13 / 32
12 アグレイブの街にて
しおりを挟むSIDE:グレン
休憩を挟みながらも順調に馬を飛ばし、夕刻にはアグレイブ外周の防壁が見えてきた。
「アグレイブの街が見えてきましたね」
「あそこで飛竜……を?」
並走するイェニーの馬に同乗するメリアが聞いてきた。
何だか不安そうな表情をしているが……
「ええ。飛竜籠を手配してます。……どうしました、メリア?」
「え?……あぁ、その……飛竜籠と言うものは初めてだから、ちょっと不安で……」
ああ、なるほど。
確かに空を飛ぶというのは少し怖いかもしれないな。
ましてや初めてともなれば尚更だろう。
しかし、凶暴な魔獣を前にしても落ち着き払っていた彼女がそんな風に不安がるのは意外だった。
そうしていると、普段の年齢よりも大人びた雰囲気から年相応の少女に見えて、庇護欲を掻き立てられる。
「大丈夫ですよ。しっかり訓練された飛竜が数頭立てで運んでくれるんです。籠も大型のもので意外と快適なんですよ」
「そう……うん、大丈夫よ」
そう言って彼女は笑顔を見せる。
俺の説明だけではまだ不安かもしれないが……少しだけでもそれが和らいでくれたらと思う。
そして外壁が見えてから程なく、俺たちはアグレイブの街に到着する。
門を潜って足早に騎士団の駐留地へと向かう。
家々からは夕食の準備と思しき煙が立ち昇り、美味しそうな匂いが風にのって漂ってくる。
メイン通りに面した酒場や食事処からもそれは同様で、既に酒が入って盛り上がる人々の楽しそうな声も聞こえてきた。
そんな、夕日に染まって活気に満ち溢れた街並みを通り過ぎ、街の奥……領主邸近くにある王国騎士団の詰所へとやって来た。
入口に立っている衛兵に話しかけ、俺たちの素性と来訪の目的を告げる。
「私達は王国第一騎士団所属の特務隊で……私は隊長のグレンと申します。この駐留軍の責任者にお目通り願いたいのですが」
「ハッ!特務隊のグレン隊長!お話は伺っております!こちらへどうぞ!」
どうやら、しっかりと話は通っていたようで安心する。
俺たちは衛兵に案内されて、詰所の中へと入っていった。
SIDE:メリア
不慣れな馬に揺られて数時間……途中馬酔いにもなったが、酔い止を服用してからは特に問題もなく、私達はアグレイブの街に到着した。
ここからは飛竜籠……空路で一気に王都に向かうと聞いている。
私は長年森で暮らして……精々がブルームの街の近辺で活動するくらいだったので、そのような乗り物には乗ったことが無いんだけど……空を飛ぶことに多少の不安を覚える。
私がそんな事を口にすると、グレンは微笑みながら「大丈夫だ」と言ってくれた。
それで不思議なほど不安が和らいだのが、自分でも意外だった。
そして訪れた騎士団の詰所。
グレンが所属を名乗ると中に案内され、その先の一室で私達を迎えたのは……
SIDE:グレン
「飛竜籠が出せない?……何故です?話は通っていると思ったのですが?」
衛兵に案内された一室で待ち受けていたのは、このアグレイブ駐留騎士団の責任者である中隊長。
彼から聞かされた話は、思ってもみないものだった。
「は、はい、その……手違いが御座いまして……」
「手違い?私達は陛下の勅命を受けてるのですよ。それは何よりも優先するはずですが……」
「も、申し訳ありません!」
がばっと頭を地面に擦り付けるような勢いで謝る中隊長だが、その理由を話さない。
「埒が明きませんね……とにかく、理由を教えて下さい。私達には時間があまりないのです」
「そ、その……今から話すことはどうかご内密に……」
「それは内容次第です。……ですが、あなた自身に後ろ暗いことがないのであれば、悪いようにはしないとお約束しましょう」
「……分かりました。実は……」
そうして彼はようやく事の経緯を話し始めるのだった。
SIDE:メリア
詰所から出た私達は、途方に暮れていた。
一先ず宿を確保しようと街を歩いているのだが……
「どうしますか、グレン様。もう飛竜は諦めて、このまま馬で向かいましょうか?」
「……そうですね」
「グレン様!これは問題ですよ!!陛下の勅命を無視するなど……!」
「カール、落ち着きなさい。飛竜が病にかかるなど……仕方のないことでしょう」
そう、駐留軍の中隊長から聞かされたのは、本来手配していた飛竜……4頭いるのだが、その4頭ともが病に冒されてとても飛べるような状態じゃないと言うのだ。
しかし、このタイミングで……?
「ですが!!このタイミングで4頭とも病に冒されるなど……誰かが妨害してるとしか」
「……カール、滅多な事を言うものではありません」
カールさんは荒げていた声をひそめて疑念を口にするが、グレンはそれを嗜める。
「でも、確かにカールさんの言うことにも一理あるのでは?」
「……」
グレンも薄々そう感じていたのか、私がそう言うと眉間に皺を寄せて黙り込んだ。
しかし、私達の妨害をするために飛竜を病に……もしかしたら毒かしら?
だとすれば……
「ねえ、私をその飛竜たちのところに連れて行ってもらうことは出来ないかしら?」
「え?……もしかして、診られるのですか?」
「本当に病気なら、人間相手とは勝手が違うけど……もし毒物を与えられてるとかなら、対処は可能かもしれないわ」
「でしたら、早速……!」
おそらくは……飛竜用の毒なんて限定的なものは態々使って無いだろう。
人間に使うものと同じ毒ならば……手立てはあるかも知れない。
そうして、私達は踵を返して再び騎士団詰所に向かうのだった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~
紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ
恋愛
「それでは魔王様、勇者が攻めて来ますので我が軍を率いて何とかして下さい」「……え?」
気づけばそこは暗黒城の玉座で、目の前には金髪碧眼のイケメンが跪いている。
私が魔王の生まれ変わり?何かの間違いです勘弁して下さい。なんだか無駄に美形な人外達に囲まれるけど逆ハーとか求めてないんで家に帰して!
これは、渋々ながらもリーダーを務めることになった平凡OLが(主においしいゴハンを食べる為に)先代魔王の知識やら土魔法やらを駆使して、争いのない『優しい国』を目指して建国していく物語。
◆他サイトにも投稿
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる