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レティシア15歳 輝く未来へ
誰111話 今、いっときの別れ
しおりを挟むヴァシュロン王国視察団による鉄道視察は予定通りに5日間の日程を消化した。
彼らが来たときと同じように、モーリス公爵邸の玄関前で公爵家一同が見送りする。
リディーたちモーリス商会の主要メンバーも一緒だ。
「じゃあレティ、また会おう。鉄道が開業するときには、必ず駆けつけるよ」
「はい!大々的に式典をやるつもりですから、フィリップ様も招待させていただきます!」
フィリップとレティシアは握手をしながら別れの挨拶をする。
この5日間で、二人は随分親しくなった。
レティシアの言葉遣いは丁寧なものだが、もう友人と言っても良いだろう。
そして、フィリップとリディーも……
「リディーも。今回は有意義だったし、とても楽しかったよ」
「ええ、こちらこそ。視察団の皆さんのご意見、大変参考になりました」
と、挨拶を交わした。
そして更に……フィリップはリディーにだけ聞こえるように、彼の耳元に近づいて小声で言う。
(……レティの事は、負けないからね)
(だから、それは……)
フィリップにライバル視され、リディーは困惑の表情を浮かべる。
3人で観光に出かけた日、彼の心には迷いが生じ……それはまだ晴れてはいない。
近い将来、鉄道が開業を迎える日……
その時きっと、3人の関係は大きく動くことになるのだろう。
「?何を二人でコソコソ話してるんです?」
「あはは、なんでもないよ。……それでは皆さん、ありがとうございました!」
こうしてヴァシュロン王国視察団、フィリップたちは帰国の途についた。
それを見送るレティシアの横顔はどこか寂しそうで……
そして、それに気付いたリディーも、複雑そうな表情を浮かべるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フィリップたちを見送った日から数日後。
今度はレティシア自身が旅立つことになる。
学園への入学と、鉄道開発の中心を移転するため王都に向かうのだ。
イスパルナ側から始まった建設工事は順調に進んでいるが、王都側からもそろそろ着工することになる。
更には開業に向けての細かな調整事項については、王都の役人とやり取りする機会が増える。
故に、陣頭指揮を取るレティシアが王都に拠点を移すのは必然であろう。
「じゃあ先生、親方。あとはよろしくお願いします!」
「うむ。元気でな」
「こっちは任せてくれ!リディー、会長をよろしくな」
「ええ、全線開通、開業まで大詰めです。頑張りましょう」
モーリス商会の前で、レティシア、マティス、マルク……そしてリディーの4人は、固く握手をして、暫しの別れを惜しむ。
商会の従業員たちも見送りのため外に出てきていた。
そして……
「それじゃあ、行ってきます!!」
元気な声でレティシアは出発する。
公爵家のものではなく、モーリス商会所有の馬車に、リディーやエリーシャ、パーシャとともに乗り込んで……
マティスや親方たちの姿が見えなくなるまで、窓から身を乗り出して手を振るのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「さ~て、なるべく急がないとね……」
「確か、カティア様のお披露目があるんだよな。順調にいってもギリギリか……」
「そうなんだよ。まあ、仕方ないね。あんな事件があったから……」
先日、公爵邸に立ち寄ってレティシアの友人となったカティアの話だ。
彼女は無事に王都に辿り着き……正式に王女として認められたばかりでなく、王位継承権第一位に指名されたとのことだった。
そしてそのお披露目が行われるとのことで、レティシアもそれに合わせて王都入りを計画していたのだが……
彼女の言う『事件』のせいで出発が遅れたのである。
その事件だが……
なんと、カティアが暗殺の標的にされたと言うのだ。
幸いにも、事前に察知した彼女の護衛と、彼女自身の活躍によって事件は既に解決している。
しかし、その事件にモーリス商会の元従業員が関わっていたとのことで、調査や報告のため対応に追われたのだった。
「やっぱり……何か良くないことが起きるのかな……」
以前から漠然と感じていた不安が、再び思い起こされる。
そして、カティアの存在はきっと、大きな運命の流れの渦中にある……と。
そして親友を心配する気持ちを察したリディーが、彼女を安心させるように言う。
「大丈夫だ。あの方は神の力を受け継いだ英雄なんだろう?」
「……うん」
「そんな方が、将来の女王なのだから……国民としては頼もしい限りだよ」
「……そうだね。ありがと、リディー。私たちは私達のできることで、国のため……世界のために貢献しよう」
「ああ」
そう言って二人は微笑み合う。
そして、二人の会話を邪魔しないように静かに聞いていたエリーシャとパーシャは、その様子を見て……
(……やっぱり、お嬢様とリディーさんはお似合いよね)
(はい。すごく自然で……お互いを信頼しあっているのがよく分かります。素敵なお二人ですね)
と、囁やきあうのだった。
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