ファンタスティック・ノイズ

O.T.I

文字の大きさ
上 下
12 / 14

龍神の娘

しおりを挟む

 千現神社にて、巫さんとゼアルさんに再会した僕たち。
 どうやら二人には、僕たちに何か頼みたいことがあるらしい。
 巫さんは本意では無い様子だったけど、彼女に言い聞かせるようなゼアルさんの言葉をそれ以上否定することもなかった。


「僕たちに協力してほしい事ってなんですか?もし何かお役に立てるのなら……」

「ちょっ!ユウキ、そんな簡単に安請け合いしちゃダメよ!」

 僕が代表して二人に申し出ようとすると、スミカが慌てて止めようとする。


「でもスミカ、僕たちだって巫さんに力になってもらいたいからここに来たんだよ?自分たちのお願いだけするなんて虫が良すぎると思う」

「まぁ……それはそうだけど」

「ユウキの言うとおりだな。何かを頼むのなら、それ相応の対価が必要だろう。まあ、もちろん俺たちが本当に力になれるのかは詳しい話を聞いてみないと判断できないけどな」

 レンヤが僕に同調してそう言ってくれた。
 更に。


「それを言うなら、僕たちこそ選択の余地はないですね。なあ、タケシ?」

「だな。リノを助けるためならなんだってやるぜ」

 後輩二人もそう言ってくれた。


「あ~はいはい分かりました。なんか私が悪者みたいじゃないの」

「まあまあ、スミカ。なるべくリスクを避けようとするのは間違いじゃないと思うよ。でも、先ずは詳しい話を聞いてみようよ。判断するのはそれからでも遅くないでしょ」

 スミカは少しむくれてるけど、暴走しそうになったら止めてくれるストッパー役は必要だとおもう。





「よし、話はついたようだな。安心しろ、確かに多少の危険はあるかもしれねぇが、お前たちなら対処可能だと俺は見ている。それに頼みてぇ事ってのは、お前たちの頼み事にも絡んでるんだぜ」

「……仕方ないわね。背に腹は代えられませんか」

 僕たちが話を聞く姿勢となったのを見て二人は言う。
 巫さんはまだ渋々といった感じだけど。

 そして、『頼み事』の詳細に話しが移ろうとしたのだけど……その前に聞かたいことがある。


「その……この千現神社が祀る龍神様、ゼアルさんが会いに来た友人というのは、巫さんの事なんですか?」

 さっきも少し考えていたことを、僕は聞いてみることにした。
 レンヤもそれは気になっていたのか、うんうんと頷いている。

 そして、その質問に巫さんは少し複雑そうな表情をしながらも答えてくれた。

「……いえ、私は違うわ。この神社が祀る『千現雷火権現』は今は不在で……」

「カナメはライカの娘だぞ」

 どこか歯切れの悪い感じの巫さんを遮るようにして、ゼアルさんがその事実を告げた。


「む、娘……?龍神様の?」

「ああ、そうだ。……と、そんなに睨むな、カナメ。こいつらが協力者になってくれるんなら、どのみち事情は説明しねえとだろ」

「はぁ……しょうがないわね。確かに雷火は私の父。この神社の巫女であった母との間に生まれたのが私よ」


 驚愕の事実だった。
 龍神が実在すること事態が驚きだというのに、まさか人間の女性との間に娘がいて、巫さんがそうだったなんて。
 その話をすんなりと信じることができたのは、やはり彼女がどこか普通の人間とは異なる雰囲気を持っているからだろう。


「驚いた……でも、巫さんてそれっぽい雰囲気はあるけど、見た目は普通の人間にしか見えないわ」

「スミカ、その言い方は失礼だよ」

 スミカかの言葉を僕はそう嗜めたのだけど、彼女は気にしたふうもなく少し微笑みながら言う。

「気にしなくても良いわ。でも、私自身はほとんど普通の人間と変わらないのよ。歳だってあなたたちとそう変わらないし、学校にも通ってる」

「「「え!?」」」

 いま目の前の人物と『学校』というキーワードが結びつかず、僕たちは驚きの声を上げた。
 すると彼女は可笑しそうにくすくすと笑う。
 今までの、どちらかと言うと神秘的でクールな表情とは違う可愛らしい笑顔。
 それを見て、確かに僕たちと同年代というのは本当らしいと思うのだった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「それで『頼み事』って何ですか?……もしかして、さっき龍神様が不在と言ってた事と関係が……?」 

