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01 出会い
しおりを挟むSIDE:????
ふと気が付けば、俺は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
特命を帯び仲間たちとともに『始原の森』に入って……順調に進んでると思った矢先に思いがけない強力な魔物と遭遇し、逃げ出せたのは良かったのだが…
その際に荷物を失い、仲間ともはぐれ……その上道にも迷ってしまったのが致命的だった。
数日彷徨い水も食料も尽きて……幸いにも、水に関しては木々や草花が纏う夜露に救われたが、疲労と空腹は如何ともし難かった。
食べられる植物の知識でもあれば何とかなったのかも知れないが…
結局、精根尽き果て倒れてしまい……そこからの記憶が曖昧だ。
女神様が迎えに来て、いよいよ死ぬのか…と思った記憶が微かに残ってるのだが…どうやら一命は取り留めたらしい。
きっと、あれは夢だったのだろう。
だが、ここは一体何処なんだ?
俺が寝かされているベッドの他には、クローゼットと事務机、部屋の割には大きな本棚。
それほど広くはないが、よく整頓されている。
所々レースの飾り付けや、机や出窓には花瓶に花が活けてある。
どうやら部屋の主は女性らしい。
どことなく良い香りもするような…
しばらく部屋の中を観察していると、部屋の入口の扉が小さくノックされた。
「あ、はい…どうぞ」
返事をすると直ぐに扉が開く。
そして、そこに現れたのは…
現れた少女のあまりの美しさに、思わず言葉を失い魅入ってしまった。
陽光の如く煌めく黄金の髪。
蒼穹を写し撮った様に澄んだ青い瞳。
俺にとっては見慣れた組み合わせの色彩であるはずなのに……彼女が纏うその色は、これまで見たこともない輝きを放っているように感じた。
そして…まだ幾分か幼さを残すものの、女神と見紛うほどの美しい相貌。
これほどの美しい女性がこの世に存在するとは、にわかには信じられなかった。
「良かった、気が付いたのね。気分はどうかしら?」
声も美しく、耳に心地よい。
暫し呆然としかけたが、ハッとなって慌てて応える。
「え、ええ、お陰様で………貴女が私を助けてくれたのでしょうか?」
「そうよ。覚えてないかしら…?まぁ、意識が朦朧としていたみたいだし仕方がないか。森の中で貴方が倒れていてたのを見つけて……一先ず薬を飲ませてから、ここまで運んできたのよ」
「そう…でしたか」
あの夢だと思っていた女神との邂逅は……夢ではなかったのかもしれない。
目の前の少女はまさに女神の如き美貌の持ち主なのだから。
とにかく、助けてもらった礼を言わなければ。
「危ないところを助けていただき、誠にありがとうございました。おかげで命拾いしました」
「どういたしまして。ところで、あなた……ああ、まだ名前を聞いてなかったわね。私の名前はメリアと言うのだけど、覚えてないわよね?」
「す、すみません……え~と、私の名はグレンと申します」
「グレンさんね、よろしく。ところで、お腹は空いていないかしら?滋養強壮の薬を飲んだとは言え、空腹と疲労で倒れたのなら何か少しでもお腹に入れたほうが良いと思うけど…」
そう問われた途端、身体が空腹を思い出したのか、ぐぅ~…と腹から音が鳴ってしまう。
「ふふ、分かったわ。少し待っててね」
俺の腹の虫の声を聞き届けたメリアは、笑いながらそう言って部屋を出ていった。
……正直すぎる自分の身体が恨めしかった。
SIDE:メリア
取りあえずは元気そうで良かった。
話した感じでは悪い人では無さそうだし。
厄介事には違いないかもしれないけど、目の前で死なれても寝覚めが悪いからね。
いや~しかし、もの凄いイケメンだわ~。
いや、森で助けたときから分かってたけど。
起きた状態で見ると破壊力が半端ない。
と言うか、この世界、総じて顔面偏差値が高いのよね。
たまに買い出しで街に出ても、道行く普通の人達が美男美女ばかりだもの。
さて、いくら空腹と言っても…流石にいきなり重いものは食べられないだろうし、やっぱりお粥が良いかな。
ちょっとの塩味。
薬味代わりにアレとコレと…滋養強壮、食欲増進、栄養満点ってね。
よし、出来た!
