【完結】剣聖の娘はのんびりと後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
上 下
10 / 151
剣聖の娘、王都に行く

同行者

しおりを挟む

 翌日。

 エステルは朝早くから、シモン村自警団が詰所として使っている小屋へと向かった。
 昨晩、両親から条件として提示された通り、一緒に王都に行ってくれる人を探すためだ。



「おっはよ~!!みんな!!」

 ばーん!と勢いよく詰所の扉を開け放ちながら、元気よく挨拶する。
 中には数人の団員たちが、朝の見回りの準備をしているところだった。


「おはようございやす!!エステルの姉御!!」

「「「おはようございやす!!」」」

 ……まるでどこぞの山賊団のような挨拶だが、もちろん彼らは善良な村民である。
 この村一番の実力者であるエステルに敬意を払っているだけだ。
 多くの団員はエステルよりも年上の男が多いが、実力が全ての自警団ではそんなものは関係ないのだ。 


「どうしたんだ、エステル?領都に行くからってんで暫く非番にしてたんじゃないか?」

 そんな団員たちの中にあって、気軽な口調で彼女に話しかける者がいた。


「あ、おはよクレイ。領都には昨日日帰りで行ってきたよ~」

 クレイはエステルの同い年の幼馴染だ。
 物心付いたときからいつも一緒にいた、気心の知れた友人である。


「そうか。でも非番の予定は変わらないんだろ?」

「うん。ちょっと皆に話があって来たんだよ。実は……」

 そして彼女は、昨日の経緯を団員たちに説明する。
























「そんな……姉御が王都に行くだなんて!!」

「はいっ!!俺が一緒に行きます!!一緒に騎士を目指します!!」

「あ!?テメー、抜け駆けするんじゃねぇ!!俺が行くッス!!」

「いや、そこは俺だろう!!」


 エステルから事情を聞いた団員たちは、我こそはと名乗りを上げて……やがて大騒ぎとなる。


「へぇ~……皆、そんなに王都に行きたかったんだ~」

「いや、違うだろ……」

 どこかズレたエステルの感想に、クレイは冷静にツッコミを入れる。


 これまで彼女を女性として見る者は多くはなく、頼れる親分的なポジションだったのだが……最近は特に(見た目は)女性らしくなってきたこともあり、男たちを魅了するようになってきたのだ。

 エステル自身にはその自覚はなく、無防備な彼女にクレイはやきもきさせられるのだった。


「う~ん……でも、村の守りもあるから一人だけね」

「姉御と二人きり……!」

「ええ~い!!こうなったら!!実力で決めようぜ!!」

「お、おい……!」

 ヒートアップする団員たちを、クレイは落ち着かせようとするが……時すでに遅し。

 誰がエステルと王都に行くかを賭けて、自警団員たちによるバトルロイヤルが行われる事になったのだった。



















「……こりゃあ、何の騒ぎだ?エステル」

「あ、お父さん!!何かねぇ、私と王都に行くのが誰かを実力で決めるんだって~」


 村の広場に集まった自警団の若者たちの騒ぎを聞きつけてやって来たジスタル。
 娘に事情を聞くと、呆れ顔になりながらも納得するのだった。


「……まぁ、手っ取り早いわな。んで、お前も参加するのか、クレイ?」

「え、ええ……。僕も、エステルを一人で王都に行かせるのは、心配ですからね……」

 ジスタルに問われたクレイは、バツが悪そうに視線を反らして答えた。
 実際のところ、彼は別にエステルに恋心を抱いてる訳ではなく、どちらかというと妹を心配する兄のような心境だ。


(……こいつもお人好しだからなぁ。まぁ、こいつが一緒に行ってくれるなら、エドナも俺も多少は安心出来そうだが)

 彼の心情を察したジスタルはそれ以上は何も言わなかったが、頼もしそうな目を向けるのだった。




 そして広場にはジスタルだけでなく、多くの村人が集まってくる。
 ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
 娯楽の少ないシモン村ではいい刺激となるのだろう。



「よし!!準備はいいな?」

「誰が勝っても恨みっこ無しだからな!!」

「へへ……今こそ俺の真の実力を見せたらぁ!!」

「ふへへ……姉御と二人きり……」

 団員の誰もが気合十分。
 何人かは色ボケした表情だが、かえって実力以上の力を発揮するかもしれない……



 そして、エステル争奪戦 (?)の戦いの火蓋が切られた!!



























「そこまで!!勝者クレイ!!」

 エステルが勝者の名前を告げる。
 最後まで生き残ったのはクレイであった。


 彼はエステル程ではないが、幼い頃から彼女と一緒にジスタルから手解きを受けて来た実力者だ。
 自警団の中でもジスタル次ぐ力を持つ。
 順当な結果と言えるだろう。


「あ~、くそっ!!負けちまった!!」

「くぅ~……あともう少しだったのに!!」

「でも、まぁ……クレイなら仕方ねぇかぁ……」

「おい、クレイ!!姉御をしっかり守るんだぞ!!」

「頑張って騎士になれよ!!」

 戦いに敗れた団員たちは悔しがるが、実力的に妥当な結果には納得を見せ、気持ちを切り替えてクレイを激励する。



「じゃあクレイ、よろしくね!!」

「あ、あぁ……」

「でも、いきなり王都に行くって、大丈夫なの?」

 今更ではあるが、エステルはそれが心配だった。

 クレイは母親と二人暮しだ。
 父親は彼が幼い頃に病気で亡くなっており、男手と言えば彼だけなのである。
 エステルが心配するのも無理はない。


「大丈夫だよ。蓄えもそれなりにあるし……それに、もし王国の騎士になれるなら、仕送りもしてやれるしな」

 そう言って彼はエステルに心配をかけまいと笑顔を見せる。


「そう?じゃあ、一緒に騎士を目指して頑張ろうね!」

「ああ……!」


 エステルに流された形ではあるが、彼も未来に希望を抱く若者だ。
 新たな目標を得て、その目はやる気に満ちていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

処理中です...