【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

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レティシア15歳 輝く未来へ

第109話 職場見学

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 旧イスパル王宮内を散策する三人。

 重厚かつ絢爛でありながら、長い歴史の積み重ねによって醸し出される落ち着いた雰囲気は、元離宮である公爵邸の雰囲気にも通じるものがある。

 随所に観光客向けの案内板が設置されている。
 レティシアはこれまで特に注視したことはなかったが、あらためて説明を読んでみると知らなかった事実も多かった。


「ふむふむ……なかなか地元の名所って気合い入れて見ることはなかったけど、改めて見てみるとけっこう面白いかも」

「確かに、こういう機会でもなければな」

「地元ってそうなるよね。僕なんか学園生時代から国外に出ることが多いから、なおさらだよ」

 レティシアの言葉には、リディーもフィリップも同意する。



「鉄道が開業したら、きっと観光客も増えるよね。なんか観光案内のパンフレットとか作って駅に置いとくと良いかも」

「それはいい考えだね」

「ええ。観光需要だと、まだ気が早いですけど……イスパルナからプレゼンタムへの延伸すれば、温泉リゾートのフィラーレへのアクセスも向上しますからね~。パックツアーとか売れそう。団体向けの貸し切り列車とかも。モーリス商会で旅行代理店とか立ち上げようかな……」

 フィラーレはイスパルナから黄金街道を西に、徒歩で半日以上かかる温泉街である。
 平野部から一気に山岳地帯へと変わるため、プレゼンタム延伸の際には最大の難所となる事が予想されているが、もし鉄道が開通すればかなりの集客が見込まれるだろう。

 レティシアは前世のパックツアーのイメージで、鉄道と宿泊をセットにした商品はどうだろうか……と考えたのである。


「まずは無事に開業させる事が先決だが……企画としては面白いな。今度会議で挙げてみたらどうだ?」

「うん、そうする。こないだの駅弁の企画もあるし」

 また自ら仕事を増やそうとするレティシアに苦笑しながらも、企画自体には賛同するリディー。
 よくもまあアイディアが次々と出てくるものだ……と、彼は半ば呆れながらも感心する。


「技術者としてだけじゃなく、経営者としての手腕も凄いんだね、レティは」

 商会の会長としての一面を見たフィリップは、そう言って彼女を称賛する。


「いえ~、私は発案と承認ばっかりで、細かいとこは結構お任せですけどね~。スタッフが優秀ですから」

「……承認は割と適当な気がするがな」

 謙遜して言うレティシアに、リディーがすかさず突っ込みをいれる。

「そ、そんな事ないよ……たまにちゃんと見てるし」

「たまにか……」

「リディーがちゃんと見てるんだから別にいいじゃない」

「あはは、やっぱり君たちは良いコンビなんだね~」

 レティシアとリディーのやりとりに微笑ましさを感じ、フィリップが言う。
 二人の気安い関係を羨ましく思い、出来れば自分もこうなりたい……そんなふうに思っていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 さて、三人は旧王宮の観光を終わりにして、その後はディザール神殿総本山にお参りし……何故かモーリス商会にやってきた。
 フィリップが是非見学したい……と希望したためだ。


「え~と……ここは観光地ではないですけど」

「まあ、いいじゃないか。君たちの職場を見たかったんだ。それに……ここは鉄道に限らず、色々なものが発明される場所なんでしょ?」

「まあ、そうかもしれませんが……至って普通の商会ですよ」

 レティシアはそう前置きしつつ、モーリス商会の中にフィリップを案内する。
 中にいた店員たちは会長レティシアが来たことにすぐ気付いたが、来客案内中であることを察して声はかけずに目礼するだけに留めた。


 一階は一般向けの商品を取り扱う店舗だ。
 レティシアの前世の記憶をもとに商品化された魔道具や便利グッズ、玩具などが販売されている。
 そのジャンルは多岐にわたる。

「へぇ~……面白そうな品揃えだね。これは何だい?」

 興味津々といった様子で店内を眺めていたフィリップは、手近な品物を指さして質問する。
 それは、横倒しにした酒樽のようなものに車輪と蛇腹状のホースが取り付けられていて、どのような機能を持つのか彼は想像がつかなかった。

「それは掃除用の魔道具です。この本体の部分で渦状の風を起こして、そのホースの先端からゴミを吸い取るんです」

 要するに、彼女の前世で言うところのサイクロン式掃除機だ。

「へえ……じゃあこれは?」

 今度は棚に置かれていた掌サイズの箱を手にとって聞く。

「それは『トランプ』といって……いろいろなゲームが楽しめるカードです」

 レティシアは別の似たような箱を開けて、中に収められた何十枚ものカードを見せながら答えた。

 この世界にはもともと、将棋やチェスなどのボードゲー厶はあったのだが、カードゲームの類は彼女が知る限り無かった。
 そこで試しに作って身内で遊んでみたところ、かなり受けが良かったので商品化したものである。
 近年急速にその認知度は高まり、イスパルナやアクサレナでは飛ぶように売れているらしい。

「ご興味がお有りでしたら……公爵家うちにもありますので、戻ったら遊んでみましょうか」

「うん、是非やり方を教えてほしいな。楽しみにしてるよ」



 その後も歩ら店舗内を歩き回り、興味の赴くままにレティシアやリディーに質問する。

 そして、暫くの間そうしていると……三人に声をかけてくる者がいた。

「会長に副会長、こちらにいらしてたのですね。……フィリップ様、モーリス商会にようこそおいでくださいました」

「あ、エリーシャ。お疲れ様~」

 声をかけてきたのは会長秘書のエリーシャだった。
 彼女は当然、会長レティシアの予定は把握していたが、モーリス商会の方に顔を出すとは思っていなかったようだ。

 彼女はフィリップと挨拶を交わしてから、少し困ったような表情で言う。

「会長、丁度良かったです。申し訳ないのですが、少しだけお時間頂けないでしょうか?フィリップ様をお待たせしてしまうのは大変失礼だとは思うのですが……」

 来客を差し置いてそんな事を言ってくるあたり、それほどの問題が生じている……
 そう思ったレティシアだが、案内の途中ということもあって了承するのをためらう。

 すると、それを察してフィリップが気遣いを見せた。

「あ~、僕のことは気にしないでいいよ。待ってる間はリディーに案内してもらうから」

「ええ、お任せ下さい」

「申し訳ありません。すぐに終わると思うので……。では会長」

「う、うん……」


 ……ということで、レティシアとエリーシャは男二人を残してその場を立ち去った。


 そしてそれを見送ってから、フィリップは言う。

「……さて、僕としても丁度良かったよ。君とは二人きりで話をしたいと思っていたから」

 彼のその言葉に、リディーは訝しげな表情を見せるのだった。


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