 その時、当時の大神官ミゲルはエドナに何を語ったのか。
 彼女は話を続ける。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「リアーナに……姉に会いたいか?」

 大神官ミゲルはエドナから姉の所在を聞かれ、怪しげな笑みを浮かべながら……逆にそんな事を聞いてきた。


「もちろんです」

 『姉に会いたいか』と聞かれれば、エドナの答えはもちろん決まっているから、彼女は迷うことなくきっぱりと答る。


「そうか……まあ、当然であろうな。……お前は姉がいなくなった理由を何と聞いている?」

「え……?それは……『良縁があった』……って。でも、そんなはずありません!」

 それは姉だけでなく、他の聖女たちがいなくなった理由としても聞かされていたものだ。
 だが、そんなものは到底信じられなかった。


「嘘ではないぞ。お前の姉も、他の聖女たちも……王に見初められて後宮に迎えられたのだからな。まさしく『良縁』だろう?」

「後宮……?王様に見初められて……?何なの……それは……」

 思ってもみなかったミゲルの答えに、彼女は呆然となる。
 ただ、後宮というのはよく分からなかったが、王が聖女たちを集めているというのは理解した。


「それは……みんな納得しての事なんですか?」

「おお、もちろんだとも。王の後宮に入れば、何不自由無い生活が約束されるのだから当然ではないか」

「……姉さんも?」

 姉が自分に何も言わずそんな事を受け入れるはずがない……と彼女は思っている。


「リアーナか……確かに彼女は一度断ろうとしたが……」

 そこでミゲルは意味ありげな視線をエドナに向ける。

 リアーナは、一度は断ろうとしたが最終的には受け入れた。
 それは何故か?
 エドナは、彼の視線が意味するところを察してしまった。

「まさか……私をだし・・にしたんですか!?」

「ふふ……『王がエドナかお前を欲している』と言ったら、喜んで自ら進み出たのだぞ」

「なんてことを……」


 きっと他の聖女たちも弱みに付け込まれたのかもしれない。
 あるいは……もとより王の要求に逆らうことなど考えられなかったのかもしれないが。

 そしてエドナは姉が自分の身代わりになって王に召し上げられた事を知り、怒りがふつふつと湧いてくる。


 しかしそんなことはお構いなしに、ミゲルは続けた。


「どうだ?姉に会いたくば……お前も後宮に入れば良いのだ。ふふふ……その気があるならば、私が口添えしようではないか。ん?」

「そ、そんなの……!!」

 彼女はミゲルの言葉を即座に拒絶しようとしたが、その言葉を途中で飲み込む。


(王の後宮……というのがどんな所か分からないけど、おいそれと侵入できるような場所ではないはず。ジスタルも頼れないし。だったら……!)

 彼女は覚悟を決めて顔を上げる。

 そして。


「……わかりました。私も……王様の元に連れて行って下さい」

「そうかそうか、それは賢い選択だな。では、手配するから自室で待て。……そうそう、他言は無用だぞ。違えれば……分かるな?」

 ミゲルの念押しに、無言で頷くエドナ。


 もう後には引き返せない。
 姉に会って……王に直訴する。
 それですんなり返してくれるなら、それで良し。
 そうでなければ、力尽くでも……

 彼女はそんな事を内心で考えていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 大神官の執務室を辞したエドナは、また人目につかないように自室へと戻る。
 もともとは姉と一緒に暮らしていた部屋。
 リアーナがいなくなってからまだ数日だが、一人で使うには広すぎる……とエドナは感じていた。


「姉さん……待ってて、必ず助けるから」

 ミゲルは『自ら進んで』などと言っていたが、そんなのは嘘に決まっている。
 他の聖女たちだって嫌々連れて行かれたに違いない……と、彼女は考えていた。


 そして、神殿の最高権力者である大神官と、国の最高権力者である王の意思によるものなら、神殿上層部も騎士団もあてにならない。
 ならば自分で動くしかない……と考えたからこそ、彼女はミゲルの提案を受け入れたのだ。


 せめて義母のミラには話しておくべきか?
 そう考えもしたが、彼女の立場を危うくしかねない、巻き込むわけにはいかない……そう思えば相談することもできなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...