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剣聖の娘、裏組織と戦う!
囚われの少女たち2
しおりを挟むついに攫われた女性たちの監禁場所に潜入を果たしたエステル。
そこには想像以上に多くの美しい少女たちが囚われており、皆一様に暗い表情だ。
もう既に諦めた様子の者、さめざめと泣いている者、呆然として無表情の者……何れにしても言えることは、誰もが己の不幸を嘆き希望を失っている事だろう。
エステルが入ってきても、ちら……と一瞥しただけで、彼女たちに大きな反応は見られない。
また可哀想な女の子がやってきたのか、くらいの認識だろう。
彼女たちのその様子を見たエステルは、悪の組織に対する怒りが再燃し、絶対に壊滅させると決意を新たにする。
そして。
(……みんな、絶対に助けるからね!もう少しの辛抱だから。……あれ?あの子、どこかで見たような……?あ!もしかして……?)
エステルは少女の一人に見覚えがあるような気がして……心当たりの人物を思い出した。
「……ねぇねぇ。もしかしてあなた……クララさん?」
「え!?ど、どうして私の名前を……?」
悲しげにうつむいていた少女はエステルに声をかけられ、驚きで顔をバッ!と上げた。
「あ、やっぱり!ティーナさんに似てたから……直ぐに分かったよ」
少女……クララは、姉と似たような金髪に近い茶色の髪と緑色の瞳をしており、姉よりやや幼いその容姿もよく似ていた。
年のころはエステルと同じくらい。
ここに囚われている少女たちは何れも見目麗しい容姿の者ばかりだが……やはり彼女も、人攫いに目を付けられれしまったのか納得できるくらいの美貌の持ち主だった。
「お姉ちゃんの知り合いの方なんですか?」
「うん、私はエステル。ティーナさんにあなたを助けて欲しいって頼まれたんだ。あ、それは一応秘密ね」
エステルはクララを安心させるように微笑むと、少し声を落としてそう答える。
一応、彼女も潜入作戦である事は理解しているので、極力目立たないように……とは考えているのだ。
意外なことに。
極秘任務という言葉に酔ってるだけかも知れないが。
「助けるって……無理よ、ここはいつも見張られてるし、凄く強い用心棒がいるって聞いたわ」
「へぇ……強い用心棒かぁ……(戦う機会があるかな?)」
クララの『強い用心棒』という話に興味を示すエステル。
全く、ぶれない娘である。
「それよりも、怪我とかは無い?酷い目にあったりは……」
「それは大丈夫。手荒な真似はされてないし、食事もちゃんと出されてる。湯浴みもさせてもらえるし……衣食住は保証されてる。でも……それだけだわ」
それはあくまでも彼女たちが『商品』だから……と、言外にクララは言っている。
待遇に問題がないからと言って、楽観できるわけがないのだ。
「私達はね、これからオークションにかけられて、どこか遠くの外国に奴隷として売られて……誰かの所有物になって、慰み者にされる。それはもう、どうしようもないのよ……」
そう言って彼女は、ポロポロと涙を零す。
もうすっかり希望を失って諦めてしまっているが、二度と家族に会えないと思うと……耐え難い悲しみが心に去来するのは、彼女にはどうする事もできなかった。
「大丈夫……大丈夫だよ。いま、国王陛下や騎士団が裏組織壊滅のために動いてくれてるから」
エステルはクララを優しく抱き寄せながら言った。
「え……?どうして……あなたがそんなことを知ってるの?」
自分とさほど変わらない歳の少女が自信満々にそんなことを言うのを、彼女は不思議に思った。
自分と同じように、こんな場所に攫われてきたのに……何でこんなにも落ち着いてるのだろう、とも。
「私は『聖女騎士』のエステルだよ!陛下から『極秘任務』を命じられたの!」
「聖女騎士……?陛下から……?本当に……?」
「うん!だから……今は私を信じて。クララちゃんも、他のみんなも……必ず助け出してみせるから!」
その言葉をクララは直ぐには信じられず呆然とした様子でエステルを見つめる。
しかし、聖女騎士と名乗った少女が余りにも自信たっぷりに断言したので、やがて彼女の瞳にも希望の光が宿り、力強く頷き返す。
と、そこでアルドからの念話が届く。
(エステル、囚われた女性たちは確認できたか?)
(あ、陛下!はい、私もいま監禁場所に連れてこられました。二~三十人はいますね)
(結構な人数だな……捜索願が出てる者以外にも攫われた者がいるようだ)
ここ最近の王都で、行方不明になって捜索願が出ている娘たちの人数よりも多い事にアルドは驚く。
(女性たちの様子はどうだ?)
(元気はないですけど……ディセフさんが言ってた通り、取り敢えず乱暴はされてないみたいです)
(そうか。一先ずは良かった。エステル、すまないが……)
(分かってます。悪の親玉が姿を見せるまでは大人しくしてます)
エステルはアルドが申し訳無さそうに言おうとするのを先回りして応えた。
その時。
「エステルさん、どうしたの?」
突然黙り込んだエステルに、少し不安そうにクララが聞いてきた。
「あ、ううん、何でもないよ」
(陛下、しばらくは暇そうなんで、私は他の女の人たちからも情報を集めますね。出来る女ですから!)
(ふふ……そうだな、頼りにしている)
(任せてください!)
一先ず女性たちが無事であることが分かったので、エステルは暫くは落ち着いて情報収集を行うことにし、アルドもそれを了承する。
そして……二人とも、自分たちが暴走しかけていた事など忘却の彼方なのは言うまでもない。
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