73 / 145
剣聖の娘、裏組織と戦う!
エステルvsクレイ2
しおりを挟む開始の合図とともに、まず動いたのはクレイだ。
彼は戦闘中とは思えないくらいにゆったりとした足取りで、エステルの方に歩を進める。
彼女は構えを崩さずその場に留まって、クレイを待ち受けていた。
そして、開始の位置から半分ほど距離を詰めたところで……突然クレイが爆発的な加速を見せる!
次の瞬間、ガンッ!!と、木剣を打ち鳴らす鈍い音が訓練場に響いた。
クレイが二本の剣をそれぞれ袈裟懸けに振るった攻撃を、エステルが横に構え直した大剣で纏めて防いだのだ。
この場にいる者で、今のクレイの攻撃を視認出来たのはほんの僅かしかいなかった。
二剣と大剣の鍔迫り合いは長くは続かない。
エステルは大剣を力ずくで押しやりながら、クレイの胴に蹴りを放つ!!
しかし、彼は大剣に押される力も利用して一瞬で後方に飛び退る。
逃さないとばかりにエステルは前に飛び出し、大剣を叩き込もうと振りかぶる。
クレイはそれに合わせてカウンターを狙うが……エステルは大剣を振りかぶった姿勢のまま大きく跳躍した!!
「何っ!?」
クレイのカウンターは空を切り、エステルは身体を翻しながら彼の頭上に舞い上がる。
そして……!
ドンッ!
彼女は天井を蹴って加速し、一気にクレイの背後に着地し、そのままバックハンドで大剣を振るう!
ガァンッ!!!
「あっぶねえ!!何てことしやがる!?」
「よく止めたじゃない!」
遠心力の乗ったエステルの一撃を、かろうじて二剣を交差させて防いだクレイ。
衝撃を吸収しきれないと咄嗟に判断した彼は、剣で受け止めながら後ろに飛んで退避している。
「お前、屋内戦の経験なんかあったっけか?」
「無いけど……今のは木の枝とかでもやったことあるよ」
「あ~……なるほどな。それにしても、俺を殺す気か?」
「このくらいクレイなら全然平気でしょ。まだまだ行くよ!!」
「はぁ~……勘弁してくれ。結構ギリギリなんだぞ、こっちは」
そんな弱音を言いながらも、クレイはエステルの怒涛の連撃を捌いていく。
言葉とは裏腹に余裕を持って対処しているようには見える。
そして、エステルの斬撃による衝撃波が訓練場の中を吹き荒れる。
木剣であるのにもかかわらず、それは当たればただでは済まされない威力を持っていた。
いくつかの斬撃波がマリアベルが張った結界に衝突する。
その度に、『バァンッ!!』と破壊音が響いて見学する者たちの肝を冷やすが、今のところ結界に綻びが生じる気配はなさそうだ。
「ディ、ディセフ様……彼等はいったい……?」
あまりにも隔絶した力を持つ二人の戦いに、ディセフの近くにいた騎士の一人が呆然となって聞いてくる。
「凄いだろう?ハッキリ言って、あの二人とまともに戦えるのは……陛下か団長くらいだろうな」
「……前倒しで入団させた意味が分かりましたよ。あれなら確かに即戦力ですね」
その騎士の言葉に、周りで聞いていた者たちも同意して頷く。
実力を知らしめて疑念を払拭するという、ディセフの目論見はもう達成されただろう。
「そうだろう。彼ら程ではないが、そこのギデオンも中々のものだぞ」
「……いえ、ありゃあレベルが全然違います。比較されても困るっすよ」
ついでとばかりにギデオンの事も売り込むディセフの言葉に、当の本人は複雑そうな表情で答えた。
「何だ、デカい図体をして随分と情けないことを言うじゃないか?」
「う……陛下……」
「王国騎士たる者、常に上を目指さなければならん。ましてやあんな頂きが目の前に見えてるなら尚更だろう」
アルドは、ギデオンに発破をかける。
それは彼だけでなく、周りで聞く者にも聞かせるためでもあったのだろう。
「陛下の仰る通りだ。俺とて彼らから見ればまだまだ未熟者だと痛感させられた。だが、それで腐る必要などない」
アルドの言葉に同意してディセフもそのように告げた。
そうしている間も二人の戦闘は続く。
幼馴染同士であり、これまで何度も手合わせしてきたのでお互いに手の内は知り尽くしている。
であれば、勝敗の行方は地力で勝る方に傾くわけだが……実際にエステルがクレイを圧倒し始めていた。
「はぁ~っ!!!」
「くっ……!!」
大剣をまるで小枝のように縦横無尽に振るうエステルの攻撃。
クレイは二剣を駆使して何とかそれを防ぎつつ反撃を試みるが……暴風のような彼女の攻撃の前に飲み込まれようとしていた。
(相変わらず出鱈目だな!!狙いすました緻密な斬撃を放ってきたかと思えば、力尽くのゴリ押しもある。……いや、8割はゴリ押しかもしれんが。どちらにしても厄介この上なない)
最初こそ受けに回ったが、エステルの戦闘スタイルは息をもつかせぬ圧倒的な攻撃力こそが持ち味だ。
父ジスタル仕込の剣の技はもちろんだが、相手の防御ごと吹き飛ばす力任せの一撃が連続で襲ってくるのは脅威以外の何ものでもない。
一旦調子付かせてしまうと、嵩に懸かって攻め立てられ反撃もままならなくなる。
(こいつめ……幼馴染の入団に華を添えるとか無いのかよっ!)
そんなものあるわけない。
彼女は相手の力量に合わせる事はあっても、それは手抜きなどではない。
面倒くさがりの彼女だが、こと剣術に関しては非常に真面目で全力を尽くすのだ。
もちろんクレイはそんな事分かってはいるが、いよいよ手がなくなってくると恨み言の一つも言いたくなるのである。
既に手がつけられないくらいにエステルの猛攻はとどまることを知らず、既にクレイは防戦一方となっていた。
(だが、このままで終わると思うなよ……!)
荒れ狂う暴風の中、クレイは起死回生の一撃の機会を虎視眈々と覗っていた。
2
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい
白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」
伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる