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レティシア15歳 輝く未来へ
第103話 視察3
しおりを挟むレティシアたちが魔導力機関車についてひとしきり説明を行ったあと。
続いて、視察団一行を乗せて実際に列車を動かすこととなった。
もともと予定していた試験に同乗してもらう事にしたのだ。
「今日はまだ初日ですし、旅の疲れもお有りでしょうから明日以降でも……」
長旅の疲れもあるだろうと、レティシアは念の為確認するが……
「いや、むしろ初日から乗せてもらえるなんて嬉しいよ。滞在期間も限られてるし、是非とも乗せてもらいたい」
フィリップはそう答える。
同行者たちも一様に頷いていた。
「ふふ……分かりました。では、こちらへどうぞ」
熱意のある様子にレティシアも嬉しくなり、思わず笑みを浮かべる。
そして一行を客車へ案内するのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それで、試験の内容はどのようなものなんだい?」
最近落成したばかりの一等ラウンジ車に乗り込んだ一行。
発車までの間、今回の試験内容についてフィリップが質問し、レティシアがそれに答える。
「はい。今回の試験は、これまでよりもより実営業運転を想定した運行試験になります。具体的には……複数の編成を走らせて、信号システムが正常に動作するかどうか。制御客車を用いた折り返し運転、複線によるすれ違い……などを確認するんですよ」
「ふむふむ……」
「これが今回の試験予定です」
そう言って彼女は図表が記載された紙を手渡す。
「……なるほど。縦軸を距離、横軸を時間としてるんだね。一つの線が一つの編成の運行を表してるのかな。そうすると今回は……3編成を運行させるのか」
「おぉ!流石ですね~」
即座に図表の意味を理解したフィリップに、レティシアは感心した。
「それを私達は『ダイヤグラム』と呼んでます。一目で運行情報が分かるスグレモノですね。……とは言っても、まだ二つしか駅がないから寂しいものですけど」
「何ごとも一足飛びには進まないからね。技術は一つずつ地道に積み重ねていくしかない」
「ええ、その通りです」
これまでも、彼女と仲間たちはそうしてきた。
焦っていろいろな手順を飛ばしては、どこかに歪みが生じてしまう。
地道な検証の繰り返しこそが、安全な輸送システムを作り上げるのだ。
やがて、レティシアたちの乗った編成が出発する時間となった。
少しばかりの衝撃とともに列車がゆっくりと動き出すと……
「「「動いた!!」」」
かつての自分たちと同じフィリップたちの反応を見て、レティシアは微笑ましさと誇らしさを感じた。
そして車庫を出た列車はゆっくり加速しながら、郊外のイスパルナ北駅に向う。
「まだ徐行のようだけど、これでどれくらいの速度が出てるんだい?」
話に聞いていたよりは緩やかなスピードだと思い、フィリップはそう質問する。
「ここは本線区間ではないので30km/h制限です。いまも大体それくらいですかね」
「それでも馬車より速いんだからな……」
改めて、とんでもない事だと彼は実感する。
これから先の本線区間では一体どれほどのスピードで走るのか……と、彼はワクワクする気持ちを抑えきれない様子だ。
列車はイスパルナ北駅で一旦停車。
試験で設定している時間になるまで少し待機してから、再び出発となった。
今回は信号システムの試験も兼ねている。
信号は3灯式で、赤=停止、黃=減速、青=進行可を示す。
「信号と信号の間の区間を閉塞区間と言います。この区間に入れる列車は一編成だけになります」
「衝突を防ぐためだね。そうすると、閉塞区間の距離は……ブレーキの制動距離が基準となるのかな?」
「凄い!その通りです!(この人、本当に頭がいいな~)」
車庫内での説明のときもそうだったが、一を説明しただけで十を返してくるフィリップに、レティシアのみならずリディーやマティスも驚きの表情だ。
(やっぱり技術の国というのは伊達じゃないって事だね)
「しかし信号表示だけだと……見落としたりしたら危ないんじゃない?」
「その場合は自動列車停止装置が作動しますね」
「へえ、そんなものまであるんだ」
「とにかく安全であることが大前提ですから」
自動列車停止装置の参考としたのは、レティシアの前世で言うところの『打子式ATS』だ。
赤信号と連動して、レールの間に設置された装置から打子がせり出す。
その状態で列車が通過しようとすると、打子が機関車側の停止装置を叩いて作動させる。
そうすると、蓄魔力池の接続が強制的に切断され……魔導力モーターが停止するのはもちろん、自動ブレーキも同時に作動し、最終的に列車が停止するという仕組みである。
「なるほど。よく考えられている」
「実は走らせることそのものよりも、ブレーキとか信号とか停止装置の方が苦労してるんですよね~」
「俺としてはポンポンとアイディアが出てくる事に驚いたものだが」
彼女は苦労したと言うが……
いや、それは実際その通りなのだが、リディーとしては苦労の思い出よりも、彼女のアイディアそのものにとにかく驚いた記憶の方が印象に残っていた。
(……ま、それくらいの転生チートは使わせてくださいな)
本来は自分のアイディアではない事に少しばかりの後ろめたさも感じなくもなかったが、夢の実現の前には些細なこと……と、彼女は割り切ってもいた。
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