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レティシア15歳 輝く未来へ
第140話 起工式(後編)
しおりを挟む早朝には誰もいなかった駅建設予定地の空き地に、多くの人が押し寄せる。
『起工式』の式典会場は簡易的な柵で囲まれ、ステージが設けられている。
招待客たちは会場の中に入るが、そうではない見学人も会場の周りに集まり、目ざとく人が集まることを見込んだらしい幾つかの露店も姿を見せていた。
「うぅ……人がいっぱい……胃がイタイよぉ……」
「レティ……しっかり!」
工事事務所の窓から外を見たレティシアが弱音を吐き、カティアはそんな彼女を励ます。
式典の準備の手伝い、あるいは顔つなぎのため外に出ていったリディーやフィリップに代わり、工事事務所の中にはカティアや国王夫妻、レティシアの両親と兄、学園の友人たちをはじめとした式典の来賓が訪れていた。
緊張した様子のレティシアだったが、皆と話をしているうちに多少は和らいだかもしれない。
何と言ってもモーリス商会会長であり鉄道の発案者なのだから、これからこう言う機会も多くなるだろう……そう覚悟を決めて、彼女は式典に臨む。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『皆様、本日はお忙しいところ、また寒空の下にもかかわらずお集まりいただきまことにありがとございます』
拡声の魔道具により、レティシアの挨拶の声が会場中に響き渡る。
式典が始まる前までは緊張で固くなっていた彼女であったが、いざ始まってしまえばそれを感じさせない雰囲気。
なんだかんだ、やれば出来る子である。
『さて、本日こうしてお集まりいただいたのは……世界初の世紀の大事業!鉄道建設がいよいよ本格的に着工となることを記念し、皆様とこの喜びを分かち合うためでございます!』
話しているうちに、むしろ舌も滑らかになってきた様子。
彼女のよく通る綺麗な声が聴衆を惹きつける。
『構想から約10年以上……ここまで来るのに、国王陛下を始めとして多くの方にご尽力頂きました。先ずはこの場をお借りしてお礼申し上げます』
彼女が僅か5歳と言う幼さで鉄道という概念を提唱したことは有名な話。
少なくともこの場にいる者のほとんどは、それを知っているはずだ。
そして彼女は興が乗ってきたのか、これまでの苦労話を身振り手振りを交えて語る。
ノリノリである。
「ンンッ!!」
若干話が脱線しかけたところでリディーがわざとらしく咳払いすると、レティシアはハッ……となった。
『……これから本格的な工事が始まり、順調に計画が進めば今年の夏から秋頃には皆様を素晴らしい鉄道の旅へ誘う事が出来ましょう!』
もうそろそろ正式な開業日も検討に入っているが、まだ工事の進捗によって流動的な部分もあるので確定には至っていない。
スケジュール自体は順調であるものの、昨今の世界情勢には不安もあり、それが影響する可能性も否定できない……と、レティシアは考えていた。
しかし、ここまでくればできる事を着実に進めるだけだろう。
『……以上をもちまして、私の挨拶の言葉とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!』
最後は彼女らしく、元気な声で挨拶を締めくくった。
照れくさそうにステージを降りる彼女を、万雷の拍手が迎える。
「お疲れ様、レティ。素晴らしい挨拶だったよ」
「若干、脱線しかけたがな……」
「フィリップさん、ありがとう。リディー、鉄道の話なのに脱線は禁句だよ」
労いの言葉をかけるフィリップとリディーに、少し紅潮た顔でレティシアは答える。
そして彼女の次は来賓……ユリウスの挨拶だ。
流石に国王の挨拶を傾聴しないのは不敬なので、二人とのやり取りもそこそこに、彼女はステージに注目する。
『皆の者、今日は良く集まってくれた。いまレティシア嬢も申していた通り、今日は我が国の……いや、世界にとっても偉業となる一大事業の始まりを記念する日となるだろう。彼女は多くの人が力を尽くしてくれたからこそこの日を迎えられたと言った……それはその通りだと思うが、何よりも彼女の才覚があってこそだろう』
ユリウスがそのように切り出すと、再びレティシアに注目が集まった。
『まさに時代の寵児、神童の為せる業。鉄道が開通した暁には、彼女の名は永久に歴史に刻まれるであろう!』
国王の惜しみない賛辞に会場から再び泊手が巻き起こった。
レティシアは自分が挨拶していたときよりも恥ずかしくなって顔を真っ赤に染め、その可愛らしい姿にカティアやルシェーラたち同級生はほっこりする。
『……とまぁ、ここであまり褒めちぎってしまうと、今度は開業式典の時に喋ることが無くなってしまうな。ともかく、今日この日が歴史的な一歩であることには違いあるまい。これから工事や営業に関わるものは忙しい日々が続くだろうが、是非とも頑張っていただきたい。そして、開業を迎えたあかつきには、今日以上に盛大に祝おうではないか!!』
王の演説に呼応して、会場の内外で盛大な歓声が上がる。
そして、人々は口々にレティシアの名を称え……式典は今日一番の盛り上がりを見せるのであった。
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