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レティシア15歳 輝く未来へ
第121話 神々の力を受け継ぐ者たち
しおりを挟むカティアの放った『印』の光によって作られた結界は、異形の者を封じ込め闇を祓う……かのように思えた。
しかし。
「……くっ!ダメ!効いてない!!」
カティアがそんな叫び声を上げた。
確かに……光の結界に囚われながらも、黒い肉塊の異形に大きな変化は見られない。
触手による攻撃も衰えてはいなかった。
「エメリール様の『印』の力が効かない……?こいつは『異界の魂』ではないのか!?」
聖剣を振るって、次々と襲い来る触手を薙ぎ払いながらテオフィルスが言う。
『異界の魂』とは、これまでカティアたちが何度か遭遇してきた異形の魔物……を生み出す根源となる存在だ。
今回の異形の敵も、黒い靄のようなものを纏った様子から、それらと同種の存在と思われた。
しかし、これまではカティアの『印』……エメリールの滅魔の力によって討ち滅ぼしてきたのだが、今回はこれまでと勝手が違う事に、その経緯を知る者は戸惑いを隠せない様子だ。
「ならば……神聖武器の攻撃ならどうです!!」
ルシェーラがそう叫び無数の触手の攻撃を掻い潜りながら、燐光を帯びたハルバードを横薙ぎに振るう。
そして、その重量と遠心力がたっぷりと乗った一撃が巨大な肉塊に叩き込まれた。
『うぐぉーーーーっっ!!!?』
すると今度はダメージを与えたようで、肉塊からくぐもった悲鳴のようなものが上がった。
「でりゃあーーっっ!!!」
続けざまに、テオフィルスが裂帛の気合をもって聖剣を振るえば、斬りつけたところの肉塊を大きく抉り取ってしまう。
(凄い!!効いてるよ!!)
今も来客たちを護るために結界を維持しているレティシアは、活路が見えたことで内心で快哉を叫んだ。
そして、ある程度は避難も進んだ事を確認し、自身も防御から攻撃にシフトしようと、更に魔力を高めていく。
「よし!!神聖武器の攻撃なら通るぞ!!!」
「じゃあ私もディザール様の『印』で……って。ああ!?こんなときに剣を持ってない!!」
カティアは本日の主役なので、当然ながら武器など所持してるはずもない。
……テオフィルスやルシェーラはどこから武器を持ってきたのだろうか。
突破口は見えたものの、神聖武器を持つ者など人数が限られる。
見れば肉塊に傷をつけた部分は、緩やかではあるが再生を始めているではないか。
いかに攻撃が通ろうとも、二人だけでは巨大な異形を完全に滅するには手が足りていないように見えた。
少しでも攻撃の手を緩めないようにと、レティシアも後衛から攻撃に参加する。
「大きい魔法撃つよ!![虚空滅却]!!!」
彼女の最強の攻撃魔法、あらゆるものを消滅させる虚空の光が一直線に異形へと向かっていった。
レティシアの注意喚起の声でルシェーラもテオフィルスも既に退避しており、妨げるものは何もない。
鈍重な異形の本体であれば、高速で迫る光弾を躱すことなどできない。
レティシアは直撃を確信したが……
異形の直前まで迫った破滅の光は、瞬く間にその大きさを縮めてしまう。
かろうじて着弾したものの、僅かに肉を抉るだけで、その傷もすぐに塞がってしまった。
どうやら神聖武器でつけた傷よりも再生速度が早いようだ。
「なっ!?」
その結果に、レティシアは驚きの声を上げる。
「うぇ~……どうも、魔力そのものを減衰させる結界でも張ってるみたい。こりゃあ、私は役に立たないね……。仕方ないから私は支援に徹するよ!」
先ほどの現象からそう結論付けた彼女は、攻撃参加は諦めて再び魔法支援に切り替えることにした。
「ああ、もう!武器があれば私も攻撃できるのに……!」
カティアは嘆くが、周りの騎士たちも護衛で手一杯で彼女に剣を渡す余裕もない。
すると、その言葉を聞きつけたステラが彼女に近付き……
「カティア、武器は私が何とかします!」
そう言ってステラは意識を集中させ、祝詞のような言葉を紡ぎ始めた。
『月女神パティエット様の眷属たる私、ステラが希う。夜を照らす月の光よ。現と夢を分かつ扉を開け放て。現し世は夢幻の如く、夢は現の如く……幻想結界』
すると、月の光のような淡い輝きが彼女の身体を包み込み……その額に光り輝く印が現れる。
(あれは……ステラも『印』の継承者なんだ!!)
神の力を受け継ぐ人物が、いまこの場に三人も……戦闘中にも関わらず、レティシアはある種の感動を覚える。
彼女が5歳のとき、前世の記憶を取り戻してから初めてエリーシャに読んでもらった絵本。
この世界に伝わる神話を聞いたとき……彼女はまさか、それを体現する者たちと関わることになるとは夢にも思ってなかっただろう。
そして印を発動したステラは、カティアのための武器……『夜刀』を創り出して彼女に手渡す。
カティアはその刀を構えると意識を集中させ、ディザールの『印』を発動させる。
すると鮮烈な青い輝きが刀身を包みこんだ。
「ステラ、ありがとう!!これで私も攻撃参加できるよ!」
「待って、共の者をつけましょう。さあ来なさい!!」
ステラはそう言うと、先ほど夜刀を創造したときと同じように、今度は幻想の扉より何者かを喚び出そうとする。
『オォーーーン!!!』
雄叫びとともに現れたのは、美しい銀の毛並みを持つ巨狼だ。
「さあ、カティアを護って、魔を滅しなさい!」
『オンッ!!』
更にステラは、自身の武器『夢想弓』をも創り出し、それを構えながら言い放つ。
「私も弓には自信があるから、後方支援は任せて!」
その様は凛として、カティアたちと初めて接したときのような気弱そうな様子は微塵も感じられなかった。
「うん、頼んだよ!!さあ行こう!!ポチ!!」
『ウォンッ!!!』
カティアの号令一下、魔を滅すべく人狼は一体となって矢のように飛び出していった。
「……ポチ?」
自身も後方から魔法で支援するためにステラのもとに合流したレティシアは、彼女の戸惑うような呟きを耳にして苦笑を浮かべるのだった。
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