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レティシア15歳 輝く未来へ
第123話 武神祭前日
しおりを挟む王女カティアのお披露目の日より数日後。
イスパル王国最大のイベント、夏の大祭『武神祭』がいよいよ翌日に開催される。
同じ時期に国内各地で、守護神として信奉される武神ディザールを称える祭りが行われるが……ここ王都アクサレナで行われるものは特に規模が大きく、国内外より多くの観光客が訪れる。
日頃から賑わう王都中心街も、この期間はさらに多くの人々が犇めき合い、歩くのもやっとという様相となる。
大きな通りには様々な露店が現れ、大道芸などの様々なパフォーマンスをする者たちが道行く人を楽しませる。
商会や工房、個人商店、各種ギルドなどは挙って特別なイベントを催し、自分たちの商品、製品、技術などをアピールする。
そしてレティシア会長率いるモーリス商会でも、当然ながら翌日に向けて準備を行っていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
モーリス商会王都本店前の大広場にて。
店舗前の一画を取り囲むように簡易的な壁が作られ、催し物を行うための出展エリアが準備されていた。
「これが魔導力自在車?」
「うん。王都工場で試作されたばかり、できたてのホヤホヤだよ」
出展場所の中に運び込まれたそれを前にして、レティシアとリディーが話をしている。
それは、四つの車輪が付いた箱型の乗り物らしきもの。
それを知らない者が見れば、一見して馬車と思うかもしれないが……
(ようするに『自動車』だね)
と言うことである。
その形状や大きさは、レティシアの前世で言うところの軽自動車をイメージさせる。
「鉄道開発で培ってきた技術を結集させて創り上げた、今回の目玉出品!……のはずなんだけどね」
鉄道と並び自動車も完成した……となれば、それも偉業と言うべきものであるはずだ。
しかし、彼女の表情は微妙である。
「まだ実用には向かないか」
「だねぇ……パワーも稼働時間も、魔導力機関車のあの大きさあってのものだからね」
どうやら性能面で彼女たちが納得できるものには及ばないらしい。
実際のところ、数人も乗れば動くのもやっと……坂道や悪路ともなれば立ち往生必至であるし、稼働時間も30分程度。
実用化には程遠いのが現状である。
鉄道と違って、馬車に取って代わるのはまだまだ先のことだろう。
「でも、技術は積み重ねだって……フィリップ様も言ってたし。諦めずに何度も改良を重ねていかないとね」
「……そうだな。まぁ、出展の目玉となるのは確かだろう」
今回の出展場所の広さ的にはハーフスケールでも鉄道敷設は無理があるし、鉄道に関しては王都やイスパルナでの知名度は既にかなり高いものとなっている。
なのでパネルによる紹介程度となる予定だ。
他の出品と言えば、モーリス商会がこれまで開発してきた魔道具の数々となる。
いずれも人々の暮らしを便利にしてきた自慢の逸品ではあるが、やや地味であるのは否めない。
そんな中、『魔導力自在車』は性能面でまだまだ課題はあっても、リディーが言う通り人目を引く存在であるのは間違いないだろう。
「ま、確かに『未来創造カンパニー』のモーリス商会としては、夢のあるものを出さないとね~」
「なんだソレは」
キャッチフレーズだろうか。
「それで、祭りの期間の予定だが……」
「えっとね、三日目はカティアとルシェーラちゃんと私で、一緒にお祭りを見て回る約束をしてる」
「そうか、良かったな」
「うん!」
以前は、同年代の友人が少ないと嘆いていたレティシアだが、王都に来てからはかなり交友関係も広がったようで、リディーとしても嬉しく思っているようだ。
「それから、『武神杯』本戦の観戦に招待されてるよ。それ以外は特に約束はないから、こっちの手伝いをしようかな」
今回のモーリス商会の催しについて、彼女は企画立案、準備には関わっているが、当日に会長が関わる仕事はほとんど無い。
イベント責任者も副会長のリディーとなっている。
「なんだ、もっと楽しめばいいだろうに」
「ん~……そうだけどさ、毎日お祭りに参加しても疲れるしね。それに……私はみんなと一緒に仕事してるほうが性に合ってるし。お祭りの雰囲気を楽しむだけでも十分かな」
「ふ……お前らしいな」
レティシアの言葉に、リディーは苦笑しながらも納得する。
そして……
「だったら……」
『俺と一緒に見て回らないか?』と言う言葉を、しかし彼は途中で飲み込んでしまう。
「ん?」
「……あぁ、いや……何でもない」
疑問を浮かべて首を傾げたレティシアに、彼はただそう言うだけだった。
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