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レティシア15歳 輝く未来へ
第137話 都市計画
しおりを挟むレティシアが学園に入学してから……
彼女は日々を学園生として勉学に励み、その一方でモーリス商会会長としても変わらず辣腕を振るう。
そして、友人たちとかけがえのない時間を過ごし、入学した目的である同年代の人脈を着実に築き上げていた。
もっとも、彼女自身はそんな打算的な思いはさらさら無く、あくまでも自然と友人が増えた結果だろう。
日々の授業や、学園での初めての大きなイベントである野外実習を通じてその友人たちとの絆も深まり、週末には休日を共に過ごすことも多くなった。
まさに今、彼女は青春を謳歌しているのだ。
そうして季節は秋から冬に変わり……レティシアが入学してから最初の長期休暇である冬休みとなった。
実家が近隣にある学園生は帰省したりもするが、遠方の者は移動だけで冬休みが終わってしまうので王都に残る者も多い。
レティシアの友人で言えば、ルシェーラ、ステラ、シフィル、メリエルらは、やはり実家が遠いので帰省はしない。
彼女たちは休みの間、ギルドに登録して冒険者として活動する計画を練っているらしい。
レティシアも今回はイスパルナには戻らないため、一緒にどうか……と、彼女たちから誘われたのだが、休みの間はモーリス商会で鉄道関連の仕事を中心に過ごすことにしていたので断っている。
自分が戦闘には向いていないと思っているのも断った理由の一つだろう。
そしてカティアであるが……彼女はテオフィルスと正式に婚約するため、王妃カーシャとともにレーヴェラント王国へと旅立った。
冬休みの終わる年明けごろには戻って来る予定だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
冬休みに入ってから数日経ったある日……レティシアはアクサレナの王城に来ていた。
彼女は鉄道関連の仕事でこれまで何度も訪れているので、迷いのない足取りで目的地に向う。
彼女は一般に開放されている区画を通り過ぎ、国政の議会場や会議室などが集まる区域にさしかかった。
「お疲れ様で~す!」
一般人立入禁止区域の前には当然、警備の騎士が立っているが、レティシアは慣れた様子で許可証を提示してにこやかに挨拶しながら通り過ぎる。
騎士たちも彼女の事はよく知っているので、念の為許可証は確認するもののほとんど顔パスだ。
そうしてやってきたのは、数ある中でも比較的小さな部屋。
10~20人くらいの小・中規模用の会議室だ。
「失礼しま~す」
レティシアが扉をノックして入室すると、既に何人かの人物がコの字型に配置されたテーブルに着いていた。
「ご足労いただきありがとうございます、レティシア嬢」
もっとも奥まった場所に座っていた人物が、にこやかに声をかけてきた。
30代後半くらいで、眼鏡をかけた理知的な男性だ。
「アドレアン伯爵、今日もよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
男性……会議の議長を務めるアドレアン伯爵と言葉を交わしたあと、他の人達にも挨拶しながら、彼女は定位置となっている議長の隣の席に着く。
まだ会議までは少し時間があるので、アドレアン伯とレティシアは暫し会話をしながら、始まるまでの時間を潰す。
「どうですかな、学園の方は?」
「はい、毎日充実して過ごしてます」
「それはなによりです。……うちの息子はどんな様子ですか?アイツは真面目すぎて融通が効かないところがあるので、クラスメイトから浮いてないか心配してたんですが……」
彼はレティシアのクラスメイトであるユーグの父親だ。
入学するまでは息子よりも会う機会が多かった。
「とても馴染んでますよ。うちのクラスって、クセのある人が多いですけど……クラス長として、よく纏めてくれてると思います」
それは誇張でなく、彼女の本心である。
そして、『クセのある人』の中には、もちろん自分は入れてない。
「カティア様を差し置いて……と最初は思いましたが、あなたがそう言ってくれるなら安心ですね」
ホッとした様子で彼は言う。
彼も本人から直接学園の様子を聞くこともあるだろうが、他の同級生からどう見られているか……というのも親としては気になったのだろう。
そうして会話ている間にも、会議室には次々と人がやってくる。
やがて時間がやってきて、会議……『アクサレナ都市計画会議・鉄道分科会』が始まった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
会議では幾つかの工区ごとの進捗状況に関する報告が行われている。
だが、この場は主に王都工区に関してより詳細な議論を行うことが目的であるため、全体進捗状況の概略が共有されたあとはそちらの議題に移っていく。
「……次に、イスパル邦有鉄道のアクサレナ側ターミナル駅の建設に関する進捗状況をご報告します」
資料を手にした担当官が立ち上がり報告を始めた。
「建設予定地の土地収用は概ね予定通りに完了してます。現在は既に整地に取り掛かっており、順調に行けば年明けには建設工事を開始できるでしょう」
大西門と北西門の間の外壁外に王都側のターミナル駅は建設される予定だ。
市街中心部に駅を作ることは不可能なため、比較的土地を確保しやすい郊外に建設されるのはイスパルナと同様である。
比較的確保しやすい……と言っても、そこは大陸有数の大都市なので、整地に際しては多くの建物を取り壊す必要がある。
住民や地権者に対する補償など、調整にはかなりの労力を要したのは想像に難くないだろう。
(その辺は国が関わってないと出来ないところだからね。アドレアン卿の手腕もあるんだろうね)
これまでのやり取りで、彼の有能ぶりを実感しているレティシアである。
「アクサレナ駅の建設工事は二期に分けて実施します。駅としての基本機能を有する本屋は開業日までの第一工期で全て完成させ、その他の付帯施設等は開業以降の第二工期で実施する予定となります」
その説明を聞きながら、レティシアは会議室の壁に貼られたアクサレナ駅完成予想図に視線を向ける。
王都の玄関口となる終着駅に相応しい立派な駅舎がそこには描かれていた。
(東京駅に雰囲気が似てるかも。イスパルナ北駅はもう少し小さいけど、あっちも中々立派だし……完成するのが待ち遠しいね)
イスパルナ北駅は、近い将来の延伸と直通運行を見据えてスルー構造を予定しているが、アクサレナはすべての列車が折り返す頭端式となる予定だ。
開業時点では一日数往復程度の運行に過ぎない。
しかし、いずれは大都市のターミナル駅に相応しく、いくつもの列車がひっきりなしに行き交う……そんな光景をレティシアは夢想する。
「さて、スケジュールは概ね予定通りとのことですが……」
全体的な進捗状況がひと通り共有されると、議長のアドレアン伯爵が切り出した。
「このまま順調にいけば、来年夏の開業も現実的になってきました。鉄道についてはこれまでも様々な周知は行っており、国民の関心は日増しに高まってまっているところです。そこで、いよいよ本格的に開業することをアピールするため、年明けに大々的な周知イベント……『アクサレナ駅起工式』を開催することをここに提案いたします」
彼が提案した『起工式』は、内々に国王ユリウスから打診されていたものらしく、国民の関心をよりいっそう高めて、鉄道開業に向けた弾みとする意図があるようだ。
そして鉄道開発の主導者であるレティシアは、そのメインイベンターとして出席することになるのだった。
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