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04 魔女の森
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SIDE:メリア
この森は近隣の町や村の住民から『魔女の森』と言われている。
無論、私の育ての婆ちゃんである『森の魔女』が住む事に因む。
つまり、森の魔女の森だ。
……もう少し洒落たネーミングは出来なかったのかと思わなくもない。
昼なお暗く多くの魔物が徘徊するこの森の深部まで入る人間は多くはない。
魔物由来の素材や、貴重な薬草などを求める冒険者と呼ばれる命知らずの連中か、あるいは……グレンの様に『魔女』に用事がある者だけだろう。
にもかかわらず、広大な上に似たような景色が続いて非常に迷いやすいので、遭難者が後を絶たない。
幸運な者は私が見つけて事なきを得るのだが、そうでない者は魔物の腹の中に収まることとなる。
そんな過酷な環境だが、幼少のころからここで過ごしている私にとっては庭のようなもの。
……と言うのは、まぁ流石に言い過ぎかもしれないけど、少なくとも普段の行動範囲の中であれば迷うことは無いし、魔物の対処も慣れたものだ。
「全く淀みなく進んでますけど……迷ったりはしないんですか?」
「そりゃあね、ここで暮らしてるんだもの」
「それもそうですね。ですが…私には同じ風景にしか見えないので、どうやって位置を把握してるのか不思議に思いまして」
まあ、そうだろうね。
コレばかりは慣れの問題だ。
伊達に十年以上住んでるわけじゃないよ。
そうして順調に森の中を進む。
最初は彼の体調を気遣って少しペースを落としてたんだけど、もう大丈夫そうだったので今は遠慮なく私のペースで歩いている。
巨木の大きな根が地上まで張り出しているため、歩き慣れてないと直ぐに足を取られてしまうと思うんだけど、流石に騎士というだけあって全く問題なく付いて来てる。
そして、一緒に付いてきたレヴィは言わずもがなだろう。
SIDE:グレン
薄暗い足場の悪い森を、かなりのペースで進んでいる。
見た目は可憐な少女であるメリアだが…ここで暮らしていると言うだけあって、かなり慣れた様子で薄暗い森の中を進んでいく。
腰に下げた剣も飾りではないだろう。
いつ魔物に襲われても対処できるように警戒しながら進む彼女が纏う雰囲気は、戦う者のそれと感じられる。
そう思うと、途端に彼女の実力がどれほどのものなのか非常に興味が湧く。
もちろん、今はそんな状況ではないのでそれを口にすることはないが。
だが…
思いがけず、その機会は直ぐにやって来た。
彼女が立ち止まるのと、私が何らかの気配を感じたのは、ほぼ同時だった。
「……流石は騎士様ね。感じた?」
「ええ。これは…囲まれてますね」
「ぐるる……」
息を潜めてこちらを伺う複数の気配を感じたのだ。
レヴィも唸り声を上げて警戒している。
「ここなら少し開けてるし、迎え討ちましょう」
そう言いながら彼女はスラリと抜剣して構える。
とても剣を振るうようには見えない細腕なのだが、剣は全くブレる事もなく……それだけでも彼女の実力が確からしい事が見て取れる。
様になったその様子は、やはり歴戦の戦士のような落ち着きがあり、これからの戦闘を前にしてもなんの気負いも無いようだった。
そんな彼女の様子を横目で見やりながら、俺も愛用の剣を抜き放って襲撃に備える。
「グレン。レヴィと一緒に前衛を任せてもいいかしら?私は剣もそこそこ使えるけど、魔法の方が得意だから」
「分かりました。お任せください」
なるほど。
魔法主体だと前衛の存在は必要になる。
だが、レヴィ以外の仲間がいないのであれば、自衛のためには剣も使える必要があった…と言う事か。
この過酷な環境で一人で暮してきたのだから、それは当然の事かも知れないが……
…と。
考え事をしている場合ではないな。
彼女の剣の腕前にも興味があったが、気持ちを切り替えて襲撃に備える。
