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レティシア15歳 輝く未来へ
第118話 アダレットの姫君
しおりを挟むレティシアが流石に壁の花となっているのもそろそろ飽きてきたころ。
カティアの方を見ると、彼女は同年代の少女と話をしているところだった。
(あの人……アダレットの王女様かな。噂によると、今年から学園に入学する予定らしいけど……)
「どうされました、レティシアさん?」
レティシアがカティアの方を見て考え込んでいると、ルシェーラがやって来て彼女に声をかけた。
「あ、ルシェーラちゃん……あれ、兄さんは?」
「リュシアン様もお父様も、警備の人と何かやり取りがあるとかで……私はレティシアさんと話をしていなさい、と」
婚約者においてかれて、彼女は少し拗ねたような口調で言う。
大人びた彼女も、そうしていると年相応だ……と、レティシアは思った。
「じゃあちょうど良かった。カティアのところに一緒に行こうよ。ほら、あれ……たぶんアドレットのステラ様だよ」
と、レティシアは視線で指し示す。
「ステラ様というと確か……私達の同級生になる予定と聞きましたわ」
ルシェーラもその情報は押さえていたらしい。
それなら話は早い……と、レティシアは一つ頷く。
「そう。カティアも推薦枠で試験受けるって言ってたし、将来の学園生同士ということで、顔見せしとくのも悪くないでしょ?」
「そうですわね。では行きましょうか」
そうして二人は、カティアたちのもとに向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ご歓談中、失礼します」
初対面の人がいるため、よそいきの声で声をかけるレティシア。
声に振り向いたのはカティアと……緩やかに波打つ肩口までの長さの白銀の髪と、空色の大きな瞳をした美少女だ。
少し緊張した様子の彼女は、どこか儚げな雰囲気で……
(うわ~……また、カティアやルシェーラちゃんとは違う感じの美少女だわ~)
と、レティシアは内心で、思わず感嘆の声を上げた。
そしてカティアがその少女に二人を紹介する。
「あ、レティに……ルシェーラも。良かった、ちょうどあなた達にも声をかけようと思ってたんだ。ステラ、この二人は私の友達で……モーリス公爵家のレティシアに、ブレーゼン侯爵家のルシェーラだよ」
「は、はじめまして……。私はアダレット王国の王女で、ステラと申します。よろしくお願いします」
「お目にかかれて光栄です。レティシア=モーリスと申します」
「私はルシェーラ=ブレーゼンと申しますわ。こちらこそよろしくお願いします」
ステラの挨拶のあと、レティシアたちも自己紹介の挨拶を返したのだが……ルシェーラの名前を聞いたとき、ステラが身体をこわばらせた。
そして、それを察したカティアが、神妙そうな顔をしてルシェーラに問いかける。
「ルシェーラ。彼女の……というか、アダレットの事は……」
「?……あぁ、そういう事ですの」
最初、なぜ二人がそのような態度を取っているのか分からなかったルシェーラであるが、『アダレット』の言葉で事情を察した。
「私は別に何とも思ってませんわよ。アダレット王国のイスパル侵攻は、私が生まれる前の話ですし、そもそもアダレット王家の方には責の無いことと理解してますから。お父様もそうだと思いますわ」
「そうだよね~」
ルシェーラの言葉に、カティアは同意しながらも、どこかホッとした様子だ。
(そっか……アダレット王国って確か……)
話から取り残されつつあったレティシアだったが、彼女もようやく理解した。
アダレット王国はイスパル王国の西隣の国だ。
その王家はイスパルと同じように、神……月女神パティエットの印を受け継ぐ。
カルヴァード大陸には、これら神の力を継ぐ国が十二ヵ国存在し、『盟約の十二王家』と呼ばれている。
フィリップのヴァシュロン王国もその一つだ。
その十二の国々は、神々から直々に人類の行く末を託された……いわば兄弟のようなもので、神代の終わりから現代まで、良好な関係を保っていた。
しかし、およそ15年以上前の大戦……東大陸のグラナ帝国がカルヴァードに侵攻してきたことによって勃発した戦争でのこと。
その大戦の主戦場は主にカルヴァード大陸の北東部であり、遠く離れたアダレット王国は、多少の混乱は生じたものの比較的安定していた……と思われていた。
しかし、突如として軍事クーデターが勃発し、隣国であるイスパルに侵攻を始めたのだ。
同じ『盟約の十二王家』の国から侵攻を受けるなど、全くの想定外だったイスパル王国は混乱に陥るが……ブレーゼン侯爵領(大戦当時は伯爵領)を中心に直ちに防衛戦力を結集して、これを撃退する。
その後、何とか王家も復権して事態は収束した……という経緯である。
その戦いの功績で、ルシェーラの父は功績を認められて昇爵したのだが……それはつまり、ブレーゼン家にとってアダレット王国は因縁の相手……と、ステラは考えていたのだ。
「先ほど申しました通り、アダレット王家が企てたことではないですし、ステラ様も当時はまだお生まれではないでしょう?それに、仮に因縁というなら……どちらかというとカティアさんの方が……」
そこでルシェーラは、横目でカティアの方を見る。
すると彼女は苦笑して言う。
「その話はさっきしてたとこ。まぁ、ルシェーラと同じで、私は……と言うか父様も母様も気にしてないよ……って言ったの」
「皆さん……ありがとうございます」
ステラは涙ぐみながら、しかし笑顔で礼を言った。
「はいはい!しんみりした話はこれでおしまいね!」
空気を変えるようにレティシアが言う。
「何と言っても私達はこれから同級生になるんですから。過去のいきさつはどうあれ、これから仲良くしてけばいいでしょう。私もステラ様とはぜひ仲良くさせてもらいたいです!」
「あ、私のことはどうか『ステラ』と……敬語も不要です」
既に彼女はカティアとは普通に話しているので、どうか同じように接してほしい……と彼女は言う。
「分かった。じゃあステラも普通にね。これからよろしく!……あ、私のことはレティでいいよ」
「私はこれが普通の喋り方なので……よろしお願いしますわ、ステラさん」
「ええ、こちらこそよろしく、レティ、ルシェーラ。……と言うか、あなた達も『学園』に入学するのね」
「……私は試験これからだけど」
微妙な表情でカティアが言う。
彼女は最近になって、両親の薦めで学園の試験を受けることにしたらしいのだが……国内でも有数の難関校を受験するには準備期間が短いと、不安に思っている様子。
しかし、レティシアは何でも無いように手をひらひらさせて言う。
「だいじょ~ぶだって。私だって入学試験のひと月前に決めたんだし……『あなた』ならね」
最後は意味深な言葉で、そう太鼓判を押す。
その意図はカティアにも伝わったようで、彼女は神妙な面持ちで頷いた。
その後も暫くは四人で楽しげに話をし、同年代の友人としてお互いの仲を深めるのだった。
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