ファンタスティック・ノイズ

O.T.I

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事件現場

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 既に夏本番とも言えるこの季節。
 まだ暫くは沈みそうにない太陽に容赦なく照らされたアスファルトから、猛烈な熱気が陽炎となって立ち昇る。
 道の先を見やれば、雨も降ってないのに濡れているように見えるのは逃げ水か。

 昨日も暑かったけど、今日はさらに暑い。
 朝に見たテレビのニュースでは、ほとんど体温と変わらないくらいの猛暑日になると予報していた。

 普通に歩いているだけでもじっとりと汗ばんで気持ち悪いのに、またあの石段を昇るかもしれないと思うとゲンナリする。




 さて。
 オカルト研究会の部室で、トウマ君から神隠しの話を聞いた僕たちは今、彼の幼馴染である相原梨乃さんが消えてしまったという現場に向かっていた。


「それにしても……先輩たちがそんな不思議な体験をしているなんて。それに、その妖精……ファナちゃんにはビックリしました」

 僕の前を歩くトウマ君が振り向いて、僕の肩に乗ったファナを見ながら言う。

 彼には僕たちが昨日体験した出来事について説明している。
 そして、その話の証拠と言うわけでもないんだけど、その時にファナを紹介したんだ。

 最初、ファナの事が見えるか?と質問した時、トウマ君は彼女のことが見えていなかった。
 だけど……もしかしたらファナが何かしたのだろうか。
 突然トウマ君にも彼女が見えるようになり、彼は腰を抜かすんじゃないかってくらい、それはもう盛大に驚いた。


『トウマ!オドロイタ!ファナ モ オドロイタ!』

「あはは……ごめんね、大きな声を出しちゃったからビックリしたよね」

『ダイジョーブ!』

 気にしないで、って感じでファナは言う。
 この娘、いい子だなぁ……と思いながら頭を撫でてやると、嬉しそうに頬ずりしてきた。
 可愛いな、もう。


「それで……もう千現神社も近いけど、現場はこの辺なのかしら?」

「はい、もうすぐそこです。……あ」

 そのとき僕たちが向う先の方から、僕たちと同じ高校の制服を着た男の子がこちらにやって来るのが見えた。
 トウマ君は彼を見て声を上げ、向こうもトウマ君に気付いたようだ。


「トウマ!!」

「タケシ!!……どうだった?」

「いや、やっぱり見つからねぇ。ここいら一帯歩き回ったけど、さっぱりだ。お前の方は……もしかして、その人たちが?」

「うん、そうだよ。噂に聞いたオカルト研究会の……」

「首藤連矢だ」

「森瀬鈴美香よ」

「神永友希です」

 会話の流れに乗ってそれぞれ自己紹介する。
 彼がトウマ君のもう一人の幼馴染なのだろう。

「あ、俺は久賀武志って言います。……森瀬先輩に神永先輩って……あの?」

「あの……と言うのはよく分からないけど、森瀬も神永も、ウチの学校では他にいなかったかな」

 トウマ君も似たような反応してたけど、僕やスミカが一年生の間で有名になる理由がよく分からない。
 スミカも不思議そうにしている。
 だけど、レンヤの方を見ると苦笑しているので彼は分かっているみたい。
 視線で問いかけたけど……

「あ~、後で教えてやるよ」

 と、はぐらかされてしまった。
 そして彼は続けて言う。

「それより今は『神隠し』の事だ。久賀君だったな。この周辺には何の痕跡も無いんだな?」

「あ、俺のことはタケシ、でいいっすよ。……そうですね、リノを見失った辺りを中心に見回ったんすけど、 特にこれといったものは何も……」

「そうか……取り敢えず現場に案内してもらえないか?そこで何もなければ……やはり、あそこか」

 千現神社だね。
 あそこが怪異の中心になっているのは間違いないはずだ。
 なんせ、『千の現が交わる場所』なんだから。


 そして現場に向う道すがら、トウマ君にしたように僕たちの体験談をタケシ君に説明する。

 ファナを紹介した時は当然驚いたが、トウマ君よりは幾分冷静だったので彼より肝がすわっているのかもしれない。
 なお、最初ファナが見えなかったのは彼も同じだった。
 その様子を見たレンヤは何か思いついたみたいだったんだけど、それを確認する前に相原さんが消えたという現場に到着した。


