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レティシア15歳 輝く未来へ
第112話 再会
しおりを挟む王都に到着して早々……レティシアは旅の疲れを癒やすこともなく、急ぎある場所に向かっていた。
夏の日差しが降り注ぐ、昼過ぎの王都の街並み。
多くの人で賑わう街路を、彼女は少し駆け足気味に歩く。
彼女の前世、日本の夏よりはカラリとして過ごしやすいものの、そんなふうに陽の下を歩けば少し汗ばんでもくる。
時おりハンカチで汗を拭いながら、息を弾ませ……
そうしてたどり着いたのは、八番街にある広場の一つに面した大きく立派な建物の前。
重厚かつ壮大な石造りの建造物は、古代の神殿のような厳粛さを感じられる佇まいの……国立劇場である。
「なんとか、間に合った……かな?」
劇場の裏手にまわり、関係者用の通用口の前にやってきたレティシア。
正面入口ではなくこちらにやって来たのは……
と、その時。
通用口の扉が開き、中から老年の女性が姿を見せる。
そして彼女はレティシアに気がつくと、笑みを浮かべて話しかけてきた。
「あぁ……あんたがレティシアちゃんかい?」
「あ、はい!そうです!」
「うんうん、よう来なさった。さあ、お入り」
そう言って、彼女は笑みを深めながらレティシアを中に招きいれてくれる。
レティシアは話がちゃんと通っていることに安堵しながら、劇場の中へと入っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「カティア!」
「レティ!来てくれたんだね!」
劇場の楽屋で二人は再会を果し、笑顔で抱き合う。
「何とか初日に間に合って良かったよ」
「ふふ、公演は何日もやるから大丈夫だよ?」
「いや、やっぱ親友の晴れ舞台だもん。初日に駆けつけないとね!」
そう。
今日は、カティアが歌姫として所属するダードレイ一座……改め『エーデルワイス歌劇団』の新たな門出。
王都における初回公演、その初日である。
そしてそれだけでなく、舞台が終わったあとにはある催しが行われる。
それもあって、レティシアは何とか間に合わせたかったのだ。
「それステージ衣装?凄くカワイイね~」
カティアは純白の薄絹を幾重にも重ねたドレスを纏っていた。
レティシアは普段から自分が着るものには無頓着だが、綺麗な女性が美しく着飾っているのを見るのは嫌いではない。
自分が着飾ることに興味が無いだけで、ファッションセンス自体は悪くはないのだ。
「うん、ありがとう!……これ、王都デビューだからってね、母様が気合い入れて新調してくれたんだ」
『母様』とは、王妃カーシャの事だ。
彼女はカティアの実母ではないが、亡き姉の忘れ形見の娘をたいそう可愛がっている。
実の父であるユリウスとも良好な関係であり、レティシアはそれを聞いて安心したものである。
もちろん、彼女の知る国王夫妻であれば、きっとカティアを気に入るはず……とも思っていたが。
「でもそれって……なんか前世のウェディングドレスみたいだね」
「あ、やっぱりそう見える?私も初めてみた時、そう思ったんだよね……」
彼女たちの前世とは違い、この世界のウェディングドレスは特に純白と言うイメージは無い。
「そうだ、カイトさんとの結婚式でも純白のドレス着たら?王女様の結婚式はみんな注目するだろうし、きっと流行ると思うな」
「け、結婚って……ま、まだまだ先というか……」
レティシアの提案に、彼女は顔を赤くして恥ずかしそうに答えるが……ふと、真剣な表情となって続ける。
「それに、未来を望むなら……私には解決すべき事がある」
「……暗殺未遂の件?」
その問に、カティアは静かに頷く。
一応は解決を見たその事件。
しかし、いくつかの謎があり、本当の意味では解決していない……と彼女は言う。
「そう……私にできる事があったら頼ってね」
「うん、ありがとう。レティの魔法は凄いし、知識も頼りになるし……何かあったら相談させてもらうよ」
そのカティアの言葉に、レティシアは神妙に頷く。
そして、その後も彼女たちの会話は弾むが……ふと思い出したかのようにカティアが言う。
「そう言えば、鉄道の方は順調?」
「うん、細かいトラブルはあるけど、概ね順調かな。王都側からの工事も始まって……最後の懸念はアレシア大河だね」
「あぁ、あそこは難所だよね」
イスパルナと王都を往来するたびに渡る、雄大な川の流れを思い浮かべながら答える。
当初から最大の難所と目されていた場所であり、着工前から橋梁工学の専門家に相談するなどしていたが、最近まで具体的な工法などはまだ決定していなかった。
「最初は既設の六連橋を併用橋として使えないか……とか考えてたんだけど。流石に300年前の建造物に頼るのもねぇ……耐荷重量がどれほどなのか分からないし」
「なるほど……」
「でも、アレシア大河前後が開通したら暫定開業も考えたんだけどさ、最近ようやく目処がつきそうなんだ」
アスティカント学院の専門家たちと長らく検討を重ね、これまでにない新たな工法を用いることで話がまとまりつつあるのだ。
「そうなんだ、良かったね!」
「うん。だからね、いよいよ開業が見えてきた……って感じ」
順調に工事が進めば、概ねあと一年前後で開業にこぎつける……と、彼女は説明する。
もうすぐ彼女は学園に入学する事になるが……来る日まで、学生としても、経営者としても、忙しい日々を過ごすことになるだろう。
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