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レティシア15歳 輝く未来へ

第143話 対抗戦初日

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 クラス対抗戦は、アクサレナ高等学園における最大のイベントである。
 武術、スポーツのみならず様々な競技が行われ、全ての学園生が何らかの競技に参加することになる。
 そして、競い合うのは学年単位ではなく、3学年全てが同じ条件で各競技に臨む。
 そのため、経験値の多い3年のクラスが総合優勝する事が多く、実際にここ数年はずっとそうであった。

 個人競技が比較的多く、団体競技も最大で4人程度であるため、競技数はかなり多い。
 それが一学年あたり8クラス、全学年で24クラスの全生徒が参加する事になるので、当然1日では終わらず、数日間にわたって行うことになる。


 そんな一大イベントが、これから始まるのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 クラス対抗戦の初日。
 最初の競技の一つである『武術対抗戦』の一回戦に、ルシェーラが臨む。
 会場となるのは、普段は武術や体育の授業で使う野外演習場に設けられた武舞台。
 イスパルは武神の国であるので、他の競技よりも多くのギャラリーが会場に集まっていた。
 花形競技のひとつと言われる所以だろう。

 なお、参加選手には事前に強力な結界魔法が施される。
 相手選手の結界を打ち破るか、武舞台から落とせば勝利となるルールだ。



「ルシェーラちゃん、頑張ってね!!」

「これが最初だから、勝って優勝に弾みをつけるわよ!」

「ええ、任せて下さいませ」


 ともすればプレッシャーにもなりかねないレティシアとシフィルの激励の言葉に、ルシェーラは緊張する様子もなく答える。
 彼女は侯爵令嬢という高貴な身分ながら、これまでかなりの実戦経験を積んできた猛者である。
 カティアいわく、既にAランク冒険者くらいの実力はあるらしい。


 そしてルシェーラと対戦する相手の女生徒が武舞台に上がる。

 ルシェーラの武器は身の丈を優に超えるハルバード。
 対戦相手も同じくらいの大きさの両手剣クレイモアだ。


(うわ~……二人とも見た目は華奢なのに、あんな重量武器を使うんだ)

 ルシェーラがハルバードを振るう姿は、レティシアもこれまで何度か見ているが、未だに見た目のギャップに驚く。

(武器のギャップもそうなんだけど、運動着との組み合わせがまた……)

 クラス対抗戦では、生徒たちは制服ではなく揃いの運動着に着替えている。
 レティシアの感覚的には、前世の学校で体育の時に着ていたジャージとあまり変わらないイメージだ。
 武術の授業の時から、彼女はその組み合わせがシュールだと感じていた。


「初戦から凄い戦いになりそうだね……」

 二人の武器の迫力に、レティシアはそう呟いた。


「どうかな。実力的にはルシェーラの方が上のように見えるのだけど……」

「そうね……。でも、あの先輩も結構やりそうな雰囲気よ?」

「確かに油断は禁物だね」

 カティアとシフィルがそう評するが、レティシアにはその辺の感覚は分からない。


「あの人は3年3組のドロテア先輩ね。何でも昨年のクラス対抗戦では準優勝だったらしいわ」

 ステラが対戦相手の情報を説明する。
 どうやら事前に情報収集していたようだ。


「昨年の準優勝者!!初戦からそんな人に当たるなんて……ルシェーラはクジ運が良いね!」

「本当ね!」

「え……?そ、そこは逆なんじゃ………いえ、カティアとシフィルだものね……」

(二人ともバトルジャンキーっぽいもんね……いや、ルシェーラちゃんもそうか)

 武術の授業では、三人が生き生きした様子だったのを思い出して、レティシアはそんな事を思った。



『さあっ!!いよいよ始まります本年度の学園クラス対抗戦!!その初戦を飾るのはやはりこの競技!!対抗戦の長い歴史の中で常に花形競技として君臨し続けました武術対抗戦です!!』

 初戦が開始されるのを今か今かと待ちわびる会場に場を盛り上げるようなアナウンスの声が響き渡ると、ギャラリーと化した生徒たちから大きな歓声が上がった。


「おお……なかなか盛り上げるね~」

「いいね。これはアツイよ」

「武神杯を思い出すわね!」

「流石は武神の国、イスパルよね」

 冬の寒空をも熱くするほどの熱気に、レティシアたちも大いに盛り上がる。


 そして……

「これより、武術対抗戦第1回戦第1試合、1年1組ルシェーラ=ブレーゼン対3年3組ドロテア=ウィンパーの試合を行う!!……では、始め!!」

 審判を務めるスレインの開始の合図により、対抗戦最初の戦いがついに始まった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



『さあ!戦いの火蓋が切られましたが……先ずはお互い様子見でしょうか!』


 開始の合図のあと、ルシェーラもドロテアもすぐに飛び出したりはせず、相手の出方を伺うような静かな立ち上がりだ。
 観客たちもしずかに成り行きを見守り、実況アナウンスの声だけが大きく響いていた。


 ルシェーラの持ち味としては、その重量武器の威力を活かした攻撃にこそある。
 故に、一気に間合いを詰めて相手の防御もろとも吹き飛ばすような怒涛の攻撃を繰り出す……というのが、彼女の本来のスタイルだった。


「最近あの娘、なんか色々試してるみたい」

 これまで様々な事件でルシェーラとともに戦ってきたカティアは、そのような印象を持っていた。


 そして暫くは互いに牽制しながら間合いを測っていたようだが……


「……!ドロテア先輩が動くよ!」

 闘気の高まりを感じたカティアが言葉を発したのとほぼ同時に、ドロテアが行動を開始した。

 彼女は、まだ間合いが離れているにもかかわらず、大剣を大上段に振りかぶり……

「はぁーーーっっ!!!」

 気合とともに一気に振り下ろした。

 すると、大剣から生み出された衝撃波が、武舞台を削りながら猛スピードでルシェーラに襲いかかる。


「せやぁーーーーっっっ!!!!」

 パァーーーンッッッ!!!


