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レティシア15歳 輝く未来へ
第108話 観光
しおりを挟む視察二日目。
初日では説明しきれなかった、車両の整備作業などがどのように行われているか……について、午前中は車両基地での説明が行われた。
午後はイスパルナ郊外の『工場』まで赴いて、車両の製造過程の見学に費やされた。
初日に引き続き、視察団の面々はとても満足した様子であった。
そして三日目は休養日。
レティシアはフィリップを観光案内することになっていた。
しかしそれは二人きりというわけではなく……
「いや、商会の仕事もあるだろうに、すまなかったね」
「なぜ私も一緒に……?」
納得のいかない様子でリディーは言う。
彼からしてみれば、自分が二人の邪魔になると思うと、いたたまれない気持ちになるのだ。
しかしフィリップは何でもないふうに言う。
「最初に言ったじゃないか。君とはゆっくり話したいな……ってね」
「は、はぁ……(どういうつもりなんだ……?)」
彼の意図が分からず、リディーは生返事をする。
しかし実際のところ、フィリップの誘いに隠された意図などない。
言葉通り、リディーという人物に興味があるだけなのだ。
鉄道が世に出ようとしているのはレティシアの功績によるところが大きいが、彼女の仲間たち……特にリディーがいなければ、これほど早く実現することはなかったはず。
それはレティシアもよく分かっていることだが、フィリップもそう思っているのだ。
彼はレティシアに対するものと同じくらい、リディーを評価しているのである。
それとは別に、もちろん恋のライバルと認識もしているわけだが。
「まあまあ、いいじゃない。一緒に行こうよ!その方が楽しいよ!」
そしてレティシアは、そんな男たちの思惑など関係なく、能天気にそんな事を言う。
彼女は少しずつ女性としての意識が芽生えつつあるが、男二人の思惑に考えを巡らせるには至らない。
そして普段と変わらない彼女の様子に、どこかホッとした気持ちになったリディーは……
「……分かったよ。で?どこに行くんだ?」
と、同行を承諾し、彼女に行き先を尋ねる。
「う~ん、そうだね……どこがいいかな……」
「何だ、計画してたんじゃないのか」
「だって、視察してもらう内容はアレコレ考えてたけど、観光名所までは……フィリップ様は行きたい場所はどこかあります?」
「僕はレティが案内してくれるところなら、まあ何処でも良いんだけど……旧イスパル王宮は見てみたいかな」
「まあ定番ですよね~。それじゃあ行きましょうか」
まずは最初の目的地が決まり、三人は並んで歩き始めた。
なお、視察団一行にはフィリップの護衛もいたはずだが、今回は彼の希望により着いてきていない。
以前も、技術開発品評会ではリュシアンと二人だけで行動していた事からすると、そのあたりヴァシュロン王家は割とゆるいようだ。
さて、一行が向う旧イスパル王宮だが……
約300年前、アクサレナに遷都するまでの王宮であり、イスパルナ市街のほぼ中央の広大な敷地にいくつもの歴史的建造物が立ち並ぶ。
一部は政庁舎として使われており、市民が行政手続等で訪れる。
その他の建物も広く一般に公開され、多くの観光客で賑わう国内随一の観光スポットとなっていた。
美術館や音楽堂などもあり、時おり様々なイベントが催されたりもする。
建物以外の敷地は美しい公園として整備され、市民にとっても憩いの場所である。
三人は、市街の北の外れにある公爵邸から歴史ある街並みを散策しながら、そこまでやってきた。
「いや~……やっぱりウチみたいな山あいの田舎と違って華やかだよね」
「いやいや何言ってるんですか。『白隼城』とルックルの風光明媚さは余りにも有名ですよ」
フィリップの自虐的な言葉に、レティシアがそんなふうに返す。
ルックルはヴァシュロン王国の王都、『白隼城』は王城の別名で、湖畔に建つ姿の美しさから名付けられたという。
「ふふ、ありがとう。まあ、風景なんかは自慢かもしれないね」
「もしヴァシュロンまで鉄道が通ったら、人気のリゾート地になるのは間違いないですよ。ね、リディー?」
「そうだな……国境の山岳地帯をどうクリアするかが課題だが」
「だよね。長いトンネルが掘れるなら良いんだけど」
「あ、それなら……最近、土魔法を駆使した新しい掘削法が考案されたとか……」
だんだんと三人の会話が弾むと、話題は自然と鉄道の話になった。
イスパルとヴァシュロンの国境は急峻な山岳地帯となっていて、街道はあるものの往来するのは容易ではない。
そこに鉄道を通すとなれば……そこには多大な困難がつきまとうのは間違いないだろう。
(前世の日本も国土の大部分が山だから線路を通すのは大変だっただろうね。だけど路線拡大のためには避けて通れない課題だよ)
国内でも、イスパルナから西に延伸してプレゼンタムまで線路を伸ばす計画が既に検討されようとしている。
ヴァシュロン国境ほどではないが山岳地帯を通る場所もあるので、いずれは具体的な解決手段を考えなければ……と、彼女は思うのだった。
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