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レティシア15歳 輝く未来へ
第147話 対抗戦三日目〜サバイバル(2)
しおりを挟む大講堂のモニターに映るカティアの行動に視線が集まる。
それは彼女のクラスメイトたちだけでない。
実況アナウンスが言っていた通り、やはりそれだけ注目されているのだろう。
カティアのスタート地点は薔薇園。
スタート直後は植え込みに身を潜めていた彼女だったが、あたりの気配を探ったあと地図を確認し、少しがっくりした様子を見せた。
しかしすぐに気を取り直して動き出す。
彼女は花々を楽しむこともなく、しかしごく自然で気負いのない足取りで他の場所に向かって歩き始めた。
彼女が歩を進めるに従って、モニターの映像も後を追うように切り替わっていく。
「何か、ふつ~に散歩してるみたいだね」
絵面だけ見ればレティシアにはそう感じられた。
表情からも緊張の様子はうかがえず、これから戦いに臨むようには思えなかったのだ。
「自然体で平常心を保ちながら、それでも警戒は最大限に高める……なかなか難しいことですわ」
「ああいうところは冒険者の経験が活きてるんでしょうね」
ただ歩く姿だけでも、見る者が見れば違いが分かるらしい。
「でも、カティアだけ他の三人から離れちゃったみたいだね……なんか、がっかりしてたよ」
映像の様子から四人のおおよその位置を確認したレティシアが残念そうに呟く。
「まあ、カティアは単独行動でも問題ないでしょう。それより、他の三人が比較的近い位置でスタート出来たのが良かったわ」
「ですわね。ステラさんとユーグさんは後衛ですから、フリードさんが合流すれば安定するでしょう」
シフィルの見解にルシェーラも同意し、それぞれのモニターをチェックする。
どうやら当の三人も合流を目指して動き始めたようだ。
そしてカティアの映像に目をやれば、彼女は薔薇園から庭園の方……池の手前までやって来ると、そこでいったん足を止めた。
そして池の反対側の茂みに視線を向け……突然、大きく跳躍し、一気に池を跳び超え茂みの向こう側に躍り出る。
そこでモニターの映像が切り替わると、カティアに肉薄され慌てふためく男子生徒の様子が映し出される。
そしてまともに構えを取る事もできない彼を、瞬く間に撃破してしまった。
男子生徒は結界を破られて失格となり、近くにある校舎内へと避難する。
なお、今回のカティアの武器は剣ではなく薙刀だ。
武神杯でも使っていたので、それが一番の得意武器であることはレティシアのみならず多くの生徒たちも知っていた。
なんなら武術の授業の時は教師であるスレインをサポートして、彼女が薙刀の教師役をつとめている。
レティシアもその授業で、彼女から薙刀を教わっていた。
さっそく一人撃破……と余韻に浸る間もなく、今度は校舎の陰から不意打ちで放たれた魔法がカティアに襲いかかる。
しかし、背後から迫るそれに即座に反応し、彼女は振り向きざまに回避しながら魔法で反撃。
そしてそれは、魔法を放った直後で硬直した女生徒に直撃。
あっという間に二人目も撃破してしまった。
「あ、あれ……合唱部の部長さんだよ。クラブ内抗争だったんだね。先輩、めっちゃ悔しがってる」
メリエルが不意打ちしてきた女生徒の正体に気が付いて言った。
「下剋上ですわね」
「大物殺しに失敗したのは先輩の方だけど」
モニターには、悔しがる先輩女子と、彼女に近づいて慰めるカティアの様子が映し出されていた。
「それにしても、まだ始まったばかりなのに……もう二人も撃破しちゃったわね。これはカティア無双が始まるかな」
シフィルは楽観的な様子でそんな事をいう。
順当にいけば、きっとそれはその通りになるだろう。
しかし……
カティアが別の場所に移動すると、モニターの場面も切り替わる。
今度彼女がやって来たのは厩舎の近く。
そして再び彼女の前に敵が立ちふさがる。
今度は隠れもせずに、真正面から。
その相手は……
「あ、ガエル!1組と2組の対決だね。カティアには悪いけど、ここはガエルを応援するよ!」
カティアと対峙するのは、メリエルのクラスメイトである男子生徒だ。
二メートル近くありそうな巨漢であり、その体格に見合った大剣を携えていた。
彼は武術対抗戦にも出場しており、トーナメントを順調に勝ち上がっている強者だ。
当然ながら、2組の中では最強の実力者ということである。
「ガエルさんは学生にしてはかなりの実力者ですが……それでもカティアさんには敵わないでしょう」
クラブ活動や授業で彼と対戦した経験のあるルシェーラが冷静にそう評する。
真正面からぶつかれば、カティアの勝ちは揺るぎない……と。
「む~……でも、勝負はやってみなくちゃ最後まで結果は分からないよ!」
「……確かに、それはそうですわね」
メリエルの言葉を肯定するルシェーラ。
実際に戦ってみなければ結果は分からない……確かにその通りだ。
だが、そんな言葉よりも……ルシェーラはガエルの雰囲気に何かこれまでと違うものを感じていた。
それは、武術に精通していないはずのレティシアも同様だった。
二人とも、画面越しではそれが何なのかははっきりとは分からないが……
正面から対峙するカティアとガエルは、一言二言の言葉を交わしたあとそれぞれの武器を構えた。
レティシアたちを含め、カティアに注目していた多くの生徒たちが固唾をのんで成り行きを見守る。
否が応でも緊張感が高まり……その瞬間、大講堂は静寂に包まれる。
そして、戦いの火蓋が切られた。
何かが起こりそうな予感とともに。
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