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レティシア15歳 輝く未来へ
第101話 視察
しおりを挟むフィリップら視察団は、一旦は公爵邸の各部屋に案内されたものの、そこで長旅の疲れを癒やすこともなく早速鉄道の視察を希望した。
「ずっと馬車の旅でお疲れではないですか?少し部屋で休まれたほうが……」
「いやぁ……早く実物を見てみたいと道中も気が急いてしまって。他のメンバーも皆そんな感じでね。ねぇ、みんな?」
気遣うレティシアの言葉に対して、フィリップはそう答え、フィリップが連れてきた他の技術者たちもその言葉に頷く。
確かに彼が言う通り、誰も彼も早く実物が見たくてウズウズしている様子がうかがえた。
それにはレティシアも思わず苦笑する。
「あ、もちろん準備に時間が必要なら待つけど……」
「いえ、こちらはいつでも大丈夫なので。じゃあ行きますか」
そうしてレティシアの案内で、彼らは公爵邸の裏手にある車両基地へと向かうのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ここが鉄道に関する試験を行う拠点……『イスパルナ総合車両センター』の車庫、兼整備工場です」
「「「おおぉ~っ!!」」」
レティシアが車庫の中に案内をすると、視察団から歓声が上がった。
フィリップも少年のように(実際、見た目は少年だ)目を輝かせている。
以前は901型と幾つかの客車だけで閑散とした雰囲気だった車庫内の風景だったが……今は量産型の機関車や客車が次々と落成したことで、やや手狭な感じになっていた。
営業に向けては更に車両が必要となるため、イスパルナ北駅の構内に別の車両基地(イスパルナ北分所)の建設が始まっている。
ひとしきり驚いたあと、使節団の面々は車庫内に居並ぶ編成や、機関車の整備作業の様子を興味深そうに眺めていた。
「凄い……こんなに大規模な施設だったとは。車両も……品評会で見たときよりも迫力が全然違うね」
「品評会のデモで走らせたのは1/2スケールですからね。速度も輸送量も段違いですよ。さあ、もっと近くで見てみましょう。こちらへどうぞ~」
そう言ってレティシアは、一行を整備中の901型魔導力機関車の方へと案内する。
そこには多くの作業員に混じって、リディーとマティス、親方が何やら話し込んでいた。
彼らはレティシアとフィリップたちがやって来るのに気がつくと、居住まいを正して一行を迎える。
「皆お疲れ様。視察団の皆さんを連れてきたよ。あ、フィリップさま。この人たちは鉄道開発の中心メンバーで……」
「モーリス商会副会長、兼設計主任のリディーです。お会いできて光栄です」
「同じく魔導アドバイザーのマティスです。ようこそいらっしゃいました」
「製造部門の責任者、マルクと言います。今回は是非とも隅々までご覧になっていってくだせぇ」
三人がそれぞれ自己紹介し、フィリップたちもそれに応じて挨拶をする。
そしてレティシアは、リディーとフィリップが握手を交わしているのを見て思い出したように言った。
「あ、確かフィリップさま……兄さんと同い年でしたよね。じゃあ、リディーとも同じなんだ~」
「……え?」
何気ない彼女の言葉に、リディーは思わずフィリップをまじまじと見つめて絶句する。
外見から言ってレティシアと同い年くらいか……と思っていたところ、まさか自分と同じ年だとは思わなかったのだろう。
親方やマティスモ声こそ出さないが驚いている様子。
「っ!す、すみません!」
他国の王族をジロジロ見るなどという不作法をしていることに気づき、慌てて彼は謝罪した。
しかし当のフィリップは全く気にせずに、にこやかに言う。
「あはは、全然気にしなくていいよ。初対面の人はだいたい驚くからさ。それよりも……」
そう言って彼は意味ありげな視線をリディーに向けて続ける。
「君がリディー君か。リュシアンから聞いたけど……レティの一番のパートナーなんだって?」
何か含みがあるような言葉だ。
そしてリディーは、フィリップが『レティ』と親しげに呼んだことに眉をピクリとさせた。
「……私など、レティに比べれば大したものではありませんが。私も、マティス先生も、親方も、ずっと彼女と一緒に頑張ってきたという自負はあります」
「なるほど、良い答えだね。……君とはゆっくり話をしてみたいな」
「はぁ……」
フィリップの意図がわからず、リディーは戸惑いながら生返事をした。
(……?)
そんな二人のやりとりを……レティシアは不思議そうに首を傾げながら見つめ、親方とマティスは顔を見合わせて笑みを浮かべていた。
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