上 下
81 / 144
剣聖の娘、裏組織と戦う!

ポンコツ王と秘密の地下通路

しおりを挟む

 『宵闇亭』の裏口から入った場所。
 そこは一見して単なる倉庫と思われたが、地下へ通じる階段が隠されていた。


「う~ん……なるほどなぁ……やはり店に秘密が隠されていたのか。おそらく地下通路か何かで別の場所に行けるようになってるんだろう」

 エステルの念話によってもたらされた情報に、ディセフは唸りながらそう言う。
 これまでほとんど手がかりが掴めなかった原因の一つは、この隠し通路の存在だろう。
 そして、そんな大掛かりな施設を準備できるところを見ると、やはり相当大きな組織が背後にいることを示している。


「よし!では総員突にゅ「いやいやいや!?待ってくださいって!!」

 宵闇亭に秘密があったと知るやいなや、アルドは配下の騎士たちに突入を命じようとしたが、慌ててディセフが止めに入る。


「陛下!!なにやってんすか!?まだ潜入したばっかじゃないですか!!」

「敵の地下施設が割れたんだ。もういいだろう?早くエステルを助け出さなければ!!」

「いやいやいや……まだ本拠地に通じてると決まったわけじゃないですし、今から突入してもトカゲの尻尾切りされるのがオチですよ。これまで散々やられてきたでしょ~に……」

「お前はエステルが心配じゃないのかっ!?」

「……いや、陛下から話を聞く限り、随分と余裕そうでしたけど。とにかく!!落ち着いてください!!エステル嬢が危なそうだったら直ぐに突入させますから!!」

「……ほんとだな?絶対だぞ?」

 何とかアルドの暴走を押し止めたディセフ。
 しかし、アルドは取り敢えずはいったん落ち着いたものの、何度もしつこく念押しする。


(あ~、もう……エステル嬢が絡むと途端にポンコツになるなぁ……当の娘もあんな調子だし……胃が痛ぇ……はぁ……)

 自分が言い出した作戦とはいえ、ディセフは内心でそんなふうに思いながらため息をつく。

 そこに、店の方で待機していたクレイが様子を見にやって来た。
 ギデオンは店に残してきたようだ。

「店の方は特に変わった動きはありません。……って、何やってんですか?」

「おお、クレイか。……お前も、今から突入しようとか言い出さないよな?」

 エステルの幼馴染である彼ならば、やはり彼女の事が心配だろうし……アルドと同じことを言い出さないかと、ディセフは疑心暗鬼になっている。


「……はぁ??今潜入したばかりで何言ってるんですか?作戦はまだ始まったばかりでしょう?」

「そうだよな。普通はそう思うよな。全くもってお前の言う通りだ」

 常識人クレイの言葉に、ディセフは救われたような気がした。

 しかし。


「クレイよ、お前はエステルが心配じゃないのか!?」

(あぁ……面倒くさ……)

 ディセフは内心で不敬な言葉で毒づいて、遠い目をする。
 その様子を見たクレイは、何となく事情を察してディセフに同情しながら、主君の言葉に答える。


「もちろん心配は心配ですが……アイツなら問題ないでしょう。……いや、どちらかというと作戦がぶち壊しになる心配の方が……」

「く……これが長年連れ添った幼馴染の絆か……!俺も彼女を信じて待つぞ……!」

 ……いや、クレイはエステルの強さに対しては絶大な信頼を置いてるが、作戦遂行能力に関しては微塵たりとも信頼してない。

 しかしアルドは都合よく(?)解釈して、二人の絆の強さの前に対抗心を燃やすのだった。


(……とりあえず収まったから、良いか)

 ディセフはその場が収集されたことに安堵し、密かにクレイに感謝する。
 そして……

(しかし、早く作戦を終わらせてエステル嬢を後宮に戻さないと……陛下が使い物にならないって、フレイに怒られそうだなぁ)

 などと、何度目かのため息をつくのだった……








 地上側でそんなやり取りが行われていたころ。
 連絡員の男に連れられ地下に降りたエステルは、ひたすら狭い通路を歩かされていた。
 階段を降りた先には、先が見通せないほどに細長い通路が続いていたのだ。

 男はエステルが逃げ出さないように、彼女の手を縛っている縄を掴んで後ろを歩く。


(……随分と古そうな通路みたい。ヘンな匂いもしないから下水道とかじゃないみたいだけど……)

「んん~んん、んんっんんん?(おに~さん、ここってどこ?)」

「何言ってるか分からん。……まぁ、もう外してもいいか」

 エステルが騒いだとしても、もう聞き咎めるものもいないだろうと判断した男は、彼女の猿轡を外した。


「ぷはっ!……ん~、ありがと、お兄さん……でいいのかな?」

「……何だ、本当に落ち着いてやがるな。お前、自分がどういう状況なのか分かってるのか?」

「そ、それはホラ!お兄さんみたいな強そうな人(あんまり強そうじゃないけど)から逃げようとしても無駄だろうし……」

「くくく……分かってるじゃないか。まぁ、こちらとしても大人しくしてくれてる方が助かるからな」

「そうそう。それで、ここってどういう所なんですか?」

 出来る聖女騎士エステルは、ただ黙ってついていくだけではなく情報収集も欠かさない。


「ここか?さあ……俺は単なる連絡係だからな。ただ命令に従って、女たちを監禁場所に連れてくだけだ。……『宵闇の翼』の全容を把握してる者なんざ、ごく限られた幹部連中だけだ」

「ふ~ん……(こいつも下っ端なんだ……)」

「……長生きしたかったら、あまり詮索しないほうがいいぞ。まぁ、お前の場合は長生きしても幸せとは限らんがな」

(む……その笑い方は、何かえっちなこと想像されてる気がする。縄引きちぎって全力のデコピンかましたい)

 ……多分死んでしまうので、やめてあげて下さい。



 男は喋りすぎたと思ったのか、エステルが質問を続けてもそれ以上は何も語ることはなかった。

 しかし、着実に裏組織には迫っているはず……
 エステルはそう思い直して、昏い通路を歩いていくのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

処理中です...