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剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?

食材選び

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 何人かのグループに分かれての料理対決と言う事だが……これまで料理をしたことが無いであろう高位貴族のご令嬢たちが作る料理は、果たしてどんなものになるのか想像もつかない。

 プロの料理人がアドバイスしてくれるとは言え、何を作るのかを決めて、実際に調理を行うのは彼女たちだ。
 先程まで文句を言っていた令嬢たちも、今は不安そうな表情だが……どこか興味深そうにしている様にも見える。

 そして各グループにサポートのための料理人が付く。
 やはり全員が女性だった。

 エステルたちのグループにも若い女性の料理人がやって来て挨拶をしてくれる。
 茶褐色の髪をショートヘアーにして白いコック帽を被り、同じく白のコックコートを着たいかにも料理人と言った清潔感のある雰囲気。

「今回、皆様方のサポートをさせていただきます、王城付き料理人のカテナと申します。直接手を出すことは出来ませんが、分からないことがありましたら遠慮なくご質問ください」

「よろしくお願いいたします」

「頼りにしているわ」

「エステルです!よろしくお願いします!」

 カテナの自己紹介を受けて、レジーナ、ミレイユ、エステルもそれぞれ挨拶を返す。


「さあ、早速ですが……あちらに食材や調味料をご用意しておりますので、ご覧になって作りたい料理をイメージして頂ければ……と思います」

 カテナが示した場所にはかなり大きめの調理台が置かれ、その上には肉や野菜などの食材が山となって置かれている。
 『この世の食材は全てここに!!』……というのは大げさだが、実に様々な種類のものがあり、あらゆる料理に対応出来るであろう。


 令嬢たちも興味津々で近付いて、サポートの料理人にあれこれ質問をしている。
 文句を言っていた令嬢たちもすっかり夢中になって確認していた。



「こんなに沢山の食材を見る機会はなかなかありませんわよね……これは何でしょうか?」

「そちらは白芋ですね。生では食べられませんが、煮たり蒸かしたりするとホクホクとした食感となります」

「これは何かしら?」

「橙長根ですね。生でも食べられますが、少し苦味があります。火を通すと甘みが出て食べやすくなります。白芋も橙長根も、様々な料理に使われる基本的な食材の一つです」

 丸のままの野菜など目にしたことがないレジーナとミレイユが、一つ一つ手にとっては質問する。
 カテナはそれに丁寧に答えていく。


「ね~ね~カテナさん、ドラゴンの肉は無いんですか?」

「「「は……?」」」

 エステルの唐突な質問に、3人が『何言ってるんだ、こいつ?』と言った様子で聞き返す。

 つい先日エステルが食したドラゴン肉は超高級食材である。
 王都の高位貴族ですら年に一度食べられるかどうか……というレベルの。
 そんなものをたまのご馳走程度と認識しているエステルたちシモン村の人々はちょっとおかしい。

「エステルさん……いくらなんでも、ドラゴンの肉なんてあるはずがないでしょう。王家でも殆んど食べる機会のないものですよ?」

「え……私、この間食べましたけど……確かにご馳走ですけど、年に何回かは食べますし」

「「「は!?」」」

 再び3人の声が重なるが、先程とは意味合いが異なる。

「え……?エステルの家って……実は凄い……?」

「?」

 ミレイユが呆然と呟くが、当のエステルは意味が分かっていない。
 彼女たちには想像もつかないことだろう……最強の魔物と言われているドラゴンが、シモン村では地産地消の食材に過ぎない事など……。

「ざ、残念ながらドラゴンの肉はこちらにはご用意がありません……。しかし、それには及びませんが、肉類は何れも最高級のものを取り揃えております」


 カテナはそう答えるしかなかった。

 実際、ここにある食材は何れも最高級のものばかり。
 王城や後宮の料理に使われるものなので、それも当然だろう。

「そっか~、大好物だったんですけど、無いなら仕方ないですね」

「「「……」」」

 もはや唖然として何も言葉が出ない3人であった。



「と、ところでレジーナ様?先程お話していた、この課題の意図なんですが……」

「ああ、あれですか。そうですね……」

 取り敢えずエステルの事は置いておいて、ミレイユは気を取り直して話題を変える。


「先程、エステルさんが言っていた通り、困難な事柄に皆で力を合わせて対処する……というのが一つ」

「一つ……というと、他にも?」

「あとはそうですね……恐らくは、私達に仕えてくれている使用人の方々の仕事がどんなものなのかを実際に体験する事で……いえ、ここからはご自分で考えるべき事ですね」

「自分で……分かりました。頑張ります」

「私も、頑張ります!!」


 レジーナは敢えて答えを言わなかった。
 それは、自分で気が付くことが重要であると思ったからだ。
 そしてそれこそが課題の本質である、とも。


「さあ、ともかく今は何を作るか決めましょう」

 そして再び食材選びを始めるエステルたち。
 カテナのアドバイスを受けながら、彼女たちが作る事にした料理とは、果たして何なのか……?

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