「お?なかなか鋭いじゃねえか」

「龍神……父も母も、『旅行』に出かけてるわ」

 へ?
 旅行……?
 ちょっと想定外の言葉だった。


「……龍神様って、旅行するのか」

「ちょっと想像がつかないわね」

「でも、ゼアルさんみたいに人間の姿になれるんでしょ?だったら不思議じゃないのかも……?」

 まさか龍の姿で旅行なんてしないだろう。
 それに、人間の女性との間に娘ができるのだから、ゼアルさんと同じように人間形態になれると思うのが自然だ。


「もちろん、普通に人間の夫婦として出かけているわ。……父は長らくこの地の守護を担っていたから、そうそう遠くに出かけることなんてできなかったのだけど。私が生まれて……ある程度は父の『力』も引き継いだから、私が二人に勧めたの」


 ふむふむ、なるほど……
 この地域を守るために龍神様はずっと動けなかった。
 でも娘の巫さんが役目を果たすための『力』を引き継いだから彼女に任せられるようになった……と。

 それにしても、やはり彼女は優しい人なんだなって思った。


「……なるほど、読めたぞ。巫さんが龍神様の娘として力を引き継いだといっても、それは全てではない。それでも、この地の守護という役割を果たすのには何ら問題は無いはずだった……」

「でも、巫さんの『力』だけでは対処しきれないイレギュラーな事態が起きた」

「それが……あの『異界』の発生だった……てことかしら?」


 レンヤの言葉を僕が引き継ぎ、スミカが結論付ける。
 これまでの話や経緯からすれば、たぶんそういう事なんだろう。


「おう、さすが俺が見込んだ奴らだ。お前らの推測の通りだぜ」

 ゼアルさんが僕たちの推測を肯定する。
 だけど、単に旅行してるだけなら、戻ってこれないのかな?
 その疑問を巫さんにぶつけたところ。

「それが……スマホは持ってるはずなのだけど、圏外になってしまって連絡がつかないの。いったいどこまで行ったのやら……」

 ため息をつきながら彼女は言う。
 龍神様もスマホ使うのか……と思ったけど、人間として行動するなら当然かと思い直した。

 それにしても、今どきは観光地でも圏外になることなんてそうそう無いと思うのだけど。
 まさか海外まで行っちゃった……とか?


「そのうち帰ってくるとは思うけど……ただそれを待ってるだけだと、あなた達のお友達みたいに『神隠し』に会う人が増えてしまう。だから、あなた達に頼みたい事というのは……」

「漏れ出した異界に囚われた人間の捜索と救助、ってこった」

 まだ『頼み事』を口にしづらそうな巫さんに代わって、ゼアルさんがそれを口にした。

 話の途中からそれは予想していたので、特に驚きはなかった。
 そしてそれは、僕たちがここに来た目的とも合致する。

 なら、頼み事を引き受けたいとは思うけど……あとは、僕達で対応できるのかどうかという点が問題となる。
 ゼアルさんは僕たちには『適性』があると言ってたが、それがどういう意味なのか。
 もう少し話を聞いてみよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

天羽桜は世界を救う

天羽睦月
ファンタジー
天羽桜は普通の人間だった。 天羽桜は毎日を笑いながら過ごし、家族や友人達との日々の暮らしを満喫していた。 しかし、天羽桜が寝坊をしてしまったその日から全てが変わってしまう。 天羽桜は笑いあっていた日常を取り戻すために、戦うことを決める。 だが、戦うにつれて悩む天羽桜は悩みながらも襲いかかってくる脅威に立ち向かっていく。 この物語は世界に対する脅威を払い、日常を取り戻していく少女の物語である。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。 彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。 眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。 これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。 *あらすじ* ~第一篇~ かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。 それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。 そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。 ~第二篇~ アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。 中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。 それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。 ~第三篇~ かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。 『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。 愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。 ~第四篇~ 最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。 辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。 この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。 * *2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。 *他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。 *毎週、火曜日に更新を予定しています。

処理中です...