 衝撃波が届く直前、彼女は裂帛の気合をもってハルバードを地面に叩きつけると、破裂音が鳴り響いた。
 ルシェーラにダメージは無いようだ。



「えと、ソニックブーム……とか?」

「まあ、そんな感じ。剣術スキル『剛断』だね」

 レティシアはよく分からないなりに、前世のゲームなどの知識から言ってみたが、その認識で大体合っていた。


「だけど、避けるとかじゃなくて力技で消し飛ばすとか……」

「なに言ってるの、あなたも武神杯でユリウス様の『剣閃』を『剛断』で防いでたじゃない。ルシェーラもアレを見てたからでしょ」

 カティアが呆れたように呟くと、シフィルが突っ込む。
 因みに『剣閃』は、『剛断』の薙ぎ払いバージョンである。


(うん、まあ……私の周りはみんな人外レベルばかりなのは知ってた)



 その攻撃を皮切りに、ドロテアが一気呵成にと攻撃を開始する。

 『剛断』を放った直後に間合いを詰めていた彼女は、大剣の重さを感じさせないほどの連撃をルシェーラに見舞う。

 だが、ルシェーラは一歩たりとも退かず、冷静に相手の攻撃の一つ一つを見極めて的確に防御する。
 そして、隙を突くように所々で反撃も行っていた。


 開始直後の静けさに固唾を飲んでいたギャラリーは、一転しての激しい攻防に大きな盛り上がりを見せ、双方を応援する声が飛び交う。


 二人の戦いは一見して互角に見えた。
 しかし……


「やっぱりルシェーラの方が一枚も二枚も上手みたいなんだけど……」

「何か狙ってるわよね、あの娘。攻撃に転じればすぐにでも決着つけられそうだけど……敢えて防御主体にしてる」

「だね。さて……何を見せてくれるのかな?」

 カティアとシフィルには、この戦いはそのように見えていた。

 そして、それはすぐにやってきた。


「はぁーーーっっ!!『限界突破』!!」

 膠着状態を打破すべく最初に動いたのはドロテアの方だ。


『さあ!!ドロテア選手がここで切り札を切ったようです!!これで均衡が崩れて一気に決着となるのでしょうか!!?』

 揺らめく闘気を纏ったドロテアが、それまで以上の猛攻を始める。

 ドンッ!!と、踏み込みの衝撃音をさせて瞬く間に間合いを詰めて大剣をルシェーラの頭の上から叩きつけるように振り下ろす。

 これまで幾度となく振るわれた攻撃と同じたが、そのスピードとパワーはこれまでの比ではない。


 ドゴォッッ!!!


 ルシェーラは冷静に軌道を見極めて、ギリギリ紙一重で攻撃を躱す。
 大剣が勢い余って武舞台を砕き、飛礫がルシェーラの身体にも当たるが、全く動じず意にも介さない。


 そしてドロテアの攻撃は一撃では終わらず、続けざまに胴を狙って薙ぎ払う。
 回避の困難なその一撃を、今度はハルバードで受け止めるルシェーラ。
 『限界突破』によって威力が増しに増しているにも関わらず、受け止めた彼女は微動だにしなかった。


「……ルシェーラがパワーファイターなのは分かるけど、あれを真っ向から受け止めるの?」

「よく見てシフィル。ほら、あの娘、薄っすら光ってるでしょ。あれは、多分……闘気を高めて身体能力を高めてるんだね。ドロテア先輩のスキルと同じようなものだろうけど……」

 スキルというのは、ある意味で魔法のようなものだ。
 しかし、ルシェーラのそれは、地道に積み重ねてきた修練によって体得したものである。


(……闘気とかリアルにあるんだ。まあ、魔法もあるんだし今更か)

 シフィルとカティアの解説を聞きながら、まるっきりゲームや漫画の世界だな……と、レティシアは今更ながら思った。


 そしてその後もドロテアが猛攻を加え、ルシェーラが防ぐと言う構図が続く。
 その間、ルシェーラは一度も攻撃しておらず、観客たちからは防戦一方で打つ手なし……と思われていた。


 しかし。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……。ま、参りました……」

 息も絶え絶えに降参を宣言したのはドロテアの方だった。
 対するルシェーラはまったく呼吸が乱れていない。

 ドロテアは、かなり早い段階からルシェーラとの実力差を肌で感じながらも最後まで必死に戦った。
 しかし、とうとうその気力も途絶えてしまったのだろう。



「そこまで!!勝者、ルシェーラ!!」


 スレインがルシェーラの勝利を宣言すると、大歓声が上がった。
 それは勝利したルシェーラだけでなく、ハイレベルな闘いを披露した双方を称えるものだった。


「やった!先ずは1勝よ!……でも、あの娘もこっち側・・・・よねぇ……?」

「だね」

 勝利を喜びながら、ルシェーラの力をそう評するシフィルとカティア。


「どっちにしろ、ついて行けない世界だよ……」

 しみじみとレティシアは呟いた。




 こうして対抗戦最初の勝ち名乗りは、レティシアたち1年1組が上げるのだった。


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