37 / 145
剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?
模擬戦
しおりを挟む騎士登用試験の会場では最後の試験である模擬戦が行われていた。
何れも腕に自身のある若者たちばかり。
自らの力で栄光を掴むため、熱い戦いが繰り広げられる。
裂帛の気合の声と剣を打ち鳴らす音が幾度となく響き渡り、試験官の宣言が勝者と敗者を分かつ。
そんな中、クレイは模擬戦の様子を視界に入れながら、気もそぞろに別の事を考えていた。
(エステル……別の会場で試験を受けてるだと?考えられるのは師匠の娘って事が分かって……特別待遇って事か?)
かつて名を馳せた剣聖の娘。
クレイからすれば理由はそれくらいしか思い浮かばなかった。
まさか今頃……貴族令嬢と力を合わせて料理を作ってそれを堪能しているなど、想像できるはずもないだろう。
(……まぁいい。ちゃんと試験を受けてるってんならそれで。わざわざ特別待遇にするくらいだし、あいつの実力なら合格は間違いないだろう。これ以上心配しても無駄だ。とにかく、今は自分が合格することだけを考えよう)
クレイはそう気持ちを切り替えて、初めて目の前の模擬戦に集中し始める。
模擬戦は一回きりではなく、何度か対戦が組まれている。
そして審査としては、勝利する事が重要である事に違いはないが、敗けたからといって直ちに不合格となるわけではないらしい。
試合の内容もある程度見られるとのことだった。
クレイ自身も既に一度対戦を行い、集中力に欠きながらも全く危なげなく勝利を収めていた。
(……こんなものか。油断するつもりはないが、これなら…………ん?アイツは確か)
暫く模擬戦の様子を見ていたクレイは、自分の脅威となりそうな相手は多くなさそうと感じていたが、ある男が試合に現れるとそれに注目する。
その男は筋骨隆々の大男……試験開始前にクレイとエステルに絡んできた男だった。
(さて……エステルの評価は『そこそこ』と言う事だったが、どんなものかな)
エステル評の『そこそこ』は、一般的には相当な強者となる。
シモン村の自警団メンバーの多くがこれに当たる。
因みにエステルの評価ランクは下から順にこんな感じだ。
『よく分かんない』<『あんまり強くない』<『まあまあ』<『そこそこ』<『強い!!』
エステルが『強い』と言った場合、彼女と同等レベルの実力を持つということになる。
今まで彼女がそう評したのは、父であるジスタルとクレイ、シモン村の何人か、そして先日出会ったアランくらいだった。
そして『そこそこ』という評価はそれより一段落ちるが、そもそも『強い』評価は人外レベルの者たちばかりのため、普通に考えれば十分過ぎるくらいの実力を持っている……と言うことになる。
そして試合が始まった。
試合開始の合図とともに、大男が一息で対戦相手との間合いに踏み込む!!
(速い……!!)
鈍重そうな見た目にも関わらず想像以上の俊敏な動きに、クレイは目を瞠る。
そして、一瞬で間合いを詰めた大男は、大剣を横薙ぎに大きく振り回す!
一見して無造作に見えるが、パワーとスピードも申し分なく鋭い一撃だ。
対戦相手はかろうじて剣を立ててそれを受け止めようとするが……!
ドガァッッッ!!!
「うわぁーーーーーっっっ!!?」
何と、防御した相手をそのまま吹き飛ばしてしまったではないか!
数メートルも吹き飛ばされた対戦相手は受け身も取れず地面に転がって、直ぐに起き上がることが出来ない。
「そこまで!!勝者、ギデオン!!」
試験官の騎士が宣言し、模擬戦はたったの一撃で決着が付いてしまった。
(……見た目通りのパワーファイターのようだが、単なる脳筋でも無さそうだ。……ギデオンと言ったな。確か俺の次の対戦相手の名前だったはず)
そして、勝利者であるギデオンがクレイの方にやって来る。
彼はクレイを見かけるとニヤリと笑って言い放つ。
「よう、確かクレイっつったな?一回戦は雑魚相手に勝てたようだが……次はこの俺だからな。今から覚悟しておくことだ」
「……ぬかせ。まぁ、唯の脳筋じゃないようだが、上には上がいることを教えてやるぞ」
「けっ!…………そ、そう言えば、あの嬢ちゃんがいねえみてえだが……どうしたんだ?」
クレイとのやり取りに悪態をついたあと、突然そわそわしながらそんな事を言うギデオン。
(あぁ……コイツ、エステルの事が気になってるんだっけか。アイツはやめておいた方がいいと思うがなぁ……。しかし、顔を赤らめて結構純情なんだなコイツ。すっげえ似合わねぇ……と言うか、きめぇ)
一先ず頭の隅に追いやった頭痛の種の事を聞かれ、更にギデオンの様子にもゲンナリするクレイ。
だが律儀にも彼は答える。
「……さあな。アイツとは受付のあとに別れたきり、それ以来姿を見てない。試験官に聞いた話では、別の会場で試験を受けてる……なんて言ってたが」
「別の会場……?なんだそりゃ?」
「知らん」
ギデオンに再び問われても、クレイにはそう答えることしか出来なかった。
2
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
劇ではいつも『木』の役だったわたしの異世界転生後の職業が『木』だった件……それでも大好きな王子様のために庶民から頑張って成り上がるもん!
ハイフィールド
ファンタジー
「苦しい恋をしていた……それでも生まれ変わったらわたし、あなたに会いたい」
商家の娘アーリャとして異世界転生したわたしは神の洗礼で得たギフトジョブが『木』でした……前世で演劇の役は全て『木』だったからって、これはあんまりだよ!
謎のジョブを得て目標も無く生きていたわたし……でも自国の第二王子様お披露目で見つけてしまったの……前世で大好きだったあなたを。
こうなったら何としてでも……謎のジョブでも何でも使って、また大好きなあなたに会いに行くんだから!!
そうです、これはですね謎ジョブ『木』を受け取ったアーリャが愛しの王子様を射止めるために、手段を選ばずあの手この手で奮闘する恋愛サクセスストーリー……になる予定なのです!!
1話1500~2000文字で書いてますので、5分足らずで軽く読めるかと思います。
九十五話ほどストックがありますが、それ以降は不定期になるのでぜひブックマークをお願いします。
七十話から第二部となり舞台が学園に移って悪役令嬢ものとなります。どういうことだってばよ!? と思われる方は是非とも物語を追って下さい。
いきなり第二部から読んでも面白い話になるよう作っています。
更新は不定期です……気長に待って下さい。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。
歩く、歩く。
ファンタジー
魔王が女騎士を拾った。「くっ、殺せ!」と言うものだから、望み通り虐待してやる事にした。
騎士に呪いをかけて魔界へ連れ込み、薬品を入れた風呂に浸けてのお湯責め。その後、騎士が絶句するような服を着せ、この世のものとは思えぬ食事を与えてやった。
粗末な部屋に閉じ込めて一夜を過ごさせ、民衆の前で引き回しの刑にしてやる。合間に部下を𠮟りつけ、女騎士に威厳を示すのも忘れない。
その後魔王は、女騎士に一生働くよう奴隷契約を結ばせた。あまりの条件に女騎士は打ちのめされ、魔王からの虐待に心が折れて、人間界への帰還を諦めてしまう。
やがて数々の虐待に屈した女騎士は、魔王に絶対服従を誓ってしまった。
彼女はその後の生涯を、魔王の孕み袋として生きるしかなくなったのであった。
※あらすじは大体合っています。
伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい
白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」
伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる