155 / 191
レティシア15歳 輝く未来へ
第139話 起工式(前編)
しおりを挟む新年を迎え、学園の冬休みも明けてから数日が経ったある日のこと。
王都西大門を出て外壁に沿って北に向かうと、広大な空き地が現れる。
アクサレナは外壁の外側にも多くの民家などが建っており、もともとはこの辺りもそうだったのだが、ここにイスパル邦有鉄道のアクサレナ駅を建設するため、国が土地を買い上げて更地にしたのである。
レティシアはエリーシャを伴い、早朝からその場所を訪れていた。
「いや~、さっぱり何も無くなっちゃったねぇ……でも、これだけの土地があれば王都側のターミナルとして立派な駅が建てられるね」
空き地を見渡しながら、ここに現れる王都の玄関口の姿を思い浮かべるレティシア。
そして視線を巡らせれば、すでに起工式に先駆けて工事準備が既に始まっている様子。
地面は平らに均され、所々に建築資材の山が出来ていた。
「予定通り年明けから着工してるみたいです。楽しみですね、会長」
「うん!……線路が伸びてくるのはあの辺かな?最後の難所、アクサレナ丘陵を登りきって……あのあたりに駅舎が出来るはずだから、ホームはあそこら辺で……」
あちらこちらを指差しながら、彼女は楽しそうに言う。
もう彼女の目には、列車が行き交う様子が見えているのかもしれない。
彼女が嬉しそうに未来の駅の姿を語る様子を見て、エリーシャも嬉しそうに微笑む。
そして、暫く想像を楽しんだあと。
「あの建物だね。それじゃ、行こうか」
「はい」
見渡す限りの空き地だが、ポツン……と一つだけ建物が建っているのが遠目に見える。
二階建てのレンガ造りで、小さいながらも立派なものだ。
彼女たちは、そこにに向かって歩き始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「来たか、レティ」
「お先にお邪魔してるよ」
「リディーお疲れ~。フィリップさんも来てたんだ。二人とも早いね~」
レティシアたちが建物の中に入ると、中にいた先客……リディーとフィリップが彼女を迎えた。
二人はテーブルを囲んで何やら図面を覗き込みながら話をしていたようだ。
「あ、それ……アクサレナ駅の設計図?」
「ああ。いまフィリップに駅建設工事の概要を説明していたところだ」
「これも将来の参考になるから。やっぱり王都の代表駅ともなれば、国の威信がかかってるし……アクサレナにも負けないものを造りたいね」
フィリップは学園の臨時教師を務める傍らで、本来の目的である鉄道事業関係のノウハウ吸収にも精力的に動いている。
そして、もう一つの目的も……
学園の教師であれば、学園生となったレティシアと接する機会も多くなる。
それも彼が教師を引き受けた理由の一つだ。
実際に学園内では、授業やクラブ活動などを通じて彼女と会話することも多い。
もちろん他の生徒たちの目があるので、積極的なアプローチなどはできないのだが……以前にも増して親しくなったのは間違いないだろう。
そして彼はモーリス商会にも頻繁に顔を見せるようになったので、リディーとも気安い関係になっている。
レティシアは、二人の間に身分を超えた友情が生まれたと思って純粋に喜んでいるが……
その実、水面下では自分を巡ってライバル心を燃やしてるなどとは思ってもみない事だろう。
「まあ、俺もレティも建築は専門外なんで、詳しい話は建築士や工事責任者の方たちに聞いたほうがいいと思う」
「うん、もちろんそうするつもりだけど……専門外と言いつつ要点は押さえてるから分かりやすかったよ。流石だよね」
「それなら良かった。今日は他にも各方面の専門家が何人か来るから……フィリップにはいい機会かもしれない」
さて、彼らがいま集まっている建物だが……
元々はある商会の所有物で、本来であれば整地の際に取り壊されるはずだった。
しかし、まだ建てられてからそれほど経ってなかったことから、工事事務所として有効活用することになったのである。
そして開業時にはそのまま駅の関連施設の一つとなる事も決まっていた。
そして今日は、そのアクサレナ駅の起工式が行われる。
今はまだ朝早いので静かなものだが、これから多くの人々が訪れ賑わうことになるだろう。
人々はアクサレナ駅のみならず、鉄道建設工事が無事に終わることを祈願し、開業の日を待ち焦がれるに違いない。
レティシアの夢はモーリス商会の仲間たちの夢となり、国を動かし……今となっては多くの人々の夢となったのだから。
11
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。


【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる