71 / 151
剣聖の娘、裏組織と戦う!
訓練場
しおりを挟む騎士団の訓練場にやって来たエステルは、暫くは騎士や兵士たちの訓練を興味深そうに見学していた。
訓練の内容としては……型をなぞって素振りをしたり、走り込みをしたり、筋トレしたり、手合わせしたり……様々だ。
(ふむ……『まあまあ』かな?この中だとディセフさんとギー君だけ飛び抜けてる感じかな~)
エステル評の『まあまあ』は、戦いを生業にするものとしてはベテランと言っても良いくらいの強さである。
そして以前評した通り、ディセフとギデオンは『そこそこ』ランクだ。
この中では突出した実力を持っているが、エステルの食指が動くほどではない。
ディセフは、若手らしい騎士に手合わせ形式で指導中。
ギデオンはまだ入団したばかりなので、取り敢えずは走り込みをする事にしたらしい。
(ん~……アルド陛下と同じくらい強いって言われてる騎士団長さんは今不在なんだっけ?)
会うのを楽しみにしていた騎士団長は現在遠征中……と、エステルはディセフから聞いていた。
そうすると、今この場で彼女が自分から手合わせしたいと思える者は特にいない。
(……そしたら、私も走り込みと素振りやって、クレイが来たら手合わせしようかな?)
そう考えた彼女は、キョロキョロと訓練場の中を見渡す。
そんな彼女の様子が気になるのか、チラチラ……と男たちが視線を向けるのだが、エステルは全く気が付かない。
訓練場の外周はかなりの距離があり、何人かが走っている。
エステルはギデオンがやって来るタイミングを見て走り出した。
「やほ、ギー君!」
ギデオンに合流したエステルは気軽に声をかけて並走を始めた。
「お、おう……そ、その『ギー君』ってのは止めてくれねぇか?」
初対面で心を奪われそうになった相手が話しかけてきたので、どもりながら彼は答える。
「なんで~?」
「な、何でって……」
もちろん気恥ずかしいからだが、それを言うのも意識しているようで気恥ずかしい……なんて複雑な男心のギデオンである。
……正直キモい。
そしてエステルは、そんな複雑な男心など理解するはずもない。
「……まぁいいか。しかし嬢ちゃ「エステル!」……エ、エステル?」
「なあに?」
「あんた、クレイより強えってのは本当か?」
名前呼びに少し照れながら、しかし彼は気になっていたことを聞く。
クレイの言う事を信じていない訳ではないのだが……こうして改めて見ても、強さを感じ取ることが出来ないのだ。
(殆ど全力疾走の俺に、息も乱さず平然と付いてくるあたり、只者じゃねぇのは分かるんだが……どうにもな……)
要するに、彼はまだエステルの可憐な見た目に惑わされてるのだ。
何なら折れた恋愛フラグも復活するかもしれない?
「ん~、クレイとは結構いい勝負になるけど……最近は負け無しだよ!」
「マジか……」
クレイのエステル評は、堂々の最高ランク『強い!』だ。
彼女が今までそう評したのは、彼と父ジスタル、そしてアルドだけだ。
「クレイが来たら手合わせしよ~かと……って、来たね!」
エステルが訓練場の入口に目をやれば、ちょうどアルドとクレイが姿を現したところだった。
そしてエステルはギデオンを置き去りにして一気に加速、他の騎士や兵士たちをゴボウ抜きにして、彼らのもとに駆け寄っていく。
「は、速え…………」
そのあまりのスピードにギデオンは呆然と呟くが、まだ彼女の本気の走りは、あんなものではないと知ったら……どんな反応を見せるのだろうか?
「クレイ!アルド陛下!て~あ~わ~せ~!!」
「……いきなりだな。少し落ち着け」
二人の前にやって来たエステルは、さっそく対戦を所望する。
先日アルドと対戦して多少は発散できたが、ここ最近は思うように鍛錬が出来ていない彼女は相当飢えていた。
クレイは苦笑しながら、そんな彼女を落ち着かせるが……
「ん……?クレイ、なんか元気ないね?大丈夫?」
エステルはクレイの様子の僅かな変化を察知して、心配そうに聞く。
男心には鈍感なくせに、そういう所は目ざとい。
長い付き合いだから些細な変化にも気付けるのだろうが……
アルドが複雑そうな表情を浮かべているのは、エステルにとって幼馴染の存在が特別なものだと感じたのだろう。
「そ、そうか?気のせいだろ」
一瞬ドキッとしながら、クレイは何でもない風を装う。
「そう?なら良いけど……。拾い食いでもしたのかと思ったよ」
「するか!?……お前じゃあるまいし」
「失礼な!!拾い食いなんかしないよ!!……それよりもさ~、クレイ~。手合わせしよ~よ~」
エステルはクレイの袖を掴んで揺らしながら、甘えるような声でおねだりするが……その内容には色気など全く無い。
だが、二人を見るアルドの目は益々不機嫌なものになる。
「待て待て……これから俺とギデオンの紹介がある……」
「いや、ちょうどいい機会だから、先に皆にお前達の実力を見てもらおうか」
クレイの言葉を遮ったのは、いつの間にか近くに来ていたディセフだ。
「陛下、よろしいですよね」
「ああ。直ぐに執務に戻ろうと思ったのだが……俺もクレイとエステルの戦いには興味があるな。二人とも、良いか?」
「……分かりました」
「もちろんです!」
主人たるアルドにそう言われては、クレイは断ることなど出来ない。
そして、エステルはもちろん大喜びで答える。
こうして、エステルVSクレイの戦いが行われる事になるのだった。
5
お気に入りに追加
1,167
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる