【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
115 / 191
レティシア15歳 輝く未来へ

第100話 VIP来訪、再び

しおりを挟む

 レティシアがカティアと出会い……そして暫しの別れを告げた日から数日が経った。

 その間、レティシアは商会の引き継ぎと開発部隊の移転、そして『学園』に入学するための準備で日々忙しく過ごしていた。


 そんなある日のこと、モーリス公爵家に再び来客が来訪することとなった。
 それはカティアたち一行の来訪よりも前から知らされていた事だが、正式にその日程が告げられたのだ。

 イスパル王国の北隣、ヴァシュロン王国の第二王子であるフィリップを代表とする一団が、鉄道の視察のためにやって来るのである。

 そしてフィリップと言えば……レティシアに婚約の申し込みをしてきた相手でもある。
 その話自体は既に断っており、今回の来訪はあくまでも視察目的ということではあるが……



「ちょっと気まずいよねぇ……」

「……何がだ?」

 ぼんやりと考えながら思わず呟いたレティシアの言葉に、リディーが反応する。


「あ、何でもないよ(いけない、またぼんやりしてた)」

 いつものように会長室で仕事をしているところに、リディーがやって来たタイミングである。
 フィリップの来訪を間近に控え、彼女は色々と考えを巡らせていたのだが……いつの間にかぼんやりして、リディーが入室してきたのにも気が付かなかったのだ。

(ヴァシュロン視察団の代表者が、こないだ私に婚約を申し込んできた人だ……って言ったら、リディーはどういう反応するかな?)

 そんな考えが彼女の脳裏によぎるが、それを口にすることはなかった。


 その代わりに……という訳ではないだろうが、レティシアは彼が会長室にやって来た理由を聞くことにした。

「それで……?」

「……親方からの報告だ。制御客車と、量産型の01型一号~三号機が予定通りもうすぐ組み上がるそうだ」

 彼はレティシアの先ほどの様子が気にはなったが、取り敢えずは用件を伝える。
 そしてその報告は、鉄道開業に向けての試験が、また一つ前へ進むことを示していた。


「お!そっかそっか。着々と進んでるね~。じゃあ、あの試験も開始できるかな?」

「ヴァシュロンの視察団が来る頃には出来るんじゃないか?」

「だね。より本格的な運行試験が見せられるなら、それに越したことはないよね」


 フィリップ率いる一団は、ヴァシュロン王国の正式な使節団でもある。
 かの国でも鉄道導入の可能性を模索するために、技術者のみならず様々な立場の人物がやってくるのだ。
 なので、より営業時に近い試験が見せられれば、大いに参考となることだろう。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 そして、ヴァシュロン王国の視察団一行が来訪する日がやって来た。

 もうすぐイスパルナに到着するという先触れのあと、しばらくしてからモーリス公爵邸の玄関前に複数台の馬車が乗りつけた。

 その中でも、数人の護衛騎士が周りを囲む最も大きく豪華な馬車。
 金銀の精緻な象嵌細工によってヴァシュロン王国の紋章が施された扉を、御者が恭しく開くと……本日のVIPである、フィリップが降りてきた。

 他の馬車からも、視察団一行が次々と降車して集まってくる。


 迎えるのはモーリス公爵家一同。
 以前、国王夫妻を迎えたときと同じように使用人たちが整然と並び、公爵夫妻とレティシアが前に進み出た。



「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。本日はフィリップ殿下と、ヴァシュロン王国の皆様方をお迎えできたこと、誠に嬉しく思います」

 アンリが代表して挨拶をする。
 そして、フィリップも……

「いやだな~、アンリ様。そんな他人行儀な挨拶で」

「ははは!まあ、こういうのは形式も大事なんだよ。……久しぶりだね、元気にしてたかい?」

「ええ、見ての通りですよ」


 気安いやりとりを始めた二人に、レティシアとアデリーヌは目を丸くする。
 最高位の貴族である公爵とは言え、他国の王子に対する態度には見えなかったのだ。


「父さん……フィリップ様と知り合いだったの?」

 レティシアは、兄リュシアンの親友というのは知ってるが……父もそんなに親しい関係だとは思わなかった。


「ん?あぁ……まあ、息子リュシアンの友人だからね。彼が学園生時代には王都邸の方によく遊びに来てくれてたし。ヴァシュロン王国で小さい頃に会ったこともある」

「そうなんだ……」

 事前に教えてほしかった……と彼女は思ったが、アンリは割といつもそうなので半ば諦めている。


 そしてフィリップはアデリーヌとも挨拶を交わしてから、レティシアの方に向き直った。


「やあ、レティ。3年ぶりだね。初めて見たときも綺麗なだと思ったけど……ますます美しさに磨きがかかって驚いたよ。すっかり大人の女性レディだね」

 穏やかな笑顔を浮かべながら彼は言った。
 ともすれば気障ったらしい言葉にも思えるが……彼の雰囲気がそうさせるのか、いやらしい感じは全くなかった。

 そう言うフィリップの方も、レティシアが3年前に会ったときよりも成長しているようだ。
 しかし彼は現在は22歳くらいのはずだが……相変わらず年相応には見えず、15歳のレティシアと同じくらいに見えた。

(……でも、一応まだ成長はしてるんだ。そろそろ見た目年齢が逆転しそうだけど)



 レティシアは、容姿を褒められて純粋に嬉しいと思う反面、少し複雑な気もした。
 それは、彼からの婚約の申し込みを断っている事が理由の一つ。

 そして……

(……でも、中身はビミョーなんですよ。なんせ前世は……)

 などと内心で思う。


 それから気を取り直して、彼女も挨拶を返す。

「お久しぶりです、フィリップさま。またお会いできて光栄です。今回は皆さん是非とも鉄道をたくさん見ていってくださいね。私もしっかりと案内させていただきますから」

「うん、よろしく頼むね。いやぁ、今から楽しみだよ」

 にこやかに二人は握手を交わした。



 こうして彼女は、フィリップ率いるヴァシュロン王国鉄道視察団を迎えるのであった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...