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レティシア15歳 輝く未来へ
第157話 レティシアの行方
しおりを挟む英雄姫カティアと仲間たちが邪神征伐を果たし、グラナ帝国との戦争にも勝利を収めた日から時は過ぎ去り……季節は夏になろうとしていた。
その間、イスパルナ~アクサレナ間の鉄道建設は、アレシア大河両岸までの敷設が終わり、残るのは大河を渡る鉄橋の完成を待つのみ。
それも近日中には終わる見込であり、ついに開業路線の全線が鉄路で結ばれるのは目前となっていた。
レティシアはいよいよ最後の大詰めとなった事業に忙しくしながらも、学業を疎かにすることもなく、また友人たちと過ごすことも大切にしていた。
それは、人生でもっとも充実した日々だったのかもしれない。
そして学園は夏季休暇に入る。
友人たちと海にバカンスに出かけるなど、つかの間の休息を取る一方で、各方面との調整などで忙しさにも拍車がかかっていた。
夏休み前にはアレシア大河の橋梁が完成したことで、既に全線を使用しての試験運転も頻繁に行われ……もう開業は秒読み段階となっていた。
そんなある日のこと。
夏休みもあと数日で終わり、鉄道の正式開業が数週間後に迫った日のことである。
レティシアは開業式典に関する会議に出席するため、王城を目指して一人で街を歩いていた。
同じく会議に出席する予定のリディーや、後学のため見学することになっているフィリップも、現地で合流するはずだ。
グラナ帝国や邪神との戦いが終わって、以前よりもどことなく明るい雰囲気になった街の様子に、レティシアは上機嫌で鼻歌まで出てきそうな雰囲気である。
「ふふ~ん♪やっぱり平和が一番だね~。だからこそ鉄道の旅も楽しめるってもんでしょ。兄さんやカティアたちには、ホント感謝だよ」
彼らだけでなく、勝利のために尽力した全ての人々に感謝し、平和の有り難さを噛み締めながら彼女は街を行く。
と、その時……スキップまでしそうな彼女に、声をかける者がいた。
「もし、そちらのお嬢様……よろしいでしょうか?」
「……え、私?何ですか?」
レティシアが声に振り向くと、そこには身なりの良い老人の姿が。
一見して貴族家の使用人のように見える。
「私は王城勤めの使用人でして……貴女様はレティシア様でお間違いないでしょうか?」
「あ、はい、私はレティシアです」
王城の使用人と言われてみれば、確かにそのような格好だ。
なので彼女は特に怪しむこともなく、正直に答えた。
「ああ、良かったです。実は本日の会議の場所が変更となりまして……伝言を伝えに参ったのです。行き違いにならなくて良かった」
そう言って彼は折りたたまれた紙切れを渡してきた。
レティシアがそれを広げると……
「三番街区……アドレアン邸。議長のアドレアン伯爵の家で?」
「はい、そのように言付かっております」
「ふぅん……?今までそんな事はなかったけどなぁ……」
流石に疑問を感じたレティシアは、首を傾げて言う。
しかし老人は、それも然り……と言った様子で頷きながら続けた。
「何でも、ご夫人が急に病を患ったとかで……家人に指示をするため邸を離れられないとか」
「え!?……それは心配だね。でも、それなら代理を立てて欠席してくれても良いのに……。まあ、開業も近いし、誰かに引き継ぐのも難しいか」
議長という立場上、誰か代理を立てるのも難しかったのかもしれない……と彼女は思いなおし、ひとまずは納得する。
「それじゃあ、会議の後に奥様のお見舞いもしようかな。……あ!私、アドレアン伯爵の邸って場所を知らない……!」
「それでしたら、私めがご案内させていただきます」
「あ、助かります!」
こうしてレティシアは王城ではなく、別の場所に向かう事になったのだが……
前を歩く使用人らしき老人の顔に、怪しげな笑みが浮かんでいたことに彼女は気付かなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……遅い。レティは何をやってるんだ?」
会議が始まる時間になってもやって来ないレティシアに、リディーは苛立たしそうに呟く。
それは彼女に怒っていると言うよりも、心配から来るものだった。
これまで何度も会議には出席してきたが、彼女が遅刻したことなど一度も無かったのだから。
「エリーシャさん、レティはモーリス家は出たんだよね」
「……はい。私がモーリス商会からお邸に立ち寄った時には、もう出発された……と。……私、探してきます!」
「待って。闇雲に探しても行き違いになるだけだよ。もう少しだけ待ってみよう」
フィリップが会長秘書のエリーシャに問うが、彼女もレティシアの行方は把握していない。
そして、焦りの表情で飛び出そうとするエリーシャを、フィリップが冷静に止めた。
彼の言う通り、なんの情報もないまま探そうとしても……よほどの偶然でもなければ見つからないだろう。
単なる遅刻であれば、このまま待っていれば良いが……
「みなさん、申し訳ありません」
リディーが会長の不在を謝罪するが、議長のアドレアン伯爵は気を悪くすることもなく言う。
「いえ、お気になさらず。しかし……確かにレティシア様が会議に遅れるなど、これまでなかったこと。何かあったのでしょうか……」
改めてそう言われてみれば……あの、鉄道に全ての情熱を注いでいるような娘が、それに関わる重要な会議をすっぽかすことなど考えにくい。
ここに来る途中で、何らかのトラブルに見舞われた……そう考えるのが自然なように、リディーたちには思えてきた。
そして1時間も経ったころには、いよいよただ事ではないということになり、皆で手分けして捜索することになるのだった。
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