【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

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レティシア15歳 輝く未来へ

第114話 王女

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 会場中に響いた万雷の拍手もようやく収まり、カティアの歌の余韻……何か夢心地のような空気を、観客たちは共有していた。

 しかし夢のような時間も終わり、少しずつ現実に引き戻され……そこかしこで今日の舞台の感想を語り合う声で賑わい始めた。


 エーデルワイス歌劇団の演目はこれで終わりだが、王都での初回公演の初日という特別な日と言うこともあり、これから来賓の……国王ユリウスの言葉を賜ることになっている。

 国王夫妻が舞台上に現れると、会場は再び静寂に包まれた。

 更に、エーデルワイス歌劇団の団長であるダードレイと、先ほどまで見事な歌声で観客たちを魅了した歌姫カティアも舞台に現れる。


 そして、ユリウスが今回の素晴らしい舞台に対する称賛と、これからの活躍の期待を込めて挨拶を行い、エーデルワイス歌劇団に栄誉ある称号を授ける儀式が執り行われた。

 ダードレイが王の前に跪き、謹んで称号を受領すると、祝福の声と拍手の音が鳴り響いた。


 それで儀礼は終わった……と、誰もが思ったとき、ユリウスは再び観客たちに向かって話し始めた。


『さて、今日はもう一つある。カティアよ、こちらへ』

『はい』


 これから何が行われるか、レティシアは知っている。
 周りの貴賓席にいる者たちも同様だ。


「……いよいよだね」

「ええ……」

 まるで自分のことのように緊張の面持ちで、レティシアとルシェーラは呟いた。


『皆は我が妻カーシャの姉……15年前に行方の分からなくなったカリーネの事は知っていよう。当時、彼女は余の婚約者でもあった……』

 突然出てきたその名前に観客はどよめき、戸惑うような雰囲気が会場に広がる。
 しかし、敏い者はそれだけで何となく話の流れが読めたようで、驚きの表情でカティアに視線を送る。

『……残念なことではあるが、長らく行方が分からなかった彼女の死が正式に確認された』

 その場のざわめきがより一層大きくなる。

『……彼女の無念がいかばかりのものであったか。それを想像すると、何故側にいてやれなかったのか……救えなかったのかと、余は慚愧の念に堪えないのだ』

 場内のざわめきは収まり、瞑目して祈りを捧げる者……年配の人の中には涙を拭う者もいた。


『だが、カリーネは自らの命を賭して守り抜いた……自分の娘を』

 ユリウスのその言葉で再び場内がざわつく。
 もう多くの人々が、カティアに注目している。


『そう、このカティアこそ……余とカリーネの娘だったのだ。死の縁にあったカリーネからダードレイ殿に託され……そして今、この地に戻ってきてくれた』

 そこで、ユリウスの言葉をカーシャが引き継ぐ。
 正当な王家の血筋を引く彼女が儀式を行う為だ。

『我が姉、カリーネの死はとても悲しいことです。しかし、その娘が生きて帰ってきてくれた……こんな喜ばしいことはありません。……カティア、こちらへ』

 カーシャの前に進み出たカティアが、跪き頭を垂れる。
 そして、王妃が手にした黄金のティアラが、王女の頭に戴せられた。
 そして彼女は立ち上がって観客の方に向き直る。

『姉の娘は私の娘も同然。私、イスパルの裔たるカーシャ=イスパルは、このカティアを我らが娘として迎え……イスパルの王族として正式に認めることをここに宣言いたします』


 一際大きな歓声が上がった。


 カティアは歓声に応え、手を振りながら舞台前方に進み出た。

 そして、歓声が落ち着いた頃合いを見計らって、語りかけるように話し始めた。


『皆さん……突然こんな話を聞いて戸惑っている事でしょう。私自身、自分が王家の血を引いていると聞いたときは驚き戸惑いました。私はこれまで一座の歌姫として市井の中で過ごし、色々な地域を訪れ、多くの人と出会いました。そんな私が王族であったことの意味は何なのか考えたとき……きっと皆と同じ目線に立って皆の暮らしを守る事……それが私の責務だと思いました』

 そこで彼女はひと呼吸置いて観客席を見渡し、再び観客たちに語りかけた。


『だから、私はこれからもエーデルワイス歌劇団の歌姫を続け……民と近い位置に立ち続けた上で、王族の責務を果たすことを、皆さんに誓います』

 カティアが王女として初めて宣言すると、この日一番の歓声が劇場内を満した。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「はぁ~、カッコイイねぇ……」

「本当に。流石はカティアさん、ご立派ですわ」

 カティアの宣言を見届けたレティシアとルシェーラは、感嘆の声をあげる。


「初めてお会いしたときから、不思議なカリスマがある方だと思っておりましたが……やはり王族になるべくして生まれた方なんですわね」

「ほんとにね~。観客も凄い熱気だよ。完全にアイドルだね」

「……何だか遠い方になってしまったようでちょっと寂しい気も」

「ははは!そんなことないでしょ。きっとあの子の本質は何も変わらないよ。これからもね」

「……そうですわね。でも、もしカティアさんがこの国の女王になったらと思うと……何だかワクワクしますわ」

「そうだよねぇ……。まぁ、まだカティアはまだそんな事考えてないだろうけど……きっと時代が変わる。そんな気がするよ」

 近い将来、彼女は大きな事を成し遂げる。
 出会った時からレティシアはそう思っていた。


 そんな彼女の言葉を聞いたルシェーラも……

(……きっと、レティシアさんも時代の変革者になる方だと思いますわよ)

 と、内心で呟いた。

 そして眩しそうにレティシアを見つめてから、再び舞台上のカティアに視線を向けるのだった。

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