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レティシア15歳 輝く未来へ
第130話 入学式
しおりを挟む「新たな門出となるこの良き日に、新入生の皆様を代表してご挨拶申し上げる大役を任されたこと、まことに嬉しく思います」
全校生徒と職員、父兄や来賓の注目を集めながら、カティアが新入生代表挨拶の言葉を述べる。
予定通り大ホールにて始まった学園の入学式。
学園長の挨拶に始まり、今はカティアによる新入生代表挨拶の真っ最中である。
およそ千人近くの若者たちが一堂に会するのは、レティシアがこの世界に転生してから初めて見る圧巻の光景だ。
そんな中にあって、カティアは緊張の様子を見せつつも堂々と壇上に立ち、歌姫仕込みのよく通る声をホールの隅々まで響かせていた。
「私達は今日、この栄えあるアクサレナ高等学園の生徒として一歩を踏み出します。それは、私達自身の日々の努力のみならず、保護者の皆様のお力添えがあったからこそであり、その感謝の念を忘れてはなりません」
そこで彼女は一息つく。
ここまでは例年の定型文のようなもので、ここから先は彼女自身の想いを言葉に乗せる。
「さて、これからの学園での生活にあたっては勉学に励むのはもとより、新たな出会いを通じて様々な人間関係が築かれることでしょう。私は、かつて母よりこう言われました。『学生時代に築いた人脈というのは特別なもの』だと。この学園で出会った友人は、何にも代え難い一生の宝であると。この学園においては身分の別に依らず、皆等しくただ一人の学園生に過ぎません。願わくはそれを建前で終わらせることなく、対等な立場で交流をはかり、かけがえのない友人と出会えるよう切に願います」
大切な想いを込めて、カティアは言葉を紡ぐ。
それは彼女自身が入学を目指した理由であるが、皆にとってもそうあって欲しいとの願いを込めて挨拶の言葉としているのだ。
(ごめん、わたし建前とか言ってたわ……)
内心で反省するレティシア。
彼女自身は身分によって相手を見下すような事はしないのだが、他の貴族の中にはそうでない者も居るだろう……と、思っていたのだ。
そのあたりはリディーの『学院』時代の話や、自分自身の社交界での経験を踏まえてのものである。
しかし王女のカティアが率先してそう言ってくれるなら、そのあたりの風通しはかなり良くなりそう……と、彼女は思った。
「最後に、三年間と言うのは長いようであり短くもあります。その輝かしい日々の一つ一つを大切にし、皆が笑顔で学園を羽ばたいて行けることを心より願って、挨拶の言葉とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」
カティアが挨拶を終えて壇上で一礼すると、大きな拍手が巻き起こった。
(いやぁ……やっぱカティアが挨拶してくれて正解だよ。私にはあんな立派な事は言えないね)
しみじみとレティシアは思った。
そして、カティアが席に戻るまでの間、大きな拍手の音は鳴り止むことがなかったのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後も式典は滞りなく進行し、1年生担当の教員紹介となる。
レティシアたち1年1組の担任はスレインという男性教師。
担当教科は武術で、もとA冒険者という異色の経歴の持ち主だ。
その他の担任や教科担当の紹介が進み、最後に短期の客員教諭の紹介があったのだが……
その中の一人を見たときレティシアは、『どこかで会った事があるような……』という感覚を覚えた。
「みなさんはじめまして。私は選択科目の魔道具工学基礎を担当するジャックと申します。短い期間ではありますが、これからよろしくお願いします」
そのようににこやかに挨拶した彼は……教師と言うよりは、どちらかというと学生のような若々しい見た目をしている。
そして、彼はレティシアがいる方に視線を向け、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべた。
(!!まさか……?いや、そんなはずは……)
彼の表情を見たレティシアは、とある人物を思い浮かべるが、彼がここにいるはずがないと一旦は否定する。
しかし、髪も瞳も色が違うが……顔の造作は彼女の記憶にある人物によく似ていた。
何より、今もまだ明らかにレティシアの方を見ているではないか。
(やっぱり…………なんであの人がここに?)
式典の終わりを告げるアナウンスが流れるが、レティシアの耳にそれが入ることはなかった。
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