31 / 151
剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?
消えた少女
しおりを挟むエステルがドレスに着替えてダンスを踊っていた頃……
王国騎士団本部では、登用試験の筆記試験が終了し、面接も終えて実技試験に移るところだった。
なお、面接試験は受験者の人となりを見ながら、危険な思想を持つ者、人格破綻者などを篩にかける目的で行われる。
簡単な質疑応答のみなのでそれほど時間はかからなかった。
そして実技試験である。
騎士登用試験はここからが本番……と言っても過言ではないだろう。
当然のことながら、ここに集まった者たちは何れも自らの武勇を誇る者たちばかりだ。
これから激しい戦いが繰り広げられるに違いない。
「よし、騎士志望者は集まれ!!!」
騎士団本部の建物から再び野外の演習場へ集まる若者たち。
誰も彼もいよいよこの時が来た……と、やる気と自信に満ち溢れた表情である。
だが、この中から騎士に選ばれるのはほんの一握り。
与えられたチャンスを活かして掴み取るために必要なのは、自らの力と技……あるいは時の運だ。
「これからお前達には互いに模擬戦をしてもらう。こちらで予め組み合わせは決めてあるので、呼ばれたものは前に出ろ」
その説明の間、他の騎士が立て看板のようなものに対戦表が書かれている紙を貼り付けていた。
「組み合わせはここに載っているので、予め確認しておくといい。準備運動もしておけよ。それから……」
ルールや細々とした注意事項が説明される。
武器は安全面に配慮して、騎士団が用意した木製のものを使う。
ごくありふれたショートソードから大人の背丈ほどもある大剣、槍や斧などもある。
自身の得意武器に合わせて自由に選択が可能だ。
中には弓を得意とする者もいるらしいが、彼らは受験の申込時にその旨を申請しており、模擬戦ではなく別の場所でその腕前を披露することになるらしい。
「よし。では早速開始するぞ。先ず最初の対戦は……」
こうして、登用試験の最後にしてメインとなる試験が開始されたわけだが……
(……やっぱりアイツ、いないじゃないか!!どこへ行ったんだ!?)
クレイは辺りを見回して、受験者の中からエステルの姿を探そうとするが、一向に見当たらない。
(筆記試験からずっと姿が見えないから、ずっとおかしいと思っていたんだが……いったいどういう事なんだ?)
いくらエステルがトラブルメーカーだからと言っても、試験中にいなくなるなんて事は全くの想定外だ。
まさか今頃は豪華なドレスに着替えて、ご令嬢たちに混ざってダンスの腕前を競っているなど……いったい誰が想像できようか?
(……考えても分かるものじゃない。試験官の騎士なら何か事情を知ってるはずだ。聞いてみよう)
もっと早くそうしていれば良かった……などと思ってももはや後の祭り。
今はとにかく情報を集めなければならない。
そう思ったクレイは近くにいた騎士の一人に話しかける。
「あの……すみません」
「ん?どうした?君は確か……」
「あ、私はクレイと申します。その、ちょっとお聞きしたいのですが……私と一緒にここに来たはずのエステルという者の姿が見えないんですが、何かご存知ではないでしょうか?」
「ああ……君はあの女の子の連れか」
「ご存知なんですか!?」
やはり騎士たちは事情を知っているらしい。
「……彼女なら、ここではなく別の場所で試験を受けているとのことだ」
そう、騎士は答えたが……
どこか歯切れが悪そうなその態度に違和感を覚えたクレイは、なおも詰め寄って問いただす。
「別の場所?いったいどういう事なんですか!?」
「い、いや……私も詳しい事情はよく知らないんだ。ただ、上からの通達でそうなってる……としか」
クレイの剣幕に騎士はしどろもどろになりながら答えるが、それは要領を得ないものだった。
(……上からの通達?あ……確か、受験の申請書類には家族構成なんかも書いていたな……。もしかして、師匠の事が伝わって、それで……?)
クレイのその推論はなかなか的を射たものだったが……
まさか、エステルが後宮に入るための審査を受けている……などという結論に至らないのは、仕方のないことだろう。
3
お気に入りに追加
1,156
あなたにおすすめの小説
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる