【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

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レティシア15歳 輝く未来へ

第161話 ブチ切れ〜リディーの場合

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 リディーは静かに、深く……キレていた。
 彼はキレればキレるほど冷静になっていくように見えたが、しかしその実……思考は至ってシンプルになっている。
 すなわち、力押し、ゴリ押しの脳筋思考だ。

 そうでなければ、確たる証拠もなしに貴族の屋敷に押し入るなどという行動は取らないはずだ。

 フィリップを遊撃に回すあたり、少しは冷静さは残っていたようだが……



 そんな彼は屋敷の中に入ると、手当たり次第に攻撃魔法をばら撒く。
 見た目はあくまでも冷静そのものなので、その姿を目撃した家人たちはむしろ得体のしれない恐怖におののく。

 当然、屋敷の中は大混乱に陥っていた。
 使えないはずの魔法で大暴れしていることも、混乱に拍車をかけた要因だろう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「うわ~……無茶苦茶だよ。普段温厚な人がキレると怖いってのは、本当だね。だけど、おかげでこっちは手薄になってる。今のうちにレティの居場所を探さないと……」

 大混乱に陥った屋敷の中……それをもたらしたリディーの所業にやや顔を引きつらせながらも、フィリップは自分の役割を果たそうとする。

 突然の襲撃者に対処するため、警備の者は正面玄関の方に集中しているはず。
 であれば、今のうちにレティシアが囚われている場所を探し出して救出する……そう考えた彼は、人目を避けるように物陰から物陰に移動しながら、目についた扉を注意深く開いて中を確認していった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「何……?今の音は?」

 一人寝室に監禁されたレティシアは、屋敷の中に響き渡る破壊音を聞きつけて、何事かと一瞬身体を固くするが……


「もしかして……誰か助けに来てくれた?」

 そう思うと、いても立ってもいられずに立ち上がって、部屋の出口の方に向かう。
 そして、扉に耳を当てて外の気配を探ろうとした。


(見張りがいるって言ってたけど……よく分かんない。どうしよう……もし助けが来たなら、ここで待ってたほうが良いのか、それとも隙を見て脱出したほうが良いのか……)


 下手に動かないほうが良いとも思えるし、混乱に乗じて動いた方が良いかもしれない……そんな迷いが生じ、彼女は行動を決めかねていた。

 すると、外から更に衝撃音が聞こえてきて、にわかに屋敷の中が騒がしくなる気配が伝わってきた。


「……よし。脱出しよう。よく分からないけど、凄く混乱してるみたいだし」

 彼女はついに決断する。

 そして扉を僅かに開いて外の様子を確認すると……


(……誰もいないみたい。今なら……!)


 扉の周囲に誰もいないことを確認し素早く部屋を出たレティシアは、混乱の気配が感じられることは反対方向に進む。


(裏口とかあればいいんだけど……!)


 ここに連れてこられたときは気を失っていたので、屋敷の構造は分からない。
 しかし、見たところそれなりの屋敷のように思えたので、きっと出入りができる場所はいくつかあるはず……そう思って彼女は出口を探す。


(あのとき、執事っぽいお爺さんに路地裏に誘い込まれて……誰かに背後から口を塞がれて、気付いた時にはここいた)

 その時、彼女は咄嗟に魔法で反撃しようとしたのだが、発動する前に薬品か何かで意識を奪われたのだった。


(私が会議に来なければ、何かあったんだってすぐに分かるはず。だったら、もう既に兄さんやカティアたちが動いてくれてる。絶対に)

 そう信じて、今は最善と思える行動をとるしかない。
 あのまま部屋にいても、万が一の時に人質にされかねないだろう。
 だったら……可能なら屋敷から脱出、それが無理そうなら何処かに隠れて救出を待つ。
 それが最適な行動であると、彼女は判断したのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「ええーい!!これは何事だ!!」

「ダミアン様!!ぞ、賊が屋敷に侵入して……無差別に魔法攻撃をしてます!!」

「馬鹿な!!この屋敷では魔法は無効化されるはずだ!!」

「しかし!!現に……!!」


 夜を楽しみにしながら、自室で父リグレ公爵から与えられた書類仕事をしていたダミアンだったが、突然の大騒ぎに取り乱しながら側近に詰め寄った。
 そして側近の報告を聞いて、ますます激昂する。


「賊だと?まさか……レティシアを取り戻しに?いや、そんなはずは……」

 自分の手下が攫ったことも、ここに監禁してるということも、分かるはずがない。
 もし、何らかの手がかりを得たのだとしても、ここまで辿り着くには時間がかかるはず……
 そう、彼は思ったのだが。

 彼は知らなかった。
 ほんの僅かな痕跡をも見逃さず、真相に辿りつくことができる天才がいることを。
 そして、絶対に怒らせてはならない人物を怒らせたということを。


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