襲撃者はじわじわと距離を詰めてきているようで、もうすぐそこまで迫っているようだ。
そこまで来れば、もうこちらが既に察知していて不意打ちは出来ないことは察しているだろう。
それで引き下がってくれれば良いが、殺気が高まっているのでそれは望めなさそうだ。
そして…
『キィーーッッ!!』
『キィッ!!キィーーッ!!』
奇声を発しながら木々の間から襲いかかってきたのは、深い緑色の苔生したような体毛を持ち、二メートル近い体躯の猿の魔物だった。
たしかコイツは…
「モス・エイプよ!!」
そう、ソイツだ。
この森に入る前に、主に生息する魔物についてギルドの資料室で調べたのだが…
それによれば特殊な攻撃手段は持っておらず、専ら力に任せた肉弾攻撃をしてくるのみ。
だが、怪力で俊敏性も高いので侮りがたい。
ギルドが認定する脅威度はCだ。
単体で中堅冒険者並みの力があるということだ。
襲って来たのは3体。
こっちには脅威度A相当のレヴィがいるのに、全くお構いなしだ。
あまり知能は高くないと見える。
俺とレヴィはメリアの前に出て彼女を護りつつ、迎撃態勢を取った。
一気に距離を縮めてきたモス・エイプの一体が大振りで殴りかかってきたのをギリギリで躱して、すり抜けざまにがら空きの胴を長剣で薙ぎ払った。
『ギギャッ!!?』
両断…とまではいかなかったが、腹を深々と切り裂かれたソイツは、傷口から激しく血飛沫を噴き出し地面に倒れ伏した。
そして直ぐさま転進して、もう一匹……
と思ったら、既にレヴィがその鋭い爪で切り裂いて斃していた。
残る最後の一匹は、仲間たちが瞬く間に屠られたのを目の当たりにして足が竦んでいる。
ここはチャンスだ。
一気に間合いを詰めて……
と、その瞬間!!
ドスッ!!ドスドスッ!!
『ギャウッ!?』
鋭く尖った木の根が地面から何本も突き出して、モス・エイプを貫く!
これは……メリアの魔法か?
俺は魔法にはそれほど詳しくないが、一般的に知られてるもの程度は分かる。
だが、植物を操るという魔法は聞いたことがない。
そう言えば詠唱らしき声も聞こえなかった。
無詠唱で魔法を行使できる……それはつまり、彼女の魔法の実力が相当なものであることを示していた。
ともかく、これで敵は全て撃退することが出来た。
それほど時間を取られずに済んで良かった。
SIDE:メリア
うん。
流石は騎士様ね。
モス・エイプはこの森の魔物の中ではそれ程強い方じゃないけど…それでも一瞬で仕留めるその剣碗は中々のものだと思った。
特命を受ける位だから、もしかしたら近衛クラスの実力者なのかも。
とにかく、こんなところで足止めを食らう訳にはいかないから、サクッと撃破出来たのは良かった。
日が落ちれば今ほどのペースでは進めない。
出来るだけ今のうちに距離を稼いでおきたいところだ。
彼には冷静になれとは言ったけど、もし私の予想の中でも最悪のものだったとしたら…もうそれ程時間は残されていないはず。
なるべく急がなければならないだろう。
無理は出来ないからこまめに休憩は入れるけど。
今は出来るだけ前に進もう。
「さぁ、行きましょう」
再び進み始めるが、歩きながらグレンが質問してきた。
「さっきのは…魔法でしょうか?」
モス・エイプの最後の一匹を仕留めた攻撃のことだろう。
特に隠すものでもないので直ぐに答える。
「魔法、と言うか…どちらかと言うと、スキルと言うべきかしらね。見ての通り植物を操る事が出来るの。魔力は使うのだけど、詠唱は要らないわ」
「スキル……どちらにしても初めて見ました。無詠唱であれだけの攻撃が行えるなら、この森の中では無敵なんじゃないですか?」
「そんなことないわ。もっと上位の魔物だと通じないやつも居るし…」
まあ、それならそれで他にも手立てはあるのだけど。
「そうですか…何れにしても頼もしいですね」
「ありがとう。あなたも中々の腕前だったわ。安心して前衛を任せられそうね。こちらこそ、頼りにしてる」
「ええ、お任せ下さい」
「ウォンッ!」
「ふふ、そうね。レヴィも頼りにしてるわ」
「ワウッ!」
グレンに対抗意識でもあるのかな?