「ここです。このあたりでリノは……気が付いたらいなくなっていたんです」

「俺とトウマが話し込んでいて……でも消える直前まで確かにリノは俺たちと一緒に歩いていた。それは間違いない」

 そこは何の変哲もない住宅街の道。
 相原さんが消えたと思われる場所は他に分岐する道もなく、二人に気付かれないように何処かに行くのは確かに不可能ではないだろうか。
 それこそ、オリンピック選手も真っ青な身体能力で民家の塀を一瞬で跳び越えて……とかでも無い限り。


 あるいは、この場所に異界が侵食し……そこに迷い込まない限りは。



「私とユウキが妖精を見た場所……すぐそこなのよね」

「うん……やっぱり何か関係があるんだと思う」

 スミカの言う通り、一連の不思議体験の発端となった妖精の目撃場所はここから50メートルも離れていない。


「……ユウキ、スミカ。昨日のカエルの御守りと、竜の鱗……持ってきてるか?」

「え……う、うん、持ってきてるけど」

「私も持ってきてるけど……それが?」

 突然のレンヤの言葉に、僕とスミカは戸惑いながら答える。
 巫さんから貰った『無事カエル』の御守りと、ゼアルさんから貰った紅い竜の鱗は鞄の中にしまって持ってきている。
 それはたまたまだったんだけど、再び必要になるかも……という何らかの予感があったのかもしれない。


「よし。それじゃあ、それを二人に渡して、お前たちは帰るんだ」

「「なっ!?」」

 予想外のレンヤの言葉に、僕とスミカは抗議しかけるけど、それを手で制してレンヤは更に続ける。

「まあ落ち着け。昨日はどうにか帰ってこれたが、今回もそうだとは限らない。お前たちをまた危険に巻き込むわけにはいかない」

 なんて、カッコつけたことをのたまう。
 いや、確かにそうだけど……

「……あんた達はどうするのよ」

「トウマとタケシは当事者だから、引く気はないだろ?」

「ええ」

「当然っす」

 彼らの幼馴染が行方不明になってるのだから、そう答えるだろう。


「で?あんたは?」

「トウマが頼ってきたのは俺だからな。それに……正直、昨日は消化不良だった」

 ニヤリ……とレンヤは笑いながら言う。
 全く、本当に筋金入りだね、これは。


「はぁ……あんたねぇ……まったく冗談じゃないわ。ここまで来て、ハイサヨナラ、なんて納得できるわけ無いでしょう?」

 呆れたようにスミカは言う。
 まあ、彼女の性格ならそう言うだろうね。
 困ってる後輩を放っておくことなんてできやしないし、大切な幼馴染を危険な目に合わせて自分だけ帰るなんてマネもできない。

 そして、それは僕も同じだ。
 だからレンヤが、僕がスミカを宥めてくれるよう期待の眼差しを向けてきても……

「ごめんレンヤ。僕もスミカと同じ気持ちだよ」

「はぁ……お前もか」

「一人だけいい格好しようたって、そうはいかないよ。それに……消化不良だったのは僕も同じかな」


 何の変哲も無い日常に現れた不可思議な出来事に、僕も少なからずワクワクしていた。
 人一人いなくなっている状況で不謹慎だと思うけど、それは偽らざる本心でもあるんだ。


「ああもう、分かったよ。お前らが言い出したら聞かないのは身にしみて分かってるさ。……だが、とにかく危険を感じたら自分の身を優先しろよ」

「もちろん。何かヤバそうだったらレンヤを囮にして逃げるわ」

「はあ……是非そうしてくれ」


 スミカはそんな事言うけど、本当にそうなったら彼女は見捨てたりなんてしないだろう。
 もちろん、僕だって。



「じゃあ行くか……!」


 不思議な出来事はそこを中心に起きているはず。
 もしかしたら……巫さんなら、何かを知っているかもしれない。


 さあ行こう!
 もう一度、千現神社へ!
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