【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

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レティシア15歳 輝く未来へ

第164話 開業の朝

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 ついにその日はやって来た。


 レティシアが5歳のときに前世の記憶を取り戻して以来……彼女はこの日に向けて邁進してきた。

 始まりは彼女ひとりだけだった。
 しかし、一人、また一人と少しずつ仲間が増え、今となっては国を上げての大事業となった。
 小さな女の子の夢は、多くの人々の希望となったのだ。


 英雄歌姫と仲間たちの活躍によって、世界中に垂れ込めていた暗雲は吹き飛ばされ、いま世界は希望に満ちている。

 そんな世界の、輝ける未来の象徴として……それは歴史に刻まれることだろう。


 王都アクサレナと、古都イスパルナを結ぶ『イスパル邦有鉄道』。
 そこに列車を走らせるのは……『レティシア鉄道』。

 晴れ渡る早朝の秋空の下……満を持して、本日開業となる。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 完成間もない王都側ターミナルは……正式名称を『アクサレナ・イスパル中央駅』と名付けられた。
 アクサレナの外壁外に建設されたにも関わらず『中央駅』と名乗るのは、将来的に大陸各国に向かう幾つもの路線の起点として、イスパル王国の中心となることを願ってのこと。

 今はまだ駅の周辺は閑散としているが、これからここには『鉄道の街』が築かれることになるだろう。
 実際、今日の開業を迎えても駅舎や周辺施設の工事は続けられており、これからどんどん進化し続けていくのだ。


 そんな真新しい駅舎の前には多くの人々が集まっていた。
 これからここで『イスパル邦有鉄道』と『レティシア鉄道』の開業式典が行われるのだ。

 このめでたい日を祝おうと……そして、ひと目話題の鉄道というものを見てみようと、王都中から老若男女が今も続々と詰めかけていた。




「うわぁ~……凄い集まってる。まだ日が昇ったばかりなのに……」

 駅舎の事務室の窓から外を見下ろし、感嘆の声を漏らした。


「これまで試運転はずっとやってたからな、関心も相当高まってたであろう」

「ええ、そうでしょうね。私もこの日が来るのをずっとワクワクしながら待っていたわ」

 誰に向けたでもないレティシアの声に答えたのは、ユリウスとカーシャの国王夫妻だ。
 二人はレティシアが8歳の頃から彼女の語る夢に未来を見出し、これまでずっと陰日向になって支えてきた。
 もしかしたら、為政者としてレティシア以上にこの日を楽しみにしていたのは、彼らなのかもしれない。


「レティ、いよいよだね。あなたの夢が叶う瞬間に立ち会えるのが嬉しいよ」

「ありがとう、カティア!今日はよろしくね!」

 ユリウスたちだけでなく、当然カティアも開業式典に参加する。
 彼ら王族の警護も兼ねて、リュシアンも同席している。
 そして、まだこの場にはいないが……レティシアがこれまで親しくなった多くの知人友人たちも招待されていた。



「ええ。しっかり『レティシア鉄道』の門出を、祝わせてもらうよ」

「うぐ……その名前、今からでも変えられないなかな……」

「無理じゃない?満場一致で決まったんでしょ?」

「私は反対票を投じたよ。会長が反対してるのにぃ……」

 結局、リディーが思いつきで付けていた仮称がそのまま採用されたわけだ。
 他に良い名前も浮かばなかったということもあるが、世界初の鉄道運行会社として『鉄道の母』の名以上に相応しいものはない……と誰もが納得したのである。


「ほら、これ……この社章もレティの横顔だよね」

 と、カティアは式次第にされている、レティシア鉄道の紋章を指し示して言った。

「……私が知らない間にリディーたちが決めちゃったんだよ。ま、まあ……それはカッコイイから良いんだけど」

 複雑そうな顔をしながらも、そのデザイン自体は気に入っている様子。


「うちの紋章をベースにしてるんですよね」

 と、リュシアンが言う通り、デザインのベースはモーリス家の紋章となっている。
 鉄道開発の第一人者、そして最大の出資者はモーリス商会なので、これも反対が出ることはなかった。



 そんなふうにして、レティシアたちは式典までの時間を過ごすのだった。







 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 開業式典がもうすぐ始まるという頃。
 ホームに回送されてきた列車を点検する係員たちの様子を眺めながら立ち話をするリディーとフィリップの姿があった。


「いよいよだね」

「ああ。この日のために、俺達は頑張ってきたんだ」

「少し早いけど……おめでとう」

「ん……ありがとう」

 握手を交わしながら、二人は笑みを浮かべる。

 だが、フィリップが放った次の言葉に、リディーは固まった。


「レティの目的は、今日これから……もうすぐ達成される。この意味、分かるよね?」

「…………」

 真顔になったリディーは、無言で頷く。

 かつてフィリップがレティシアに婚約を申し込んだとき、彼女は鉄道の開業に向けて注力しており、今はそれ以外のことは考えられない……と、一度は断った。
 とりあえずは、答えを先延ばしにしたと言うことだ。

 それを受けて彼は、鉄道が開業したその暁には、改めて婚約を申し込む事にした。
 そして彼女も……特にはっきり約束したわけではないが、その時にはきっと答えを出してくれるはず……と。

 それからフィリップは自国に鉄道を敷くための準備という名目で(それは実際その通りだが)アクサレナにやって来て、彼女との仲を深めるために日々交流を図ってきた。
 その甲斐もあって、フィリップはレティシアと……のみならず、リディーとも親友と言っても良い間柄となった。

 彼の自惚れでなければ……彼女は自分の事を少なからず男として意識してきている……と、フィリップは考えていたのだ。
 もっとも、それはリディーに対しても同じである……とも。

 

「僕は今日……彼女に改めて告白するよ。君はどうする?」

「……俺も。自分の想いにけじめをつけておかなければ……ここから先には進めない。レティがどんな結論を出そうとも、受け入れる覚悟だ」

 フィリップの言葉に、リディーは最後の迷いを見せたものの、彼は覚悟を決めてはっきりと宣言した。

 フィリップがいなければ今も迷っていた。
 あるいは、とうに諦めていたかもしれない。
 そう思うと、何とも奇妙な関係だ……と、彼は苦笑する。



「……よし。これから僕たちはライバル同士だ。まあ、これまでもそうだったけど……どんな結果になっても恨みっこなしということで」 

「ああ」


 そうして二人は暫し袂を分かつ。




 今日は鉄道開業の記念すべき日。
 そして、三人にとっての運命の日ともなるだろう。

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