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レティシア15歳 輝く未来へ
第99話 折り返し
しおりを挟むカティアたち一行を見送ったあと。
トゥージスから折り返してイスパルナへと戻る準備が行われていた。
列車はそのままでは折り返すことができないため、機関車の付替作業が必要となる。
そのため、トゥージス駅(まだ駅舎は無く、ホームしかない)で編成からいったん機関車を切り離し、機回しして反対側に連結し直すのだ。
ちなみに、901型は設計上の都合により、レティシアの前世で言うところの蒸気機関車に良く似た形状……つまり、運転室が進行方向後方に付いている。
当然バックも可能なのだが、基本的に進む向きが決まっているということだ。
そうすると、そのまま機回ししただけでは向きが逆になってしまう。
なので、試験線の起終点であるイスパルナの車両センターとトゥージス駅構内には『転車台』が設置されているのである。
デルタ線による方向転換も考えられたが、それも手間はあまり変わらない上に、敷地が余分に必要となるため採用されなかった。
「やっぱり機回しとか方向転換とか手間だよねぇ……」
折り返しの準備作業を駅のホームから眺めながら、誰とも無しに呟くレティシア。
編成の組み直しなども考えれば、転車台は必要な施設ではあるが……通常運行時には極力そのまま折り返したいと彼女は考えている。
実はもう解決手段は考えてはいて、今はそれの落成待ちだったりするのだが。
「はやく『制御客車』できないかな~……」
「『工場』からは、ちょっと遅れてると聞いてるが……納品日には間に合わせると聞いてるぞ」
レティシアの呟きを拾ったのは、リディーだ。
彼は車掌業務をこなしたあと、親方と何やら話し込んでいた。
おそらく車掌室でも何らかのデータ収集を行っていたのだろう。
「あ、リディー!車掌おつかれさん!」
「ああ、お前もな。取り敢えず王女様ご一行を無事に送り届けられて、ほっとしたよ」
その言葉通り、リディーの表情には安堵が浮かんでいた。
「あれ?私、カティアが王女様って言ったっけ?」
「アンリ様から聞いた。親方もな。多分、失礼がないように……ということだろう」
カティアはもともと平民として暮らしてきたので、礼儀うんぬんで目くじらを立てる事はないだろう。
リディーたちもレティシアの来客とあれば、それなりの対応もできるが……念の為ということなのだろう。
そして、そもそもカティアが王女であることはまだ公には出来ない情報ではあるのだが、リディーも親方もアンリからの信頼は厚いので教えても問題ないと判断したのだ。
さて、そうしているうちに機関車の方向転換と再連結作業が終わったようだ。
いつの間にかトゥージス駅の周りには、近隣住民らしき人々が多く集まっていた。
最近は試験のため何度もトゥージスまで列車がやって来るのだが、まだまだ珍しい光景のようだ。
もともと黄金街道の宿場町としてそれなりに栄えていたが、ここは特に何の特色もない街だった。
しかし今は鉄道工事のための拠点にもなっていて、多くの作業者が日増しに増えてきている。
いまトゥージスの街は『鉄道の街』として、にわかに活気づいているのだ。
「よし、じゃあイスパルナに戻ろうか。リディーも、もう車掌する必要ないでしょ。一緒に乗ろ?」
「ああ。帰りはゆっくり車窓を楽しませてもらうか」
「うんうん!一等車を二人占めなんて、今しか出来ないもんね~。じゃあ親方!帰りもよろしく!」
レティシアが大きな声で運転室に声を掛けると、ピィーッッ!!と警笛で返事をされた。
二人は顔を見合わせてクスッと笑ったあと、二人だけで一等客車へ乗り込んだ。
「いや、ほんとに贅沢だわ。折角だからコンパートメント使わせてもらおっか」
一等車にはボックス席や二人がけのクロスシートのほか、簡単な仕切りで区切られた半個室と、完全な個室がある。
全ての席種が一車両に備わっているわけではなく、半個室や個室があるのは一部の車両のみだ。
レティシアが個室の扉を開けると、そこには二人で使用するには十分すぎる広さの部屋。
本来は4~8人くらいの小団体での利用を想定した部屋なので当然だろう。
デザインは車内全体で統一されてるので、雰囲気は他の区画とそれほど変わらない。
だが、他のものより大きく取られた窓から見える景色は、さぞかし見応えがあることだろう。
「シート……と言うかソファも、ふっかふかだね~」
彼女の自室のものにも引けを取らない高級品である。
レティシアは慣れたものだが、リディーはこわごわと言ったカンジで腰を掛けた。
「俺はただの平民だからな……仕事じゃなければ車両に立ち入ることすらできなさそうだ」
「あはは!そんな事ないでしょ!リディーはモーリス商会の副会長サマなんだよ~?」
「だから『仕事じゃなければ』って言ったんだ」
「そっか。でもさ…………」
と言いかけて、レティシアは黙り込んだ。
「?……どうした?」
「ううん、何でもない。ほら、発車するよ」
「あ、ああ……」
それきりレティシアは窓の景色に目をやって、黙り込んでしまった。
リディーはその様子が少し気になったが……自分も、ゆっくりと流れ始めた車窓を楽しむことにした。
(…………私、なんか変なこと言いそうになった)
それから暫くの間……彼女は車窓を眺めながらも、景色はほとんど目に入らなかった。
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