【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

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レティシア15歳 輝く未来へ

第107話 ゆれる想い

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 視察団歓迎のための晩餐会、その会場をフィリップとともに抜け出し、庭園にやってきたレティシアだったが……


(つい、いっしょに出てきちゃったけど……もしかして軽率だったかな?)

 先程まで話しているときは全く意識してなかったが、男性と二人きりになったことに今更ながら緊張感を覚えるレティシア。
 彼女は父や兄、リディー以外の男と二人きりになったことなどなく、先程まで会話していた相手なのに何を話せば良いのか分からなくなる。


「流石に見事な庭園だね。たしかモーリス公爵邸って……もと王宮だったんだよね?」

 レティシアの様子に気がついたフィリップが、そんなふうに話題をふった。
 彼女が自分を意識していると思えば、嬉しくもなる。

 そして話題を提供されたレティシアは、どこかホッとした表情で返す。

「あ、正確には離宮だったらしいです。歴史があって趣があるのは良いんですけど……住むとなると、けっこう不便も多いですよ」

「それは分かるな。ウチもまあ歴史ばかり古くてさ……この間なんかゴーストが出た!なんて大騒ぎになって」

「あはは、それは大変でしたね~(……この世界、ほんとに出るからな~)」

 なお、彼女は退魔の魔法が使えるのでゴーストを始めとしたアンデッド系に対処可能だ。
 存在が認知され、さらに対抗手段があるので……むしろ前世よりも怖くないとすら思っている。

「だけど、歴史の積み重ねでしか出せない趣というのは……やはり良いものだと思う」

「そうですね……」

 それには彼女も同意する。
 確かに前世の記憶を取り戻した直後は、邸や庭園を散歩するだけでも新鮮な驚きがあり、しばらくは退屈しなかったものである。

 今も……光で彩られた夜の庭園は、幻想的な美しさで二人の目を楽しませている。


 そうやって一度話し始めれば、そのあとは晩餐会場にいたときと同じように普通に会話もできるようになった。
 自然と話題が技術関連のものになるあたり、二人はよほど気が合うのかもしれない。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方、レティシアたちとは別のところから外に出たリディー。
 外の空気を吸って気分を落ち着けながら、彼も庭園を散策する。


(……レティは、大切な仕事上のパートナーだ。しかし、それ以上でも以下でもない)

 自分に言い聞かせるように、戒めるように、彼はその感情を心の奥底に押し込めようとする。

 フィリップと楽しそうに語らう様子を見て、彼は嫉妬を覚えたことは自覚していた。
 だが、同時に似合いの二人だ……とも思ったのだ。
 平民の自分と違い、身分も釣り合いが取れている。

 だからこそこの想いは外に出すわけにはいかない。
 これまで通り、自分はあくまでも仕事上のパートナーなのだと。



 そんなふうに自分自身に言い聞かせながら、心を落ち着けようと公爵家の庭園を散策する。

 すると……


(……!!)

 前方から誰かの話し声が聞こえてきた。
 だんだんと近付いてくるそれは、よく知る声だった。


(いつの間にか近づいてたのか……引き返そう)

 今ここで二人に会うのは気まずい……
 そう思い、彼は踵を返して来た道を戻るのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「あれ…………リディー……?」

 フィリップと話しながら庭園の小径を歩いていたレティシアは、行く先に誰かの気配を感じ……それが、よく知った相手のように思えた。


「え?……誰かいたのかい?」

「いえ、気のせいかもしれません。……フィリップさま、そろそろ戻りましょうか」

 彼女は急に、何となく居心地の悪さを感じてそう言う。
 何か後ろめたいような……何故か自分が悪いことをしているような気持ちになったのだ。


「……そうだね。体が冷えすぎても良くないからね」

 フィリップは彼女の手を取って、晩餐会場に戻る道をエスコートし始めた。

「あ……」

 それまで彼は少し距離を保って彼女にベタベタ触れるようなことはなかった。
 しかし、ここで初めて彼の手の温かさを感じ、彼女は思わず声を漏らした。


(気持ち悪い……って感じは、しないけど。やっぱり私って『女』なのかな……?何だかドキドキしてるかも)

 前世の感覚のままであれば、男から異性として扱われれば違和感を覚えたはずだ。
 少なくとも、これまでそういったことはなかったし、それは彼女も既に分かっている。
 むしろ男性の手の力強さが心地よいとすら思ってしまう。


(そう言えばフィリップさま、婚約の話は全然しなかった。ちゃんと約束、守ってくれてるんだ……。もし、また婚約を申し込まれたとしたら……今度はちゃんと考えないと)

 彼はいつも誠実で色々と気遣ってくれる。
 であれば、その時が来たら自分も誠実に応えなければならない……と、彼女は思う。


 しかし。

(彼のことは嫌いじゃない。話は会うし、一緒にいて楽しいと思える。でも……)

 この人ではない……という、特に根拠のない漠然とした感覚を、彼女は持っている。
 それが今後変わっていくのかは、彼女にも分からないだろう。

 だが……

 少なくとも、フィリップはレティシアの中で大きな存在になりつつあるのかもしれない。

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