182 / 191
レティシア15歳 輝く未来へ
第165話 一番列車
しおりを挟むアクサレナ・イスパル中央駅での開業式典は盛大に行われ、国王ユリウスやレティシアが挨拶を終えると、起工式の時を超える大歓声が上がった。
そして開業一番列車に招待客が乗り込む。
一般にも募集をかけたところ、膨大な数の応募が殺到した。
応募定員500名に対して応募数は数千にも及んだことからも、鉄道に対する国民の関心の高さを示しているだろう。
列車は、01型魔導力機関車を先頭に客車8両を連結した編成で、前方5両は一般招待客が乗る一等~三等客車。
そして、国王一家や高位貴族、特にレティシアと親しい友人たちは、編成の後方に3両連結された特等車両に乗車する。
ホーム上では関係者が式典最後のイベントの準備を行っている。
出発を見送る人たちに応えるため、列車最後尾の特等ラウンジ車の展望デッキには国王一家やレティシアたちが立ち出発の時間を待っていた。
『まもなく、7時発のイスパルナ北駅行き一番列車が発車します。ご利用の方はご乗車のうえお待ち下さい。途中停車駅は、プレナ、キルシュヒル、アレイスト、リンデブルック、トゥージスです』
この日から日常の光景となるであろう出発案内のアナウンスの声が駅構内に響く。
そして、出発時間直前になるとホーム上ではテープが張られ、都市計画室室長のアドレアン伯爵がその前に立つ。
そして……
「イスパル邦有鉄道、レティシア鉄道、一番列車!!出発!!進行!!」
アドレアン伯爵が大きな声で宣言すると、テープカットが行われる。
ピィーーッッ!!!
警笛の音も高らかに、ゆっくりと列車が動き出す。
「いってきま~すっ!!!」
レティシアが満面の笑顔で、大きな声でホームの人々に別れを告げる。
それに合わせてデッキに立つユリウスたちが手を降ると、集まった人々から大きな歓声が上がるのだった。
こうして、7時ちょうどのイスパルナ北行き一番列車は、無事定刻でアクサレナを出発するのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「レティ、泣いてるの?」
「うん。もちろん、嬉し涙だよ」
ここに至るまでの様々な苦労と喜びを思い出し……列車が走り出したとき、彼女は涙をこらえることが出来なかった。
そんな彼女の想いを察した他の者たちは、存分に感慨に浸ってもらおうと、その場をカティアに任せて一足先に室内で寛いでいる。
「ふふ……そんなんじゃあ、せっかくの景色が楽しめないじゃない。乗り鉄なんでしょ?」
「ぐすっ……だって……もう、最近涙もろすぎるよ、私……」
そんなレティシアに苦笑しながら、カティアは遠ざかっていくアクサレナの街と、尽きることなく流れ去っていくレールを眺める。
「すごい……ね。あっという間に景色が流れていく。きっと、こんなスピードで世界もどんどん変わっていくのかな……」
「うん……なに?不安なの?」
「ふふ、まさか!もう、希望しか無いよ!わくわくするね!」
カティアはそう言うが、実際のところ変わっていくことに対する不安は少しある。
だが、それ以上に……希望の方がはるかに大きいのは確かだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あ、レティシアさん、カティアさん。もう外は良いのですか?」
「レティ、目が赤いわよ」
「シフィル、そういう事は言わないの」
「もう、感無量……って感じだったもんね!」
レティシアとカティアが車内に戻ると、特等ラウンジの豪華なソファーに座ってお喋りを楽しんでいた学友たちが声をかけてきた。
彼女たちだけでなく、広々とした車内では特別招待の乗客たちが思い思いに車窓を眺めながら会話を楽しんでいた。
ちょっとした社交界といった雰囲気である。
「どう?カティアやルシェーラちゃんは前に試験運転で乗ったことあると思うけど、他の皆は初めてでしょ?」
「凄いよ!!もう……とにかく凄いよ!!」
「メリエル、語彙がアレよ。まあ、でも、とにかく凄いのはその通りね。これは世界が一変するわよ」
メリエルは子供のようにはしゃぎながら、その驚きを表現する言葉が見つからない。
それはシフィルも同じで、興奮を隠しきれない様子。
「私は一度乗ってますけど、やっぱり驚きですわ。早くブレゼンタムまで延伸して下さいね、レティシアさん」
「ブレゼタムから先、アダレットもよろしくお願いね」
「ルシェーラちゃんも、ステラも気が早いね……」
まだ開業したばかりだと言うのに、もう延伸の話をするルシェーラとステラに、レティシアは思わず苦笑する。
「まあ、計画はしてるけど、まずは開業路線が成功しないことにはね」
「それは大丈夫でしょ。今日のあの盛況ぶりを見たら……。もうモーリス商会でツアー商品売り出したりしてるんでしょ?」
「うん!『古都イスパルナとフィラーレ温泉を巡る旅』とかね。宿と乗車券をセットにした商品ね。売れ行きも順調みたい。……そうだ!今度の冬休み、皆で温泉旅行行こうよ!」
「お!いいね!!」
レールの継ぎ目を車輪が刻む小気味よい音と、少女たちの楽しそうな笑い声がラウンジに響く。
そんなふうに、人々の驚きと喜びを乗せて……列車は順調にイスパルナに向けて走るのだった。
40
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる