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剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?

剣聖の娘は……?

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 クレイが模擬戦でギデオンに勝利を収め、その後も圧倒的な強さで全ての試合に勝利、騎士団登用試験の合格を確実なものにした頃。

 何故か後宮審査会に参加することになったエステルと言えば……

 第一、第二の課題をこなしたあとも様々な審査課題を受けていた。




 第三の課題は、貴族女性の嗜みの一つである刺繍だった。

 もちろんエステルは刺繍などしたことはないが、母の手伝いで繕い物などはしたことがあるし、手先は非常に器用なので、見様見真似でチャレンジしてなんとか完成させた。

 他の令嬢たちが綺麗な花や鳥などをモチーフとする中、エステルがモチーフに選んだのは何故かドラゴンだった。
 どれだけドラゴン好きなのだろうか?

 その出来栄えはお世辞にも上手とは言えなかったが、デフォルメされたドラゴンはゆる~い感じで味があって、奇妙な可愛らしさもあり、意外にも令嬢たちに大人気だった。



 第四の課題は芸術。

 楽器を嗜んでいる者はそれを披露したり、歌を歌ったり、自作の詩を朗読したり……

 もちろんエステルにそんな高尚な趣味は無い……と思われたが、母から教わった女神の神殿で歌われる賛美歌を披露することで乗り切った。

 ……というかエステルに色々仕込んでる母エドナが偉大すぎる。

 彼女の歌う歌は、透き通った美声と豊かな表現力で令嬢たちを感嘆させ虜にした。


 終始そんな調子なものだったから、令嬢たちの間には益々誤解が広がっていく。
 つまり、未だ社交界で見たことはないものの、美しさと教養を身に着けた高貴な令嬢である……と。

 レジーナやミレイユは近くでエステルの振る舞いを見て、その本性の片鱗に触れていたので、少し怪しいな……とは思っていたが、確証に至ってはいなかった。




 そしてその後もエステルは様々な課題をクリアしていき、その間に彼女は持ち前の謎コミュ力を発揮していつの間にか他の令嬢たちとも仲良くなっていく。


 果たして、今回の件を画策した者はそこまで予想したのだろうか?
 


 そして、全ての課題を終え……

「皆様お疲れ様でした。審査会はこれにて終了となりますが、結果が出るまでには数日のお時間を頂きたく存じます」

 ドリスがそう締めくくり、これで審査会は終了となった。



「ふう……やっと終った~!」

 エステルは、無事に審査会を乗り越えてほっと息をつく。
 慣れないドレスとヒールということもあって、流石の彼女もかなり疲れを見せていた。

 ……なお、彼女はこれが騎士登用試験であると最後まで信じていた。
 流石の彼女も、途中で何度か違和感を覚えたこともあったのだが……謎解釈で自己完結してしまったのだ。

 いったい刺繍や芸術が何をどうやったら騎士に結びついたのか……問い質したいところである。


「さて、じゃあ帰りますか……っと、その前に服を着替えないと」

「あ、その事なのですが……皆様、審査の結果が出るまで、このままこの後宮にお泊り頂くことになってます」

「へ?そうなんですか?……あ、そう言えばクレイはどうしてるんだろ?泊まると言っても何も言ってないしなぁ……」


 と、そこで初めてクレイの事を思い出したエステル。
 彼はエステルの事をずっと気にしていたというのに……この落差。
 しかし、彼に断りなく後宮に泊まるのは気が引けると思っただけでもマシだろう。


「お連れ様には既にお伝えしている、とお聞きしてますよ」

「あ、そうなんだ!じゃあ大丈夫ですね!」

 クレハのその一言でエステルは納得し、クレイの事は再び頭の隅に追いやられた。
 ……クレイが不憫すぎる。








 後宮審査会が終わり暫くしてから、王の執務室では早速その結果報告が行われていた。
 報告を行うのは審査会の場を取り仕切っていたドリス、報告を受けるのは王と宰相フレイだ。



「……ということで、滞りなく全て終了いたしました。詳細はこちらの資料をご覧ください」

 そう言ってドリスが差し出した資料を、王とフレイは確認し始める。
 二人が気になるのはやはりエステルの事だろう。


「陛下が気にされていたエステル嬢ですが……」

 二人がエステルの資料を探しているのを察して、ドリスは彼女の様子がどうだったか説明しようとした。


「あぁ……流石に平民の彼女が混じっていたのでは悪目立ちしていただろう?俺の我儘のせいで悪いことをしてしまったな……」

 フレイに諭されて冷静になった王は、自らの行いが招いた結果を想像して反省の言葉を零す。
 もともと手続きさえしてしまえば審査結果は自分の一存でどうにでもするつもりだった彼だが……冷静になって考えれば、不慣れな場所で不慣れなことをさせられて、恥をかいてしまったのではないかと思うと申し訳ない気持ちになったのだ。


 しかし。

 エステルは唯の平民の娘ではない。
 彼女の行動はいつも誰かを驚かせる。
 そして今回も王とフレイの予想の斜め上を行く。


「いえ……エステル嬢は他のご令嬢方から、かなり一目置かれていたかと存じます」

「何?どういうことだ……あぁ、エステルの資料はこれか。どれ………………何だと?これは本当か?」

「はい。そちらは紛れもなくエステル嬢の審査結果で御座います」

「……陛下、エステル嬢の結果がどうされたのですか?」

「見てみろ」

 そう言って王はエステルの審査結果が書かれた書類をフレイに渡す。
 彼が資料を読み進めると、その目は驚きで見開かれた。


「……彼女は平民でしたよね?」

「紛れもなくな」

「……ダンスは満点、他の審査項目も他の令嬢たちと比べて遜色がない……とは」

「いや、それも十分驚くべき事だが……所詮、審査項目など表向きに過ぎない。それよりも、あの気位と見栄が服を着ているような奴等から好意的に見られるなど……そちらの方が驚きだ」

「……陛下。そんな風に思ってた令嬢たちの間に、エステル嬢を放り込んだのですか?」

 フレイがジト目になってツッコミを入れる。

「……だから反省してると言っただろう」

 王はそっぽを向く向いて言い訳する。
 まるで子供だ。

「全く……初恋を拗らせた権力者というのは厄介なものです」

「お前、それ仮にも王に向かって言う言葉か……随分辛辣だな……んんっ!とにかく、俺の目に狂いはなかったと言う事だ」

「それはそうかも知れませんが……陛下、分かってますよね?」

 フレイは念押しする。
 エステルに手違いを説明して謝罪する……と言う事を、だ。

「……分かってる。だが、その上で俺は本気で口説き落とすぞ。それなら文句は無いだろ」

「そう……ですね、これほどの素養と人格であるならば、私に否やはありません。……ドリス、そういうことですから一先ずそのつもりで丁重にお迎えするように」

「はい、畏まりました。では私はこれで失礼します」




 こうして、エステルを後宮入させるために、彼女のあずかり知らぬところで話は進んでいく。

 しかし彼女は未だに、自分は騎士になるものだと信じて疑わない。


 果たして、この後のエステルの運命やいかに?
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