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レティシア15歳 輝く未来へ
第102話 視察2
しおりを挟むひと通り挨拶を終えたあと、レティシアたちは901型の近くまで一行を案内する。
「凄い……」
魔導力機関車を前にして、フィリップが感嘆の呟きを漏らす。
視察団の他の面々も、ただただ圧倒されて言葉も出ない様子だった。
これほど巨大な機械を、彼らはこれまで見たことがなかった。
「いやぁ、こんな巨大なものが鉄で作られてるとは……しかし、ここまで大きくする必要があるのかい?これだと自重も相当に……動かすにも相当なパワーが必要になるんじゃないかな?」
「そうですね、小型軽量のほうが良い……と思われるかもしれませんが、客車を何両も牽引する事になりますから」
「そっか、重量がなければ空回りしてしまうんだ」
「ええ、その通りです」
フィリップの問に答えたのはレティシアだ。
レールと車輪が鉄製であるため、摩擦力は比較的小さくなる。
それは転がり抵抗が少なく、効率的に大量輸送ができるというメリットに繋がるが、しかしその一方で、空転しやすいというデメリットもある。
だから動力集中方式の動力車は、ある程度自重によってレールへの粘着力を確保しなければならないのだ。
「あとは、必要な出力と稼働時間を得るための蓄魔力池を搭載しないといけないので……どうしてもこれくらいの大きさになってしまうんです」
「なるほどね。蓄魔力池はどういうものを使ってるの?」
「液体式です。魔水……純水に魔力触媒となる様々な溶媒を溶かし込んだ液体なのですが……学院との共同研究で何度も試行錯誤して、ようやく実用に耐えるものができました。今もより優れたものを開発するために研究は継続してますね」
今度はリディーが返答する。
蓄魔力池のみならず魔法的なアプローチに関しては、リディーやマティス、そしてその伝手によるアスティカント学院の協力が必要不可欠であった。
「うんうん、応用がいろいろと出来そうだね」
「はい。液体式なので、充填時間の問題もある程度は解消できました」
魔力を使い切った魔水を抜いて、魔力充填済みの魔水に入れ替えるのだ。
魔水は周囲の魔素を取り込むことで魔力充填されるが、10時間近くかかってしまうため、このような方式が考えられた。
また、魔水は魔導力モーターの冷却水としても使われている。
そうやって、機関車の周りをぐるりと歩きながら、様々な質問や議論が飛び交う。
フィリップはしきりに感心し、同行した視察団の面々は熱心にメモを取っていた。
「魔導力機関車に限らずですが、モーリス商会で開発した鉄道関連の情報は全て開示してます。設計図なんかもありますから……そちらも合わせてご覧になれば、今ご説明してきた内容もより具体的に理解いただけるかと思います」
ひと通り機関車の説明を終えたあと、レティシアはそう締めくくった。
「すごい太っ腹だよね。普通はこんなに凄いものは秘匿して独占すると思うよ?」
「まぁ、一応は特許も取得してますけど……もともとは、私自身がこれに乗って旅したい……というのが原点ですから。そのためにも、世界中に普及してもらいたいんです。うちのメンバーもそれに賛同してくれてますしね」
「そうか……いち技術者としては、その気持ちよく分かるよ。自分が作ったものが世界中で使われるなんて、冥利に尽きるよね」
「はい!」
フィリップの言葉に、レティシアは嬉しそうに応えた。
(……やっぱり素晴らしいね、彼女は。はやく開業にこぎつけてもらいたいものだ。そうしたら……)
一度は断られた婚約話。
その理由が、鉄道の開業に専念したいから……ということであれば、それが成就した暁には再びアプローチさせてもらう。
それは手紙でも伝えてはいたが、フィリップは改めてそう思うのだった。
(だけど……なかなか強力なライバルがいるみたいだね)
ちら……と、彼はリディーの方を見る。
今はレティシアと、次の視察内用について話をしているようだ。
(どうしたって僕は不利だからね。滞在中はなるべく一緒に過ごさせてもらおう)
時間が限られる中、なるべく自分の存在をアピールする。
彼女の夢の邪魔をしない範囲でなら、それくらいは許して欲しい……と、彼は思った。
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