可愛い狼だわ。
この森は近隣の町や村の住民から『魔女の森』と言われている。
無論、私の育ての婆ちゃんである『森の魔女』が住む事に因む。
つまり、森の魔女の森だ。
……もう少し洒落たネーミングは出来なかったのかと思わなくもない。
昼なお暗く多くの魔物が徘徊するこの森の深部まで入る人間は多くはない。
魔物由来の素材や、貴重な薬草などを求める冒険者と呼ばれる命知らずの連中か、あるいは……グレンの様に『魔女』に用事がある者だけだろう。
にもかかわらず、広大な上に似たような景色が続いて非常に迷いやすいので、遭難者が後を絶たない。
幸運な者は私が見つけて事なきを得るのだが、そうでない者は魔物の腹の中に収まることとなる。
そんな過酷な環境だが、幼少のころからここで過ごしている私にとっては庭のようなもの。
……と言うのは、まぁ流石に言い過ぎかもしれないけど、少なくとも普段の行動範囲の中であれば迷うことは無いし、魔物の対処も慣れたものだ。
「全く淀みなく進んでますけど……迷ったりはしないんですか?」
「そりゃあね、ここで暮らしてるんだもの」
「それもそうですね。ですが…私には同じ風景にしか見えないので、どうやって位置を把握してるのか不思議に思いまして」
まあ、そうだろうね。
コレばかりは慣れの問題だ。
伊達に十年以上住んでるわけじゃないよ。
そうして順調に森の中を進む。
最初は彼の体調を気遣って少しペースを落としてたんだけど、もう大丈夫そうだったので今は遠慮なく私のペースで歩いている。
巨木の大きな根が地上まで張り出しているため、歩き慣れてないと直ぐに足を取られてしまうと思うんだけど、流石に騎士というだけあって全く問題なく付いて来てる。
そして、一緒に付いてきたレヴィは言わずもがなだろう。
SIDE:グレン
薄暗い足場の悪い森を、かなりのペースで進んでいる。
見た目は可憐な少女であるメリアだが…ここで暮らしていると言うだけあって、かなり慣れた様子で薄暗い森の中を進んでいく。
腰に下げた剣も飾りではないだろう。
いつ魔物に襲われても対処できるように警戒しながら進む彼女が纏う雰囲気は、戦う者のそれと感じられる。
そう思うと、途端に彼女の実力がどれほどのものなのか非常に興味が湧く。
もちろん、今はそんな状況ではないのでそれを口にすることはないが。
だが…
思いがけず、その機会は直ぐにやって来た。
彼女が立ち止まるのと、私が何らかの気配を感じたのは、ほぼ同時だった。
「……流石は騎士様ね。感じた?」
「ええ。これは…囲まれてますね」
「ぐるる……」
息を潜めてこちらを伺う複数の気配を感じたのだ。
レヴィも唸り声を上げて警戒している。
「ここなら少し開けてるし、迎え討ちましょう」
そう言いながら彼女はスラリと抜剣して構える。
とても剣を振るうようには見えない細腕なのだが、剣は全くブレる事もなく……それだけでも彼女の実力が確からしい事が見て取れる。
様になったその様子は、やはり歴戦の戦士のような落ち着きがあり、これからの戦闘を前にしてもなんの気負いも無いようだった。
そんな彼女の様子を横目で見やりながら、俺も愛用の剣を抜き放って襲撃に備える。
「グレン。レヴィと一緒に前衛を任せてもいいかしら?私は剣もそこそこ使えるけど、魔法の方が得意だから」
「分かりました。お任せください」
なるほど。
魔法主体だと前衛の存在は必要になる。
だが、レヴィ以外の仲間がいないのであれば、自衛のためには剣も使える必要があった…と言う事か。
この過酷な環境で一人で暮してきたのだから、それは当然の事かも知れないが……
…と。
考え事をしている場合ではないな。
彼女の剣の腕前にも興味があったが、気持ちを切り替えて襲撃に備える。
襲撃者はじわじわと距離を詰めてきているようで、もうすぐそこまで迫っているようだ。
そこまで来れば、もうこちらが既に察知していて不意打ちは出来ないことは察しているだろう。
それで引き下がってくれれば良いが、殺気が高まっているのでそれは望めなさそうだ。
