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レティシア15歳 輝く未来へ

第122話 決着

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 前線のテオフィルスとルシェーラに、カティアと銀狼ポチが加わると、戦況は一気に動き始める。
 後衛からもステラが銀の光を纏った矢を放ち、前衛メンバーと変わらないほどのダメージを与えていく。


 対抗手段を持たない者たちは、牽制や後衛まで攻撃が届かないように守りに徹する。
 ユリウスやアーダッド、リュシアンなどは攻撃が効かないことを歯がゆく思いながらも、自分のできる役割を果たすため力を尽くす。

 レティシアも魔法による牽制や前衛陣に対するバフ、結界による防御と、持てる力を最大限に発揮した。


 そんな総力戦の甲斐もあり、攻撃のリズムが完全に出来上がる。


「よし!このまま押しきるぞ!!!」

「「「はっ!!!」」」

 ユリウスが激を飛ばし、戦士たちの士気はますます高まる。


 そして、少しずつダメージが蓄積された異形の者は、その再生速度も緩やかになる。
 巨大だった肉塊はかなり小さくなった。


「よし!!これなら……みんな下がって!!!」

 今が好機と見たカティアが大きく跳躍し、空中で青い光を纏った刀を大上段に大きく振りかぶる。

 そして……

「天地一閃!!!」

 一気に振り下ろした刀から鮮烈な青い光が奔流となって放たれた。


 ドゴォッ!!


 魔を滅する光が異形の敵を飲み込み、床を砕いて土煙を巻き起こす。


 そしてそれが晴れたあとには……僅かな肉片や千切れた触手が残るのみだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「終わっ……た?」

「いや……まだだ。こんな状態なのに、まだ再生しようとしている」

 カティアの呟きに、テオフィルスが頭を振って答えた。
 信じ難いことに、彼の言う通り……ほんの僅かずつではあるが、確かに肉片は再生しようとしていた。


「うげ~……キッショ……」

 後衛だったので遠目ではあるが……未だに蠢く肉片を目にしたレティシアは、げんなりした様子で呟きを漏らす。
 元が人間から変じた者の末路と思えば、なおのこと嫌悪感も強いだろう。


 しかし、流石にそこまでの状態になってしまえば、決着はついたと言っても良いはずだ。

 だが……カティアは真剣な様子でなにやら考え込む。
 そして、はっ……となって、慌てた様子で叫び声を上げる。

「ケイトリン!!周りに怪しいやつが居ないか探して!!」 

「すみませんカティア様……駄目でした。もう逃げられてしまいました……」

 カティアの言葉に、ケイトリンと呼ばれた女性の護衛騎士が即座に応えた。
 既に先んじて探りを入れていたようだ。
 なかなかに優秀な人物らしい。


「……どんなヤツだった?」

「そこのバルコニーから覗き込んでたみたいなんですけど。他の襲撃者たちと同じような黒ずくめで、フードも被っていたので……どんなヤツだったかはサッパリです。私が気付いたのを察して、すぐに逃げてしまいました」

「そう……残念だけど仕方がないね。とりあえず今は、もう再生しないように残った肉片も潰さないとね……」


 それから皆で手分けをして、散らばった肉片を処理をしていく。
 未だに蠢いているものの、もう殆どの力を使い果たしたらしく、特に神聖武器でなくても通常の武器や魔法で対処は可能だった。

 レティシアも火の魔法で片っ端から焼却して処理を手伝う。


 やがて、異形の怪物の痕跡は跡形もなく消え去るのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「カティア……あんなのと戦ってたの?」

 処置が一段落して落ち着いた頃合い、レティシアは心配そうにカティアに問いかける。
 カティアたちがこれまで関わってきた一連の事件の裏には、どうやら黒幕がいるらしいことは彼女も聞いていたが……あんな得体の知れないものだったとは思わなかったのだ。


「ん~……今までとはだいぶ毛色が違ったけど。でも、たぶん繋がりはあるんだろうね」

「そうなんだ……」

 不安そうにレティシアは呟く。

 これまで平和だと思っていたこの世界の裏で、何か良くないことが起こりつつある。
 彼女は以前も漠然とそれを感じたものだが、今回初めて実際にそれを目の当たりにしてしまった。

 そんな彼女の不安な気持ちを察して、カティアは微笑みながら言う。

「大丈夫だよ、レティ。前も言ったけど……私は、あなたの夢を守りたい。あなたみたいな人たちが、なんの憂いもなく夢に向かって頑張れる……そんな世の中を守るのが、私の使命だと思ってる」

「カティア……でも、無理はしないでよ?」

 たとえ彼女が神の力を受け継いだ英雄であろうと、あんな異形の敵を相手にするのであれば心配は尽きない。
 大切な友人、そして同胞として。


「もちろん、私だって自分の身は可愛いからね。そんなに無茶するつもりはないよ。それに、私には頼りになる仲間もたくさんいるから」

「私も力になるよ」

「ありがとう。確かにレティの魔法は凄いし、今回もかなり助かった。でも……」

「でも?」

「あなたにはあなたの、大切な役割があるでしょ?だから、これまで通りそれを頑張ってもらいたいな。平和を脅かす不穏な輩を何とかするのは私の役目。お互いに頑張ろう!……ってね」

「……うん!」

 二人の少女は笑みを交わす。

 そして、きっと彼女ならこの世界の平穏を守ってくれる……と、レティシアは思った。





 その後、お披露目パーティーはそれどころではなくなり、そのまま終了とせざるを得なかった。

 しかし国外からの賓客には経緯を説明する必要があるため、別室で会合が行われる事となった。
 パーティー会場から酒や料理が持ち込まれ、さながら二次会のような和やかな雰囲気でそれは行われた。

 あんな事件があった直後に、ずいぶんと豪胆な人たちだ……とレティシアは思ったが、しっかり自分も参加して鉄道に関するトップセールスを仕掛けるあたり、彼女も同類だろう。

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