森の魔女の後継者

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12 アグレイブの街にて

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SIDE:グレン


 休憩を挟みながらも順調に馬を飛ばし、夕刻にはアグレイブ外周の防壁が見えてきた。


「アグレイブの街が見えてきましたね」

「あそこで飛竜……を?」

 並走するイェニーの馬に同乗するメリアが聞いてきた。
 何だか不安そうな表情をしているが……

「ええ。飛竜籠ドラゴンドラを手配してます。……どうしました、メリア?」

「え?……あぁ、その……飛竜籠と言うものは初めてだから、ちょっと不安で……」

 ああ、なるほど。
 確かに空を飛ぶというのは少し怖いかもしれないな。
 ましてや初めてともなれば尚更だろう。

 しかし、凶暴な魔獣を前にしても落ち着き払っていた彼女がそんな風に不安がるのは意外だった。
 そうしていると、普段の年齢よりも大人びた雰囲気から年相応の少女に見えて、庇護欲を掻き立てられる。

「大丈夫ですよ。しっかり訓練された飛竜が数頭立てで運んでくれるんです。籠も大型のもので意外と快適なんですよ」

「そう……うん、大丈夫よ」

 そう言って彼女は笑顔を見せる。
 俺の説明だけではまだ不安かもしれないが……少しだけでもそれが和らいでくれたらと思う。








 そして外壁が見えてから程なく、俺たちはアグレイブの街に到着する。
 門を潜って足早に騎士団の駐留地へと向かう。

 家々からは夕食の準備と思しき煙が立ち昇り、美味しそうな匂いが風にのって漂ってくる。
 メイン通りに面した酒場や食事処からもそれは同様で、既に酒が入って盛り上がる人々の楽しそうな声も聞こえてきた。

 そんな、夕日に染まって活気に満ち溢れた街並みを通り過ぎ、街の奥……領主邸近くにある王国騎士団の詰所へとやって来た。


 入口に立っている衛兵に話しかけ、俺たちの素性と来訪の目的を告げる。

「私達は王国第一騎士団所属の特務隊で……私は隊長のグレンと申します。この駐留軍の責任者にお目通り願いたいのですが」

「ハッ!特務隊のグレン隊長!お話は伺っております!こちらへどうぞ!」

 どうやら、しっかりと話は通っていたようで安心する。
 俺たちは衛兵に案内されて、詰所の中へと入っていった。












SIDE:メリア


 不慣れな馬に揺られて数時間……途中馬酔いにもなったが、酔い止を服用してからは特に問題もなく、私達はアグレイブの街に到着した。

 ここからは飛竜籠ドラゴンドラ……空路で一気に王都に向かうと聞いている。
 私は長年森で暮らして……精々がブルームの街の近辺で活動するくらいだったので、そのような乗り物には乗ったことが無いんだけど……空を飛ぶことに多少の不安を覚える。

 私がそんな事を口にすると、グレンは微笑みながら「大丈夫だ」と言ってくれた。
 それで不思議なほど不安が和らいだのが、自分でも意外だった。



 そして訪れた騎士団の詰所。
 グレンが所属を名乗ると中に案内され、その先の一室で私達を迎えたのは……










SIDE:グレン


「飛竜籠が出せない?……何故です?話は通っていると思ったのですが?」

 衛兵に案内された一室で待ち受けていたのは、このアグレイブ駐留騎士団の責任者である中隊長。
 彼から聞かされた話は、思ってもみないものだった。

「は、はい、その……手違いが御座いまして……」

「手違い?私達は陛下の勅命を受けてるのですよ。それは何よりも優先するはずですが……」

「も、申し訳ありません!」

 がばっと頭を地面に擦り付けるような勢いで謝る中隊長だが、その理由を話さない。

「埒が明きませんね……とにかく、理由を教えて下さい。私達には時間があまりないのです」

「そ、その……今から話すことはどうかご内密に……」

「それは内容次第です。……ですが、あなた自身に後ろ暗いことがないのであれば、悪いようにはしないとお約束しましょう」

「……分かりました。実は……」


 そうして彼はようやく事の経緯を話し始めるのだった。


















SIDE:メリア

 詰所から出た私達は、途方に暮れていた。
 一先ず宿を確保しようと街を歩いているのだが……


「どうしますか、グレン様。もう飛竜は諦めて、このまま馬で向かいましょうか?」

「……そうですね」

「グレン様!これは問題ですよ!!陛下の勅命を無視するなど……!」

「カール、落ち着きなさい。飛竜が病にかかるなど……仕方のないことでしょう」


 そう、駐留軍の中隊長から聞かされたのは、本来手配していた飛竜……4頭いるのだが、その4頭ともが病に冒されてとても飛べるような状態じゃないと言うのだ。

 しかし、このタイミングで……?

「ですが!!このタイミングで4頭とも病に冒されるなど……誰かが妨害してるとしか」

「……カール、滅多な事を言うものではありません」

 カールさんは荒げていた声をひそめて疑念を口にするが、グレンはそれを嗜める。



「でも、確かにカールさんの言うことにも一理あるのでは?」

「……」

 グレンも薄々そう感じていたのか、私がそう言うと眉間に皺を寄せて黙り込んだ。

 しかし、私達の妨害をするために飛竜を病に……もしかしたら毒かしら?
 だとすれば……


「ねえ、私をその飛竜たちのところに連れて行ってもらうことは出来ないかしら?」

「え?……もしかして、診られるのですか?」

「本当に病気なら、人間相手とは勝手が違うけど……もし毒物を与えられてるとかなら、対処は可能かもしれないわ」

「でしたら、早速……!」


 おそらくは……飛竜用の毒なんて限定的なものは態々使って無いだろう。
 人間に使うものと同じ毒ならば……手立てはあるかも知れない。

 そうして、私達は踵を返して再び騎士団詰所に向かうのだった。
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