そして…
『キィーーッッ!!』
『キィッ!!キィーーッ!!』
奇声を発しながら木々の間から襲いかかってきたのは、深い緑色の苔生したような体毛を持ち、二メートル近い体躯の猿の魔物だった。
たしかコイツは…
「モス・エイプよ!!」
そう、ソイツだ。
この森に入る前に、主に生息する魔物についてギルドの資料室で調べたのだが…
それによれば特殊な攻撃手段は持っておらず、専ら力に任せた肉弾攻撃をしてくるのみ。
だが、怪力で俊敏性も高いので侮りがたい。
ギルドが認定する脅威度はCだ。
単体で中堅冒険者並みの力があるということだ。
襲って来たのは3体。
こっちには脅威度A相当のレヴィがいるのに、全くお構いなしだ。
あまり知能は高くないと見える。
俺とレヴィはメリアの前に出て彼女を護りつつ、迎撃態勢を取った。
一気に距離を縮めてきたモス・エイプの一体が大振りで殴りかかってきたのをギリギリで躱して、すり抜けざまにがら空きの胴を長剣で薙ぎ払った。
『ギギャッ!!?』
両断…とまではいかなかったが、腹を深々と切り裂かれたソイツは、傷口から激しく血飛沫を噴き出し地面に倒れ伏した。
そして直ぐさま転進して、もう一匹……
と思ったら、既にレヴィがその鋭い爪で切り裂いて斃していた。
残る最後の一匹は、仲間たちが瞬く間に屠られたのを目の当たりにして足が竦んでいる。
ここはチャンスだ。
一気に間合いを詰めて……
と、その瞬間!!
ドスッ!!ドスドスッ!!
『ギャウッ!?』
鋭く尖った木の根が地面から何本も突き出して、モス・エイプを貫く!
これは……メリアの魔法か?
俺は魔法にはそれほど詳しくないが、一般的に知られてるもの程度は分かる。
だが、植物を操るという魔法は聞いたことがない。
そう言えば詠唱らしき声も聞こえなかった。
無詠唱で魔法を行使できる……それはつまり、彼女の魔法の実力が相当なものであることを示していた。
ともかく、これで敵は全て撃退することが出来た。
それほど時間を取られずに済んで良かった。
SIDE:メリア
うん。
流石は騎士様ね。
モス・エイプはこの森の魔物の中ではそれ程強い方じゃないけど…それでも一瞬で仕留めるその剣碗は中々のものだと思った。
特命を受ける位だから、もしかしたら近衛クラスの実力者なのかも。
とにかく、こんなところで足止めを食らう訳にはいかないから、サクッと撃破出来たのは良かった。
日が落ちれば今ほどのペースでは進めない。
出来るだけ今のうちに距離を稼いでおきたいところだ。
彼には冷静になれとは言ったけど、もし私の予想の中でも最悪のものだったとしたら…もうそれ程時間は残されていないはず。
なるべく急がなければならないだろう。
無理は出来ないからこまめに休憩は入れるけど。
今は出来るだけ前に進もう。
「さぁ、行きましょう」
再び進み始めるが、歩きながらグレンが質問してきた。
「さっきのは…魔法でしょうか?」
モス・エイプの最後の一匹を仕留めた攻撃のことだろう。
特に隠すものでもないので直ぐに答える。
「魔法、と言うか…どちらかと言うと、スキルと言うべきかしらね。見ての通り植物を操る事が出来るの。魔力は使うのだけど、詠唱は要らないわ」
「スキル……どちらにしても初めて見ました。無詠唱であれだけの攻撃が行えるなら、この森の中では無敵なんじゃないですか?」
「そんなことないわ。もっと上位の魔物だと通じないやつも居るし…」
まあ、それならそれで他にも手立てはあるのだけど。
「そうですか…何れにしても頼もしいですね」
「ありがとう。あなたも中々の腕前だったわ。安心して前衛を任せられそうね。こちらこそ、頼りにしてる」
「ええ、お任せ下さい」
「ウォンッ!」
「ふふ、そうね。レヴィも頼りにしてるわ」
「ワウッ!」
グレンに対抗意識でもあるのかな?
可愛い狼だわ。
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