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レティシア15歳 輝く未来へ
第105話 プッシュ・プル
しおりを挟むトゥージス駅から折り返しで発車する時間が迫っていた。
「もうすぐ復路の発車時間なんですけど……運転席の様子をご覧になりますか?」
「うん、是非とも見せてもらいたいな」
レティシアが聞くと、フィリップは迷わず答えた。
折角の視察なのだから、見せてもらえるものは何でも見なければ……と。
「今度は機関車が後ろから押してくのかい?」
「はい、帰りは『推進運転』になります」
機関車が最後尾となって客車を押していく運行形態の事だ。
そしてレティシアが立ち上がり、復路の進行方向の方へ案内しようとする。
「あれ?機関車は後ろなんじゃ……」
「復路の運転席は機関車じゃなくて……『制御客車』の方になるんです」
「あ~、そう言えば最初に説明してくれたっけ。つまり、機関車を遠隔操作できる客車って事なんだね」
「そう言うことです。さあ、列車の先頭まで行きましょう」
レティシアたちが乗車していたのは、5両編成の客車の真ん中である。
復路の進行方向側、先頭にある制御客車に向かって一行は移動する。
その途中、車両間の連結部分でレティシアの説明が入る。
「車両間の移動ができるように……このように連結部分には渡り板があって、転落防止のため幌で覆われてます。走行中でも移動できますけど、その場合はかなり揺れますから注意して下さいね」
2両隣に移動すると、そこは一見して他の客車と変わらない座席車のようだった。
しかし、前方の客室扉からデッキ部に進むと、他の客車とは異なる部分が見られた。
普通の客車であれば、トイレや隣の車両に行くための通路がある場所に、『乗務員室 立入禁止』と書かれた扉が設けられていた。
その扉を挟んだ両側壁面の一部がガラス窓となっていて、その向こう側は何やら複雑そうな装置や計器類が配置されている小部屋……運転室が見えた。
列車前方の景色も運転室越しに確認できる。
運転室には既に親方が発車の準備を行っているところだった。
彼はレティシアたちがやってきたのに気づくと、ニヤリと笑って親指を立てた。
レティシアはそれに笑顔で手を振った。
「ここが制御客車の運転席です。ここから機関車を遠隔操作して列車を動かす……というわけですね」
「席に座って車窓を眺めるのもいいけど……ここから前を見れるのはワクワクするね」
「ですよね~。私もここからの眺めが楽しみなんですよ~」
前世が乗り鉄の彼女は、もちろん前面展望も大好物だ。
本当は客席から前が見えるようにしたかったのだが、色々な制約のためそれは断念している。
きっと営業を開始したら、この場所には多くの人が集まってくるかもしれない。
やがて発車時刻が近づいてくると、前方から別の列車が近づいてくるのが見えた。
「この列車のあとにイスパルナを出たやつですね。牽引してるのは量産機の01型1号機です。あれがトゥージス駅に到着したら出発します」
列車は駅の手前で大きく減速し、ポイントにより転線、隣のホームに進入し……やがて停車した。
そして……
ピィーーーッッ!!
警笛が鳴り響き、レティシアたちの列車が出発する。
ゆっくりと加速し、ポイントを通過すると転線する。
試験線は複線で方向別に線路が分かれているのである。
そしてポイントを通過したあと、運転士がマスコンを操作して更に加速させていく。
グングンとスピードを上げていく列車。
レティシアたちは夢中になって展望窓に張り付く。
やがて列車は最高速度に到達し、レールと景色が瞬く間に後方へと流れていった。
信号は全て青を示し、トップスピードを維持したままイスパルナに向かって快走する。
途中で01型2号機が牽引する列車とすれ違うとき、風圧によって少し揺れたが、それも何ら妨げにはならず安定走行を続ける。
イスパルナの街が見えてきた。
親方がブレーキレバーを操作すると、惰性で走行していた列車が緩やかに減速を始める。
そして、イスパルナ北駅にゆっくりと進入した列車は、停止位置ぴったりで止まる。
こうして、往復で1時間にも満たない短い旅は終わりを告げるのだった。
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