184 / 191
レティシア15歳 輝く未来へ
第167話 仲間たち
しおりを挟む十分にスピードを落とした列車が、イスパルナ北駅にゆっくりと進入する。
ホーム上には多くの人々が、アクサレナからの乗客たちを歓迎するために集まっている。
駅員が大きな声で注意を促しているが、それも歓声にかき消されそうになるほどだ。
それでも駅員はしっかりと役割を果たし、ホーム上の人々の安全を確保していた。
やがてブレーキの甲高い金属音が鳴り響くと、列車は停止位置ピッタリに止まった。
イスパルナ北駅には定刻通り13時着、6時間に及ぶ長旅であったが、この世界の常識に照らせば圧倒的なスピードであり、この程度の時間では長旅とは言わないかもしれない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「結構あっという間でしたわね」
「そうね。特等車というだけあって凄く快適だったし」
「流れる景色をぼんやり眺めるだけでも楽しかったわ」
「『駅弁』も美味しかったよ!」
レティシアの学友たちは、満足そうに感想を言い合いながら、列車を降りる。
「レティ、どうだった?」
カティアは、夢を実現したレティシアの今の気持ちが気になって質問する。
「最高だったよ!もう、早く他の路線も計画進めたい!」
「気が早いねぇ……もう少し余韻に浸ったら?」
「だって……私の野望は、世界中に鉄道網を張り巡らせることだからね!……まあ、今は確かに、初めての鉄道開業をもっとお祝いしないとだね」
彼女の夢はこうして一つの形になったのだが、それはまだ通過点に過ぎない。
世界中を鉄道で旅をする……それが彼女の夢の原点なのだから。
「次は祝賀パーティー?」
「うん。夜まで少し時間があるから、皆は公爵邸でゆっくりしててね」
アクサレナから乗車した特別招待客たちは、このままイスパルナに留まって祝賀パーティーに参加する事になっている。
鉄道発祥の地ともいえるこの場所で、開業の日のお祝いを締めくくるのだ。
「レティシアさんはどうするんですの?」
「私はモーリス商会と車両センターの方に顔を出して、皆を労ってこないと」
「いろいろ大変だね、会長さんは」
「好きでやってる事だからね~。大変なことも多いけど、楽しいよ」
レティシアはそう言って、言葉通り充実してることを窺わせる笑顔を見せた。
「レティ、俺も行こう」
「あ、僕もついて行っても良いかな?」
そう声をかけてきたのは、レティシアたちのあとから列車を降りたフィリップとリディーだ。
彼らも特等車に乗っていたのだが、レティシアが友人たちと楽しそうにしていたので、車内では声をかけるのを遠慮していたのだ。
「あ、リディー、フィリップさん。うん、一緒に行こう。先ずは皆をウチに案内してからね」
レティシアたちは、乗車してきた列車に別れを告げて、イスパルナ北駅をあとにする。
そして、乗客たちを降ろした列車は機関車交換と車内整備を行った後、また新たな乗客を乗せて折り返しアクサレナへ出発することになるだろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「じゃあ皆、ゆっくり寛いでいてね!」
「レティ、また後でね」
「うん。じゃあ行ってきま~す」
公爵邸にカティアたちを案内したあと、レティシアはリディー、フィリップとともにその場を去っていった。
そして残された友人たちは……
「ふむ……ルシェーラさんや?」
「ええ、レティシアさんの本命はどちらか……ですわね?」
カティアがみなまで言うまでもなく、ルシェーラは先回りして言う。
レティシアとリディーの恋愛を密かに応援していた彼女たちであるが、ここに来てまさかのフィリップの存在に、彼女たちは驚きを隠せなかった。
「私、フィリップ王子とはあまり話をしたことがなかったんだけど……そう言えば、レティとは随分親しい間柄なんだよね。彼があの娘に気があるのは……」
「ええ、それは間違いないですわね」
「なになに?あの三人って、三角関係なの?」
カティアたちの話に、シフィルや他の二人も興味津々である。
皆年頃の娘なので、恋愛関連の話はとても気になるところだろう。
「これは今後の展開、見逃せませんわ……と言いたいところですが」
「ん?」
「たぶん、すぐに決着がつきそうですわね」
「え?そーなの?」
「あの二人……決意をしたような表情でした。きっと、今日レティシアさんに告白するつもりですわよ」
「そ、そんなことまで分かるんだ……。流石のルシェーラ先生だよ」
恋愛マスター・ルシェーラの目は全てお見通しなのである。
「じゃあ、そうなったら鉄道開業のお祝いの次は、レティちゃんのお祝いだね!」
「そうね、皆で祝福しましょう」
メリエルの提案にステラも賛同する。
果たして、あの三人の関係がどうなるのか。
何れにしても、レティシアに幸せになってもらいたい……というのが、友人たちの共通する思いであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「親方!マティス先生!」
「おう、会長、副会長。お疲れさん!」
「レティ、先ずは開業おめでとう。フィリップ様、ようこそお越しくださいました」
公爵邸近くのイスパルナ総合車両センターを訪問したレティシアたちは、親方、マティスと挨拶を交わす。
レティシアとリディーが王都に行って以来、なかなか彼らと会う機会がなかったが、全線での試験を始めたころには何度か会うこともあった。
「親方も先生も……一番列車には乗らなかったんですか?」
「俺は試験でもう何度も乗ってるからな……今日は何かあったときのために待機していた。何と言っても大事な日だからな」
「私も同じだよ。まあ、これからいくらでも乗る機会はあるだろうしな」
もちろんここには大勢のスタッフがいるので、彼らがいなくても対応はできるはずなのだが。
それでも、自分の仕事に責任感を持っているが故の判断なのだろう。
「そっか~……ありがとうございます!」
「でも二人とも、祝賀会には出席してくださいね。功労者なんですから。今日という日の最後は、共に祝いましょう」
レティシアは裏方に徹してくれた二人に感謝し、リディーはそんなふうに誘いの言葉をかける。
「そうだよね。鉄道開発の原点は……このメンバーなんだから」
親方に、マティス、リディー……レティシアにとって鉄道開発における最初の仲間たちだ。
リディーの言う通り、このメンバーでお祝いしたいというのは彼女も同じ気持ちである。
「ああ、分かった。まあ、俺も美味いもん食いに行きたかったから、もともと祝賀会は出るつもりだったぞ」
「あはは!親方はそうだよね!」
親方の言葉に笑いが起こる。
そしてレティシアは、道中の車両には特に問題なかったことや、式典や車内の乗客たちの様子を二人に伝えた。
それから、次の路線の計画や新たな車両開発の予定などについて、その場で議論を始める。
そんな彼らを、フィリップは微笑ましそうに、そして少し羨ましそうな眼差しで見つめるのだった。
40
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる