【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

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レティシア15歳 輝く未来へ

第167話 仲間たち

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 十分にスピードを落とした列車が、イスパルナ北駅にゆっくりと進入する。

 ホーム上には多くの人々が、アクサレナからの乗客たちを歓迎するために集まっている。
 駅員が大きな声で注意を促しているが、それも歓声にかき消されそうになるほどだ。
 それでも駅員はしっかりと役割を果たし、ホーム上の人々の安全を確保していた。


 やがてブレーキの甲高い金属音が鳴り響くと、列車は停止位置ピッタリに止まった。


 イスパルナ北駅には定刻通り13時着、6時間に及ぶ長旅であったが、この世界の常識に照らせば圧倒的なスピードであり、この程度の時間では長旅とは言わないかもしれない。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「結構あっという間でしたわね」

「そうね。特等車というだけあって凄く快適だったし」

「流れる景色をぼんやり眺めるだけでも楽しかったわ」

「『駅弁』も美味しかったよ!」

 レティシアの学友たちは、満足そうに感想を言い合いながら、列車を降りる。


「レティ、どうだった?」

 カティアは、夢を実現したレティシアの今の気持ちが気になって質問する。

「最高だったよ!もう、早く他の路線も計画進めたい!」

「気が早いねぇ……もう少し余韻に浸ったら?」

「だって……私の野望は、世界中に鉄道網を張り巡らせることだからね!……まあ、今は確かに、初めての鉄道開業をもっとお祝いしないとだね」

 彼女の夢はこうして一つの形になったのだが、それはまだ通過点に過ぎない。
 世界中を鉄道で旅をする……それが彼女の夢の原点なのだから。


「次は祝賀パーティー?」

「うん。夜まで少し時間があるから、皆は公爵邸うちでゆっくりしててね」

 アクサレナから乗車した特別招待客たちは、このままイスパルナに留まって祝賀パーティーに参加する事になっている。
 鉄道発祥の地ともいえるこの場所で、開業の日のお祝いを締めくくるのだ。


「レティシアさんはどうするんですの?」

「私はモーリス商会と車両センターの方に顔を出して、皆を労ってこないと」

「いろいろ大変だね、会長さんは」

「好きでやってる事だからね~。大変なことも多いけど、楽しいよ」

 レティシアはそう言って、言葉通り充実してることを窺わせる笑顔を見せた。




「レティ、俺も行こう」

「あ、僕もついて行っても良いかな?」

 そう声をかけてきたのは、レティシアたちのあとから列車を降りたフィリップとリディーだ。
 彼らも特等車に乗っていたのだが、レティシアが友人たちと楽しそうにしていたので、車内では声をかけるのを遠慮していたのだ。

「あ、リディー、フィリップさん。うん、一緒に行こう。先ずは皆をウチに案内してからね」


 レティシアたちは、乗車してきた列車に別れを告げて、イスパルナ北駅をあとにする。

 そして、乗客たちを降ろした列車は機関車交換と車内整備を行った後、また新たな乗客を乗せて折り返しアクサレナへ出発することになるだろう。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「じゃあ皆、ゆっくり寛いでいてね!」

「レティ、また後でね」

「うん。じゃあ行ってきま~す」


 公爵邸にカティアたちを案内したあと、レティシアはリディー、フィリップとともにその場を去っていった。



 そして残された友人たちは……


「ふむ……ルシェーラさんや?」

「ええ、レティシアさんの本命はどちらか……ですわね?」

 カティアがみなまで言うまでもなく、ルシェーラは先回りして言う。
 レティシアとリディーの恋愛を密かに応援していた彼女たちであるが、ここに来てまさかのフィリップの存在に、彼女たちは驚きを隠せなかった。


「私、フィリップ王子とはあまり話をしたことがなかったんだけど……そう言えば、レティとは随分親しい間柄なんだよね。彼があの娘に気があるのは……」

「ええ、それは間違いないですわね」

「なになに?あの三人って、三角関係なの?」

 カティアたちの話に、シフィルや他の二人も興味津々である。
 皆年頃の娘なので、恋愛関連の話はとても気になるところだろう。


「これは今後の展開、見逃せませんわ……と言いたいところですが」

「ん?」

「たぶん、すぐに決着がつきそうですわね」

「え?そーなの?」

「あの二人……決意をしたような表情でした。きっと、今日レティシアさんに告白するつもりですわよ」

「そ、そんなことまで分かるんだ……。流石のルシェーラ先生だよ」

 恋愛マスター・ルシェーラの目は全てお見通しなのである。


「じゃあ、そうなったら鉄道開業のお祝いの次は、レティちゃんのお祝いだね!」

「そうね、皆で祝福しましょう」

 メリエルの提案にステラも賛同する。

 果たして、あの三人の関係がどうなるのか。
 何れにしても、レティシアに幸せになってもらいたい……というのが、友人たちの共通する思いであった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「親方!マティス先生!」

「おう、会長、副会長。お疲れさん!」

「レティ、先ずは開業おめでとう。フィリップ様、ようこそお越しくださいました」


 公爵邸近くのイスパルナ総合車両センターを訪問したレティシアたちは、親方マルク、マティスと挨拶を交わす。

 レティシアとリディーが王都に行って以来、なかなか彼らと会う機会がなかったが、全線での試験を始めたころには何度か会うこともあった。


「親方も先生も……一番列車には乗らなかったんですか?」

「俺は試験でもう何度も乗ってるからな……今日は何かあったときのために待機していた。何と言っても大事な日だからな」

「私も同じだよ。まあ、これからいくらでも乗る機会はあるだろうしな」

 もちろんここには大勢のスタッフがいるので、彼らがいなくても対応はできるはずなのだが。
 それでも、自分の仕事に責任感を持っているが故の判断なのだろう。


「そっか~……ありがとうございます!」

「でも二人とも、祝賀会には出席してくださいね。功労者なんですから。今日という日の最後は、共に祝いましょう」

 レティシアは裏方に徹してくれた二人に感謝し、リディーはそんなふうに誘いの言葉をかける。


「そうだよね。鉄道開発の原点は……このメンバーなんだから」

 親方に、マティス、リディー……レティシアにとって鉄道開発における最初の仲間たちだ。
 リディーの言う通り、このメンバーでお祝いしたいというのは彼女も同じ気持ちである。


「ああ、分かった。まあ、俺も美味いもん食いに行きたかったから、もともと祝賀会は出るつもりだったぞ」

「あはは!親方はそうだよね!」

 親方の言葉に笑いが起こる。

 そしてレティシアは、道中の車両には特に問題なかったことや、式典や車内の乗客たちの様子を二人に伝えた。
 それから、次の路線の計画や新たな車両開発の予定などについて、その場で議論を始める。



 そんな彼らを、フィリップは微笑ましそうに、そして少し羨ましそうな眼差しで見つめるのだった。

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