85 / 145
剣聖の娘、裏組織と戦う!
太陽の娘
しおりを挟む「ねえねえ、ちょっといいかな?」
「……え?わ、わたし……?」
クララから話を聞いて、彼女を励ましたあと……エステルは情報収集のため他の少女からも話を聞こうとした。
クララにはエステルが囮として潜入している事は話したが……一応、秘密の任務なので他の少女達には伏せる事にした。
ただ、少しは安心させたかったので、騎士団が動き始めているということだけは伝えるつもりのようだ。
最初に声をかけた少女はずっと呆然と座っていただけだったが、まさか自分が声をかけられるとは思ってもみなかったらしく、戸惑いの表情を見せている。
泣き腫らしていたのか目は真っ赤に充血し、頬に涙が伝った跡が残っているのが痛々しい。
エステルは胸が締め付けられたが、ことさら明るい調子で少女に接する。
彼女もその雰囲気につられたのか、多少は表情も和らぐ。
「ちょっと聞きたいんだけど……あ、言いたくなかったら言わなくてもいいから」
「う、うん……何かしら……?」
少女の了承を得てから、少し慎重にエステルは問う。
「あなたが攫われたのは……王都のどの辺りだった?」
「え……?ええと、確か……南街区の……」
「ふむふむ……それで、やっぱり『宵闇亭』ってお店から地下に……?」
「い、いえ……目隠しされて場所は分からなかったけど、私を捕まえた人は確か……『新月亭』って言ってたわ」
「ふむ……私とは別の場所なんだね……」
そうやってエステルは少女から連れ去られた経緯を聞き出した。
そして、他の少女たちにも同様に聞き込みを行っていく。
中には憔悴しきって喋ることもままならない少女もいたが、エステルが癒やしの奇跡を使うと喋られるくらいには元気を取り戻した。
本来、聖女の癒やしの奇跡は精神的な要因を取り除く事は出来ないのだが……もしかしたら、彼女のありあまる元気が癒やしの力を良い方向に作用させたのかもしれない。
その少女だけでなく、エステルが声をかけた者は程度の差こそあるものの、誰もが少し元気を取り戻したようだ。
そして、最初は誰もがうつむき会話などする気力も無かった少女達は……いつしか、そこかしこでお喋りを始めていた。
同じ境遇の者同士……ある意味、仲間意識が芽生えたと言うこともあろうが、彼女たちを結びつけたのはエステルだ。
いまも、少女たちの中心となって明るい笑顔を振りまいていた。
その様子を少し離れたところで見ていたクララは、彼女こそ太陽の女神エル・ノイアが遣わしてくれた聖なる乙女だと思った。
まだ助かる確証など無いはずなのに、彼女の力ある言葉に誰もが勇気づけられ希望を抱いている。
(ティーナお姉ちゃん、エステルさんに助けを求めてくれてありがとう)
そして、彼女に自分を助けてくれるよう懇願してくれたであろう姉にも、心の中で感謝するのだった。
(……というのが、人攫いたちの連絡拠点となってるお店ですね。『宵闇亭』以外にも結構あちこちにあったんですね~)
(ああ、そうだな……これまでもいくつか連絡拠点は潰してきたんだが。捕まえられたのは末端の構成員ばかりだった。しかし……流石に今聞いた全ての拠点を一斉に摘発すれば、おそらくボロも出るはず。もう少し幹部の情報も得られれば……今度こそ中枢を叩き潰してやる……!)
アルドの決意の思いが、念話でもはっきりとエステルに伝わってくる。
普段は温厚で優しく思慮深い彼(※エステル視点)の、民を思う熱い心を感じたエステルは……
(アルド陛下、カッコいいです!!)
と、素直に称賛した。
(う、うむ……)
想い人からそんなことを言われれば、当然彼も悪い気はしない。
だから、冷静を装って鷹揚に返すものの、顔が緩んでしまうのは仕方のないことだろう。
「……なにニヤニヤしてるんすか?まさか、エステル嬢と念話越しにイチャついてるんじゃないでしょうね?」
「イチャつくと言うか……多分、『陛下、カッコいい!』とか言われたんじゃないですかね?」
「あ~、言いそうだよなぁ……特に他意もなく」
「そうそう。特に他意もなく」
アルドがエステルと念話で話している様子を周りで見ていたディセフとクレイが好き勝手に言うが、それは大体合っている。
「お前ら……まあ、いい。エステルが少女たちから聞いた情報だ。『宵闇亭』以外の連絡拠点となってる店のいくつかが判明した」
二人にジト目を向けたアルドだったが、直ぐに真面目な表情になってエステルから得た情報を部下たちに伝える。
「おお……早速そんな情報が入るとは……!急ぎ監視の手配をします!」
「頼んだ。ここ『宵闇亭』の現場も引き続き交代で監視しろ。それから……」
テキパキと各方面に指示を飛ばすアルドとディセフ。
クレイはその様子を眺めながら思った。
(アイツがちゃんと潜入任務をこなしているだと……!?信じられん……!)
相変わらずエステルに対しては失礼な男である。
「クレイ、ギデオン。俺たちは神殿の方に向かうぞ。そこが『宵闇の翼』の本拠地かどうかはまだ分からんが……重要な施設であるのは間違いない」
「「はッ!」」
アルドとクレイ、そして店から出てきて合流したギデオン、ほか何人かの騎士たちは、夜の闇に紛れるように静かに移動を開始する。
目指すはエステルが潜入したと思われる場所……エル・ノイア神殿。
(アイツにばっか活躍されたら……調子に乗るのが目に見えてる。早く俺にも活躍の機会が巡ってくれば良いんだが)
他の者たちと歩調を合わせながら進むクレイは、内心でそんな事を思うくらいには余裕があるようだった。
3
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。
歩く、歩く。
ファンタジー
魔王が女騎士を拾った。「くっ、殺せ!」と言うものだから、望み通り虐待してやる事にした。
騎士に呪いをかけて魔界へ連れ込み、薬品を入れた風呂に浸けてのお湯責め。その後、騎士が絶句するような服を着せ、この世のものとは思えぬ食事を与えてやった。
粗末な部屋に閉じ込めて一夜を過ごさせ、民衆の前で引き回しの刑にしてやる。合間に部下を𠮟りつけ、女騎士に威厳を示すのも忘れない。
その後魔王は、女騎士に一生働くよう奴隷契約を結ばせた。あまりの条件に女騎士は打ちのめされ、魔王からの虐待に心が折れて、人間界への帰還を諦めてしまう。
やがて数々の虐待に屈した女騎士は、魔王に絶対服従を誓ってしまった。
彼女はその後の生涯を、魔王の孕み袋として生きるしかなくなったのであった。
※あらすじは大体合っています。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい
白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」
伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる