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30 月女神の聖銀鏡
しおりを挟むSIDE:メリア
仕分けを行った品物の数々。
魔力が付与されたそれらの贈り物は、一見しておかしなところは見られなかった。
ロザリンデ王女に限らず、王族への贈り物は入念にチェックされ、いつ、誰が贈ったのかまで記録が残される……らしい。
だから、もしこの中に『黒蛇呪』の起点となったアイテムかあるのなら……それらのチェックを巧みにすり抜ける偽装が施されているということになる。
それを見破るためには……
私は鞄からあるものを取り出した。
手のひらくらいの大きさの銀の円盤。
その表面にはびっしりと文字が刻まれ、中心には親指と人差指で作った円くらいの大きさの鏡が嵌め込まれている。
「メリア殿、それは……?」
「これは『聖銀鏡』と言って……昔、先代が月の女神様より頂いたものです」
「月の女神……パティエット様の?神器ではないか……」
月の女神パティエット様は、幻影の魔法を得意とし、それ故に魔法で秘匿されたものを見破る事も得意としている……と言うのは、ばあちゃんから聞いた話だ。
そしてこのアイテムは、そんな月女神の力の一端を有している。
すなわち、ありとあらゆる魔法による偽装を暴き出すというもの。
ゼノン王が呆然とした様子で呟いた通り、神器と呼ぶに相応しい力を持っているのだ。
ただ、そんな大それた力は気軽に何度も使えるようなものではない。
だから、こうやって仕分けして一箇所に集めてもらったのよね。
私は集められた品物の数々から少し離れた位置に立って、それらが小さな鑑の中に全て映るようにする。
そして。
『我は月の女神に希う。ここに聖なる月の光を照らし、我が前に真なる姿を映し出したまえ』
「これは……神語……か?」
その通り。
この鏡の力を発動させるのに必要なのよね。
神語とは、神々の間で使われる言葉で、神と神に近しいごく一部の人間だけが知る言葉。
私はばあちゃんから教わったわ。
そうやって私が神語による祝詞を捧げると……鏡から青銀の光が溢れ出す。
その光は壁際に並べられた贈り物の数々を照らし、やがて……
「……あっ!!?」
「これは……!!?」
聖銀鏡から放たれた光によって、壁に黒い影が映し出される。
それは蠢きながらある形を取り始め……黒い蛇となった!!
「黒蛇!!」
「こいつがロザリンデ様を……!!?」
ゼノン王とグリーナさんが驚きの声を上げる。
そして、次の瞬間……
なにかが軋むような音が聞こえたと思えば、黒蛇の影の大元……大きな熊のヌイグルミの中から黒い大蛇が実体となって飛び出してきた!!
そしてそいつは一直線に私めがけて飛びかかってくる!
「メリア殿っ!!」
「危ないっ!!」
二人が私に危険を知らせるが……大丈夫よ。
黒蛇は青銀の光に逆らってこちらに向かってきていたが、その途中で頭からグズグズと崩れ出し、あっという間に光に溶けるように跡形もなく消え去ってしまった。
その様子を見ていた二人は呆然として沈黙する。
暫くしてから、恐る恐るという感じで聞いてきた。
「メリア殿……大丈夫か?今のはいったい……」
「大丈夫ですよ。見ての通り……あれが『黒蛇呪』の正体だったんでしょうね」
「あのようなおぞましいものが姫様を蝕んでいただなんて……」
本当にその通りね。
あんな邪悪な呪いを幼い少女に向けるなんて……絶対に許せないわ。
「このヌイグルミが、元凶だったのか?おっと、まだ触るのは危険か?」
ゼノン王は、黒蛇が飛び出してきた大元……大人でも両腕で一抱えするくらいには大きな熊のヌイグルミに手を触れようとしたが、呪いの品物であることを思い出して慌てて手を引っ込める。
「もう大丈夫だと思いますよ。……もう確定ですけど、念のため中身を確認しておきましょうか」
大きくて可愛らしいヌイグルミ。
ちょっとかわいそうだけど……背中の縫い目から破って、中身を取り出していく。
すると。
「あった。これね」
「それは……呪符でしょうか?」
グリーナさんの言う通り、ヌイグルミの中から綿と共に一切れの紙が出てきた。
何らかの文字がびっしりと書き込まれたそれは、何かを包んでいた。
その包を広げると……
「うっ……」
「むぅ……」
中から現れたものを見て、二人はうめき声を上げる。
呪符が包んでいたのは、黒焦げになった小さな蛇の死骸であった。
「これで……物証が出ましたね」
あとは、これ贈ったのが誰なのかが分かれば、犯人を捕まえられるはず。
さあ……いよいよ大詰めね。
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