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レティシア15歳 輝く未来へ
第124話 武神祭
しおりを挟む武神祭が始まった。
初日は国王ユリウスによる開催宣言の他は、特筆すべき大きなイベントは無かったものの、初日から街中が大きな熱気に包まれていた。
二日目に話題となったのは、エーデルワイス歌劇団による特別講演だ。
劇場前の大広場に映像投射の魔道具によって劇場内の様子が映し出され、誰もが話題の歌劇団の演劇や歌を楽しむことができた。
当然、広場にはひしめき合う程に人が集まったが、騎士団の警備体制は万全で大きな混乱は無かった。
そして今日は、祭りの三日目である。
レティシアはカティア、ルシェーラと王城前広場で待ち合わせ、お祭りムード一色となった街へと繰り出す予定だ。
「あ、ルシェーラちゃん!おはよう!」
「おはようございます、レティシアさん」
レティシアが王城前広場に到着すると、既にルシェーラが待っていた。
そして……それからすぐに、カティアも城門の方からやって来る。
少し離れてついてくる男女は……目立たない格好をしているが、彼女の護衛騎士と思われた。
カティア自身も町娘の格好をしており、特徴的な髪は魔法薬で黒くさせている。
レティシアとルシェーラも、髪はそのままだが似たような格好をしていた。
いわゆる、お忍びということだろう。
「あ、ゴメン。待たせちゃったかな?」
「ううん、いま来たとこだよ」
「私もですわ」
と、彼女たちはお決まりのやり取りをする。
「いやぁ、しかし……二人とも、まんま『お忍びの貴族令嬢』って感じだね」
カティアがレティシアたちの格好を見て、そんな感想をもらす。
確かに二人とも平民の装いはしていても、隠しきれない育ちの良さのようなものが感じられる。
しかし。
「なに言ってるの。それを言ったらカティアの方が一番そう見えるでしょ」
レティシアはどこか呆れたように、そう返した。
「え?……そんなわけ無いでしょ。私なんか今までバリバリの一般市民やってたんだから。年季が違うよ」
心底意外そうに彼女は反論するが、ルシェーラもやはり頭を振りながら更に言う。
「いえ……以前からそういうオーラは感じましたし、正式に王女として認められたあとは、ますます磨きがかかった気がしますわよ。たぶん変装されてても、気がつく人はいるのではないかと」
「……そうかな~?」
言われた当人は、いまいちピンとこない様子。
だが、レティシアやルシェーラが言う通り、二人以上にオーラのような物が滲み出ているのは間違いない。
それは、王族であるということもそうなのだが……その身に神の力の一端を宿しているというのが大きいだろう。
「まあまあ、いいじゃない。お忍びに見えるなら、気付かれても気付かないフリをしてくれるでしょ」
「気にしないで楽しむのが一番ですわ」
「それもそうだね」
そんなふうに彼女たちは納得する。
そして、さっそく賑わいを見せている通りの方へと向かっていくのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
王城前広場から伸びる目抜き通りを、露店や様々な見世物を見物し、ときに買い食いしながら祭りを楽しむ少女たち。
三人とも王都での祭りは初めての経験で色々目移りするのと、非常に混雑していることもあり、その歩みは緩やかだ。
「ふぇ~……やっぱり王都のお祭りは、人が凄いねぇ……イスパルナだって中々だけど、ここまでじゃないよ」
「ブレゼンタムなんて、もっと比べ物にならないですわ……」
イスパルナもブレゼンタムも、イスパル王国では有数の大都市なのだが、アクサレナはカルヴァード大陸最大の都市と言われるだけあって、その規模の大きさは突出している。
「祭りの時じゃなくても賑やかだもんね。……それにしても、ステラは残念だったよ。一緒に行こうって誘いたかったんだけど、調整がつかなかったんだ」
せっかく仲良くなったので、カティアはステラも誘おうとしたのだが……流石に他国の王女ということもあり、警備体制など多方面の調整が必要となるため断念したのである。
「私なんか、今も割と自由に出歩いてるのにね~」
「カティアさんは特殊ケースだと思いますわ」
「野良王女だったからね。……と言うか、二人とも人のことは言えないでしょ」
本来であればカティアとて勝手気ままに出歩けるような身分ではないのだが、最低限の護衛だけで出歩けるのは国王夫妻の意向によるところが大きい。
彼女が育った環境を踏まえ、不自由を感じないように配慮してくれてるのだ。
カティア自身も両親の心遣いを理解し、感謝している。
そして、レティシアやルシェーラも、高位貴族令嬢の割にはフリーダムだ。
「さて……こうやって目的も決めずに適当にぶらつくのも楽しいけど。どこかでなんか面白いことやってないかな?」
暫く街歩きを楽しんでいたのだが、せっかくの祭りなのだから何かイベントはないだろうか……と、カティアは言う。
「ん~……あ!じゃあさ……西大広場に行ってみない?」
カティアの言葉に、何かを思い出したかのようにレティシアが提案した。
「西大広場?あ~、モーリス商会があるところか。何かやってるの?」
「へへ~、それは行ってみてのお楽しみ……ってことで!」
「ふぅん……じゃあ、楽しみにしておくよ。ルシェーラもそれで良い?」
「はい、楽しみですわね」
そうして三人は、モーリス商会王都本店のある西大広場へと向かうのだった。
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