上 下
55 / 144
剣聖の娘、裏組織と戦う!

聖女騎士爆誕

しおりを挟む



「大丈夫ですか?」

「は、はい……助けて頂いてありがとうございました」

 攫われそうになっていた少女は、震える声でエステルに礼を言う。



 なお、彼女を攫おうとしたゴロツキどもはエステルが全員瞬殺(殺してない)した。
 描写することなど全くないくらいに一方的で、戦闘と呼ぶのもおこがましい。
 ドラゴンが蟻を踏み潰すが如くだった……とだけ言っておこう。

 その男どもはボロ雑巾のように地面に転がってピクピクしている。
 暫くは目を覚まさないだろう。
 ……もう二度と目覚めないなんて事はないはず。



「本当にありがとうございます。何とお礼を言えばよいか……」

「いえいえ、お礼なんて必要ないですよ!!騎士として当然の事をしただけです!」

 少し落ち着いた少女の改めてのお礼の言葉に、エステルは当然の事だと言う。
 騎士云々は置いておいて、それは彼女の本心である。


「騎士様……?」

 実は少女は、エステルが騎士だと言うのは半信半疑であった。
 自分より年若い少女であり、その格好も雰囲気も騎士をイメージさせるものなど何も無かったから。
 強いて言うなら背中の大剣くらいか。

 しかし、実際にエステルの圧倒的すぎる実力を目の当たりにすれば、信じざるを得ないだろう。
 ……まぁ、エステルは騎士ではないのだが。


 そして少女は顔を上げてエステルに縋り付くようにして言う。


「騎士様!!どうかお願いです!!私の……私の妹も助けてください!!」

「妹さん?……妹さんも、攫われたってこと?」

 『妹も』という言葉からすれば、そういうことなのだろう。


「はい……。私は攫われた妹を探していたのですが、それでこの人達に目をつけられてしまったらしく……」

「あ、ちょっと待ってね。先にその怪我を治しちゃいましょう!」

「……え?」

 その言葉の意味が分からず少女は戸惑う。
 しかしエステルはそれには応えずに意識を集中して聖句を唱えはじめ……

 暖かく優しい光が彼女の手から溢れ出し、少女の身体を包み込んでいく。


「え……?こ、これは……聖女さまの……?」

 癒やしの奇跡を使うことができるのは聖女だけ……一般にはそう認識されており、エステルのような野良聖女も少数ながら存在する事はあまり知られていない。


「私は聖女じゃないですよ~。…………でも、聖女で女騎士……聖女騎士?……うん!それ、すごく良いかも!」

 自分の言葉に満足そうに頷くエステル。
 どうやら彼女は新たな設定を盛り込んだようだ。


「聖女騎士さま…………」

 そして少女はうっとりとした目でエステルを見つめる。
 圧倒的な強さでゴロツキどもを叩き伏せて自分を救い出し、奇跡の力で怪我をも癒やしてくれる……少女にとって憧れの対象となるのは無理もないだろう。
 ……エステルの残念な中身はまだ知らないのだから尚更だ。



「よし!これで怪我は治ったね!……それじゃあ、妹さんの事を教えてくれますか?」

「あ、はい……実は…………」


 そして少女はエステルに事情を説明する。


 まず、彼女の名はティーナと言うそうだ。
 そして妹の名はクララ。
 姉妹は両親とともに王都近郊の町に住んでいる。

 数日前、姉妹は買い出しのため王都を訪れたのだが……そこで妹が行方不明になったとのこと。

 何でも、最近の王都では若い娘が攫われて闇オークションにかけられ、国外に奴隷として売られてしまうという事件が頻発しているらしい。
 この国では奴隷制度など無く人身売買は違法なのだが、国外には合法の国も少ないながら存在する。
 そのような国の奴隷商人とコネクションを持つ大規模な非合法組織が暗躍していると考えられている。

 実際に何度か闇オークションや取引の現場を摘発していることから、それは間違いないのだが……
 当然ながら国も全力で捜査に当たっているが、捕まるのは末端の構成員ばかりで、未だその全容は掴みきれていないのだ。

 そしてもちろん、ティーナも騎士団詰所に妹の捜査依頼を出している。
 しかし、そのような状況だから妹が無事に見つかる可能性は低い……と言われたらしい。


「それで……両親には止められたんですが、自分で少しでも妹の情報を集めようとしたんです。そうしたら……」

 今回の事件が起きた……ということだ。


「むむむ………そんな悪の組織が存在するなんて……許せないっ!!」

 ティーナの話を聞いたエステルの瞳は再び怒りに燃える。
 そして……


「分かったよ、ティーナさん!!妹さんはこの聖女騎士エステルの手で必ず救い出して見せる!!」

「ほ、本当ですか!?」

「うん!!それに、そんな悪の組織はギタギタのメタメタのケチョンケチョンにしてやるんだから!」

 エステルは両拳を握りしめ気合を入れると、そう宣言した。
 ……さっそく聖女騎士を名乗ってる。


 そして。


「取り敢えずコイツらから情報を聞き出そう!」

 と言って、ゴロツキのリーダー格の男の上半身を起こし、背中に膝を当てて両肩を掴む。
 気付けを施すつもりだろう。
 そして、一呼吸おいたあと……


「えいっ!!」

 ボギィッ!!!

「ごぶっ!?………………………………」


 人体が発してはいけない音がしたと思えば、男は一瞬だけカッ!と目を見開き、直ぐに再び白目になって泡を吹く。
 さらに断末魔の痙攣すら始めた……


「……あ、あれ?確か父さんはこうやってたんだけど…………やばっ!?止め刺しちゃった!?」


 段々と動かなくなる男を見て焦りを見せるエステル。
 そして大慌てで…………

「か、回復回復ぅ~~~っ!!!」

 癒やしの奇跡を使う。



 それでどうにか男は死の淵から蘇り、一命を取り留めるのだった…………

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...