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レティシア15歳 輝く未来へ

第116話 お披露目

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 時は過ぎ……
 カティア王女のお披露目のための夜会、その当日となった。

 モーリス一家は早々に王城に上がり、高位貴族専用のサロンで会場入りまで寛いでいた。
 本日の主役であるカティアと国王夫妻、そしてルシェーラと彼女の父アーダッドも同席し、入場までの間は暫し会話を楽しんでいた。


 その後、王族一家を残してレティシアたちはパーティー会場へと向かうのだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 殆どの来客たちが入場し終わり、賑わいを見せるパーティー会場。
 各人が思い思いに談笑するなか、本日の主役の入場が告げられた。



 開け放たれた大扉から、国王ユリウスにエスコートされてカティアが会場に姿を現すと、会場中にどよめきが起きた。

 入口のところで、カティアはカーテシーで挨拶する。


(……頑張れ、カティア!)

 彼女の少し慣れない様子に、レティシアは内心で応援する。



 やがて彼女はユリウスたちとともに会場の奥に設けられた壇上へと上がった。
 そして、楽士隊の奏でる曲が一区切りついた頃合いを見計らってユリウスが開催を宣言するべく話を始める。

「皆、良く集まってくれた。また遠路遥々お越しいただいた来賓の方々にも感謝申し上げる。本日は我が娘であるカティアをこうして皆に披露できることを嬉しく思う。……さて、カティアは特殊な事情によってこれまで市井の中で過ごしてきた。故にまだ王族の娘としてはまだ勉強中の身であり、多々至らぬ点もあろうかとは思うが、どうか温かく見守って欲しい」

 ユリウスの言葉に、当の本人が『うんうん』といった感じで頷いてるのはご愛嬌か。


 続けてカティアが挨拶する番だ。
 彼女は一つ息を吸い込んでから、ゆっくりと噛みしめるように話し始める。


「皆様はじめまして、わたくしはカティアと申します。本日は皆様ご多忙の折、お集まりくださいまして誠にありがとうございます。先ほど父が申した通り、これまで私は市井の臣として過ごしてまいりました。今こうしてこの場に立っていることが不思議で……まるで夢をみているかの心地であります」

 来客たちは静かに、彼女に注目して話に聞き入る。

 話しながら彼女が視線を巡らせると、ふと、レティシアと視線があった。
 彼女がカティアを励ますかのように、ニッコリと微笑むと、少しだけ緊張が和らいだようだ。

 そして更に彼女は続ける。

「……先日、私はこの国に暮らす人々に誓いを立てました。これからも私は民に寄り添い同じ視点で未来を思い描き、そしてその為にこそ王族としての責務を果たす……と。それこそが、私がこれまで生きてきた意味であると思っております。私はまだまだ若輩の身ではございますが、日々精進し、国を導くものの一人として研鑽を積み重ね……皆さんと共に国を支えていきたいと思います」


 カティアの挨拶……所信表明が終わると、大きな拍手が鳴り響いた。


(うんうん。やっぱりカティアは、なるべくして王女になったんだねぇ……)

 素晴らしい挨拶を聞いたレティシアは、そのようにしきりと感心する。
 同じ転生者の同胞として誇らしい気持ちにもなった。




「さあ、話はこれくらいにして…今日は祝いの席を存分に楽しんでいってくれ」

 ユリウスが後を引き継いで、開演を宣言する。

 こうしてカティアのお披露目パーティーは本格的に始まるのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「ユリウス陛下、王妃様、この度のカティア様の晴れの舞台、臣下として心よりお祝い申し上げます。カティア様、先程のご挨拶は本当にご立派でございました」

 先ず最初に、モーリス公爵家一同がカティアたちのもとに挨拶に伺う。
 リュシアンの婚約者として、ルシェーラも一緒だ。



「ありがとうございます。ちょっと緊張しましたけど……レティ、ありがとね。あなたの笑顔を見たら少し緊張が和らいだよ」

「えへへ、そお?……でも、そこまで緊張してた風にも見えなかったけど。それこそ舞台で堂々と歌う時みたいだったよ。ねぇ、ルシェーラちゃん?」

「そうですわ。舞台での挨拶の時も思いましたけど、まさに王族のオーラが出ておりましたわ」

「そ、そうかな……なら良かったけど、でも本当に緊張したんだよ」

「ふふふ……まぁ、これからも機会はあるだろうし、直に慣れると思うよ」

 レティシアは、社交界の先輩としての経験を踏まえて言う。
 実際、彼女も12歳のときにデビューして以来、これまで大小様々な夜会に出席してきた。
 ときに公爵令嬢として、ときにモーリス商会会長として。
 ……デビュー時の黒歴史はともかくとして。



「レティシアの言う通りだな。こう言うのは場数がものを言う。俺もそうだったし、誰だってそうだ」

「そうですとも。陛下も最初の頃はガチガチで、見てるこっちがハラハラしたものです。それに比べればカティア様はしっかりされておりましたぞ」

「……モーリス公爵、娘の前でそれは言わんでくれ……」

「ははは、これは失礼しました。やはり娘の前ではいい格好したいものですな、お互いに」

 ユリウスとアンリは歳こそ離れているが、結構気楽な間柄だ。
 親友……というよりは兄弟分と言った方が近いか。


 そして暫くは会話に興じ、三家は交流を深めるが、ちらちらと様子をうかがう他の来客たちの様子を察したアンリが最後を締める。

「さて……他の者も待ってるようだし、そろそろ私達は下がろうか」

「じゃあカティア、またね。大変だと思うけど、頑張ってね~」
 
「……大変って?」

 レティシアの言葉に何となく含みを感じたカティアはが聞き返すと、代わりにルシェーラが答える。

「カティアさんは表向きまだ婚約者がいない事になってますからね。例え意中の人カイトさまがいるのだとしても、それはこの場にいる方たちには分かりませんし……多分、殿方のアピール攻勢が凄いことになるのではないでしょうか?」

「うげっ、それは面倒な……」

 ルシェーラの説明に、思わず彼女は王女らしくないうめき声を上げてしまう。

「でも……それを言ったらレティも同じなんじゃないの?」

 婚約者がおらず、家格が高い年頃の娘。
 加えて容姿も優れている。
 カティアの言う通り、レティシアも引く手数多なのは同じはずなのだが……

「ま、まあ、私は社交界は初めてじゃないし……」

 歯切れ悪そうに彼女は言う。
 その理由は推して知るべしなのだが……

「レティは一度やらかしてますからね。一部では変わり者という評判もありますし……」

 リュシアンがため息をつきながら説明した。


 一体何をやらかしたのか……とカティアは思って、レティシアを見ると。

 にっこり。

 ……聞いてくれるな……と、言外に笑顔で伝えようとするが、その目は全く笑っていなかった。



 それを見たカティアは、それ以上追求することができなかった。

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