【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
185 / 191
レティシア15歳 輝く未来へ

第168話 祝宴の夜

しおりを挟む


 夕刻。

 イスパルナ旧王宮の一画を貸し切って鉄道開業の祝賀会が行われていた。
 歴史的偉業を祝う場として相応しい格式ある会場としてそこが選ばれたのである。

 来場者は一番列車の特別招待客のほか、後続の二番、三番列車でやって来た乗客たちの一部も集まってきていた。
 会場となった大ホールには様々な料理が運ばれて立食形式でパーティーが行なわれ、まさに上流階級の社交界といった雰囲気であった。


 開会の折には、王女にして歌姫であるカティアがその美声で祝福の歌を披露し、会場を大いに沸かせて場を暖めた。
 その後も、楽士たちの奏でる優雅な音楽を聞き、料理に舌鼓をうちながら、招待客たちは思い思いに祝いの席を楽しんでいる。



 やはり話題の中心は鉄道であり、初めての乗車体験の感想を興奮した様子で語り合う様子がそこかしこで見られた。

 そんな中、レティシアは多くの人々に囲まれて、幾度となく祝の言葉をかけられていた。


「いや~、あの鉄道というのは実に素晴らしいですね。どうですかな?是非とも次は我が領に……」

「でしたらうちにも是非!」

 開業して実際に列車に乗るまでは懐疑的だった者もいるかもしれない。
 しかし、その圧倒的なスピードと快適さを体験してしまえば、そういう者たちの疑念など吹き飛んでしまっただろう。

 レティシアのもとに集まった者の中には地方の領主たちも多く、是非自分の領にも鉄道を引いてほしいと訴える。


「皆様に鉄道の素晴らしさをご理解いただけたのは何よりですが……すみません、私の一存では建設計画は決められないのです。先ずは国土・都市開発計画室にご相談を……」

「はっはっは!!次はブレゼンタムへの延伸が決まってるぞ!なぁ、レティシア?」

「あ、アーダッドおじさん……あれ?もう決定なんですか?」

「ああ。さっき陛下から聞いた。先ずは基幹路線として東西の主軸を完成させるってな」

「ですよね~。じゃあ、また忙しくなりますね」

 忙しくなる……と言っても、レティシアは嬉しそうだ。
 それこそ彼女が願っていることだから。


「まあ、貴卿らも慌てることはない。これから国策として鉄道網の整備は迅速に行っていくとの事だからな」

 ブレーゼン侯爵のその言葉に、その場に集まった者たちは大いに沸き立つ。



(……嬉しいな。今日鉄道は開業したけど、それは始まりの一歩に過ぎないと思ってたけど。陛下も、みんなもそう思ってくれてるって事だよね)

 いまこうして一歩を踏み出した。
 そしてこれから先も、その歩みが止まることはない。
 であれば、世界中を列車で旅をするという彼女の夢は、きっと叶うに違いない。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……やっぱり彼女は大人気だね。まあ、今日は婚活よりもビジネスの話が中心みたいだけど」

「レティにとっては、望むところだろう」

「それは君もでしょ」

「もちろん。今となっては俺の夢でもあるからな」


 多くの人々に囲まれて、笑顔で応じるレティシアを離れたところから見守りながら、リディーとフィリップは二人で祝杯をあげていた。

 二人とも告白する決意は固めたものの、レティシアの周りには常に人が集まっているので、タイミングを掴みかねていたのだ。


「ま、そのうち誘い出すタイミングもあるさ。それまでは、この良き日を大いに祝おうじゃないか。それじゃ、僕は他の人達に挨拶してくるよ。じゃあね」

 そう言って彼は片手を上げながら、その場を立ち去っていった。

 リディーはその背中を見送りながら呟く。


「何であいつは普段通りでいられるんだろうな。俺なんか、料理の味もよく分からないっていうのに……」

 今日これから彼らが行動を起こせば、彼らとレティシアの関係は決定的に変わるだろう。

 そしてリディーは……たとえ彼女がフィリップを選んだのだとしても、これまで通りレティシアとともに夢を追いかけ続けようと思っている。
 だが、果たしてそうなったとき、これまで通り彼女に接することができるのだろうか……と、不安な気持ちも抱えていた。




 そんな男たちの思惑をよそに、祝宴の夜は過ぎ去っていく。


 そして運命の時は、もうすぐそこまで迫っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...