【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
183 / 191
レティシア15歳 輝く未来へ

第166話 鉄橋を渡る

しおりを挟む


 アクサレナを出発した一番列車は順調に鉄路を走り抜け、ちょうど中間地点となるアレイスト駅に到着した。
 列車はこの駅で、暫くの間停車することになっている。

 乗客たちはそのまま車内に留まる者、長い間揺られていた身体をほぐすために一旦ホームに降りる者……それぞれが思い思いの行動を取っていた。

 中には、最近王都で売り出された写像魔道具カメラで記念撮影する者の姿もちらほらと見られる。
 カティアもその一人で、友人たちを集めて機関車をバックに撮影していた。
 他の撮影者の多くも、車両をバックに人物中心で撮影しているが、中には列車だけを被写体にしている者も見られる。

(撮り鉄の第一号……ってことかな?今はまだ大丈夫だけど、将来的には何か対策考える必要があるのかなぁ……?)

 自身が転生するきっかけとなった、撮り鉄の迷惑行為を思い浮かべるレティシア。
 彼女にとってはトラウマにもなりそうな記憶だが、今となっては過去の思い出。
 彼らに感謝することなどもちろんあり得ないが、今この世界でこうして生きているのは、幸せなことだと思っている。



 そして数分後、反対ホームにはイスパルナ発の一番列車も到着する。



「父さん!!母さん!!」

「やあ、レティ。そちらも問題なかったようだね」

「レティ、お疲れ様」

 イスパルナ発の列車からホームに降り立ったのは、レティシアの両親だ。
 彼らはイスパルナでの開業式典に主催者として出席したあと列車に乗込み、ここアレイスト駅でレティシアたちが乗ってきた列車で一緒に折り返す予定となっていた。


「イスパルナの式典はどうだった?」

「いやあ、凄い盛り上がりだったよ。王都もそうだったんだろう?」

「うん!王都も凄かったよ!」

「アレシア大河を渡るときもね、すごい歓声が上がったのよ」

 そういうアデリーヌ自身、とても興奮した様子だ。

「うわぁ……楽しみだなぁ……」

 そしてレティシアは、これから先に訪れるであろう車窓の素晴らしさを想像して目を輝かせた。

 アクサレナ~イスパルナ間は比較的平坦な地形なので、景色の変化はあまり大きくはない。
 それでも車窓に飽きることはなかったのだが、ハイライトとも言える場所を通るのは期待も大きいだろう。


 そして双方の一番列車同士がすれ違い、アレイスト駅を出発する。
 すぐに大河に架かる鉄橋を渡ることになるだろう。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ドドン、ドドン……と、地上よりも重たい音を立てて列車はアレシア大河の大鉄橋を渡っていく。

 最新の橋梁工学の粋を結集して架けられたこの橋は、黄金街道の六連橋と並行して川を渡る。
 その構造は、川岸から河川敷部を渡る部分はガーダー橋、川面を渡る部分はトラス橋となっている。

(前世で『鉄橋』って言ったらトラス橋のイメージだよね)

 鉄骨を三角になるように組み合わせて強度を得るというもので、レティシアの前世ではごくありふれたものだが、この世界ではこれほど大規模なものは他に例がない。

 ガーダー橋というのは、トラス橋よりもシンプルで特別な構造は持たないが、橋桁の間隔を短くとる必要がある。

 この二つの組み合わせは、レティシアの前世でも割と一般的なものだ。



「うわ~……凄い橋だね」

「よく数ヶ月程度でこんな橋を作れたわね」

 メリエルは窓に張り付いて夢中になって窓の外を眺め、シフィルは感嘆の呟きを漏らす。


「アレイストの町に工場を作って、そこで鉄骨とかの部材を生産したんだけど。両岸まで線路が繋がったあとは、試験も兼ねて貨物列車を走らせて……他の街で生産した部材も運び込んだんだよ。架橋工事には魔導力機関を搭載したクレーンなんかも導入したんだ。世界最先端の工事現場だったのは間違いないね」

 と、レティシアは自慢げに解説する。

 その間にも列車はゆっくりと鉄橋を渡っていく。
 スピードを落としているのは、開業から当面の間は徐行運転する事になっているからだ。
 試験運転によって安全性は確認されているが、念には念を入れて日々の点検を重点的に行い、段階的に制限解除していくのである。

 そういった事情があるのだが、景色の良いところで徐行運転というのは、ある意味ではサービスのようなものだ。

 雄大な大河の流れに誰もが目を奪われ、車窓に釘付けとなっている事だろう。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ほどなくアレシア大河を渡りきった列車は、再びスピードを上げて走り始める。

 そして、リンデブルック駅、トゥージス駅に停車したあと、終点のイスパルナはあともう少し。
 黄金色が目にも眩しい収穫間際の穀倉地帯を列車は走り抜けていく。


 やがて、まばらだった人家が密集し始め大都市の郊外という雰囲気になり……遠くにイスパルナの街影も見えてくるのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...