う~ん、唯のお粥とは思えないくらいに美味しそう。
自画自賛だわ。
それじゃあ、持ってきますか。
SIDE:グレン
メリアが出ていって暫くしてから、美味しそうな匂いが漂ってきた。
それで益々腹の虫が早くしろと訴えかける。
頼むから、もう少し黙っててくれ……
そして、コンコン…とノックの音がして、再びメリアがやって来た。
手にはトレーを持ち、その上に湯気を立てる器が乗っている。
「お待たせ。まだ胃腸も弱ってるだろうし、お粥を作ったわ。口に合うか分からないけど…おかわりもあるから遠慮なく言ってね。あ、熱いから気をつけて」
そう言いながら、トレーごと器を渡してくれる。
「ありがとうございます。ああ…美味しそうだ」
先程から漂っていた良い匂いの元。
唯のお粥ではなく、色々な具材が入っていて手が込んでる感じがする。
スプーンで掬って、ふぅふぅ…と冷ましてから口に入れる。
控えめな塩加減の優しい味が口の中に広がった。
「…美味しい」
「そう!良かった、口にあって」
そう言う彼女の表情は、本当に嬉しそうで…
ともすれば怜悧とも言えるほどの美貌が、そんなふうに笑うと途端に年頃の少女のように可憐で親しみやすいものになる。
再び惹き込まれそうになるが、ジロジロと見るのは失礼だと思いとどまって食事に集中することにした。
「じゃあ、見られてたら食べにくいと思うから…私は向こうに行ってるわ。食べ終わった頃にまた来るね」
そして彼女は部屋から出て言った。
…少し寂しいと思ってしまったのは、きっと体調のせいだろう。
そして、ちょうど全て食べ終わったタイミングで、再びメリアがやって来た。
「食べ終わったみたいね」
「はい、ごちそうさまでした」
「どういたしまして。……さて、じゃあ少しお話をしましょうか。あ、その前に…体調はもう大丈夫?」
「ええ。まだ本調子とはいきませんが、問題ありません。私も状況を確認したいですし」
「分かったわ。…え~と、グレンさんが倒れていた状況から察するに、この森に目的があって探索していたけど、迷って遭難した…ということかしら?荷物も無いようだし、もしかして魔物に襲われた?」
「グレンで良いですよ。…そうですね、正に仰っていただいた通りです。数名の仲間とともに行動していたのですが…彼らとも逸れてしまって」
「なるほど。じゃあ今頃その人達が探しているかも知れないわね」
「そう…ですね。ただ、食料なども限りがありますし…諦めて引き返した可能性のほうが高いかも知れません」
おそらく最初は探し出そうとはしてくれてたとは思うが…二次遭難の危険も考えれば、撤退が妥当な判断だろう。
「そう……それで、グレンの目的は…『森の魔女』なのかしら?」
…!
それを知っているということは…メリアは関係者ということか?
最初は彼女自身がそうなのかも…と思ったのだが、伝え聞く『森の魔女』は数百年の時を生きていると言う。
流石に目の前の少女がそうだとは思えなかった。
「ええ…詳しい内容は本人にしか話せないのですが…もしかして、メリアは『森の魔女』の身内…でしょうか?」
「……そうね。私は『森の魔女』の……孫みたいなものかしら?」
「!…で、では!彼女に会わせては頂けないでしょうか!?」
勢い込んでそうお願いする。
何としても使命は果たさなければ……と言う気持ちが先行してしまったが、少し失礼だったかも知れない。
だが、彼女は悲しげに目を伏せて……頭を振って言う。
「残念だけど……もう、彼女に会うことは出来ないわ」
「そ、それは……なぜ?」
もう、その時点で予想は付いたのだが…そう聞かずにはいられなかった。
「数年前に亡くなったから」
ああ……やはり、そうなのか…
無情なその答えに、俺は目の前が真っ暗になるような気がするのだった。
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